鳥なき里のマイコン屋(20) Armは栄える、Hは枯れる。ルネサス

ルネサスエレクトロニクスは、日立製作所の半導体部門と三菱電機の半導体部門(全部じゃないけれど)を合体させて、そこに後からNECの半導体部門だった組織をさらに合体させた会社、という認識で大筋間違いありますまい。ちょっと大雑把すぎて申し訳ないですけれども。元の3組織のいずれもが、日本を代表する「マイコン・メーカ」であったので、合併当初のMCU製品ラインナップは、市場的にも機能的にも重複しまくりに見えました。しかし、NEC半導体の合流からでも、はや10年近く、MCUの製品ラインは随分と集約されてきたようです。

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ルネサスのマイコン製品の型番を見るときはまず頭文字を確認するべきです。

目出度いルネサスの頭文字「R」をいただく型番

は、ルネサスになってから企画された製品に他なりません。それに対して頭文字にRをいただかない型番は、旧組織のそれぞれの時代に企画されたものでしょう。分かりやすいことこの上ありません。

さて、久しぶりにルネサス・マイコンのホームページへ行ってちょっとびっくりするのは、「製品ラインアップ」の図に3シリーズのロゴしか置かれていないことです。

  • RL78
  • RX
  • RZ

この3シリーズが会社としての「推し」ということでしょう。過去の膨大かつちょっと混沌としていた製品群を知っていると随分思い切って整理したものだと思います。(後でそうでもないことに気付きましたが)

RL78は、78という番号からして、旧NECの78Kの流れに見えます。しかし、流石はルネサス、CPUコアはNECの78Kから、周辺装置は三菱系のR8Cからとってきたものだそうです。16ビットのコアといいつつ、どちらかと言うと8ビット的な小規模な方向からカバーする系統で、「推し」の3シリーズのうち一番ローエンドが守備範囲なようです。

RXは、ルネサス独自コアの32ビット機です。内部的にはいろいろあったのかもしれませんが、元組織からのしがらみなく、ルネサスの屋台骨を背負うべく新たに作り出されたもののようです。これがミッドレンジを担うようです。

そして、ハイエンドのRZはArmコア機です。ルネサスマイコンもいまや最上位の推しはArmになっていました。ただ、このRZシリーズは、いわゆる「ROM, RAM積んだマイクロコントローラ」=MCUという図式から外れています。大容量のRAMは積んでいるのですが、ROMレスです。しかし、ターゲットは組み込みです。いわゆる「Armコアのアプリケーションプロセッサ」が狙うような市場とはちょっとずれています。MCUのお仲間として並べているルネサスの方針は納得できます。

この「推し」の3シリーズの下に小さくリンクが貼ってあるのです。

  • RH850
  • Renesas Synergy
  • Other MCUs and MPUs Products

RH850は、元々、NECの32ビット機 V850の流れから出てきたものだと思うのですが、完全に旧V850系統とは一線を画しています。車載用途専用マイコンになっています。これはこれで会社としての「推し」に入っているシリーズだと思います。しかし「自動車屋さんにしか売らないもんね」という明確な意志があるので、一般向けのRL78、RX、RZとは並べたくなかったのではないか、と想像します。一般向けの機種ならば、秋葉原で評価ボードも手に入るでしょうが、自動車向けの機種は「その道のプロ専用」の筈。多分、「素人」には売ってくれない。

次のRenesas Synergyというシリーズは、ちょっと変わったコンセプトのMCU群です。用途としてはIoTなど狙ったシリーズに見えます。内部に複数のファミリが存在するのですが、それらに属するMCU達が、ソフト的にもハード的にも上位互換というか、マトリョーシカ的な仕様の構造になっていて、何か足らなくなったら上位機種に簡単に交換できるようになっているようです。なかなか面白いコンセプトなので、機会があれば戻ってきてこれだけをもっと調べたいと思います。なおコアはArmです。

そして、最後の Other MCUs and MPUs Products というところこそ、表に見えない残りのマイコンが全て押し込められている場所でした。NECオリジナルの78KやV850あり、三菱オリジナルのM16やM32あり、そして、日立のH8、SHとかって一世を風靡した「名機」が並んでいます。中にルネサスのRをいただくR8C(コアは三菱系)も押し込められているのは、NECの78KとR8Cを「混ぜて」RL78にしたので、元のR8Cは78Kともどもここに送られた、のではないかと想像します。表面的に「保守品種」のような肩書は目立つところに書かれてはいません。しかし、各機種に進むと「以前から買っているお客さん向け」で「新規設計には使うな」という趣旨のことが書いてあったりします。ここの押し込めらている機種たちはいずれ消えゆく運命に見受けられます。登場したときには、まさか「呉越同舟の梁山泊」的なこんなページに仲良く並ぶことになるとは思いもしなかった流転でしょう。マイコンおたく的にはとても豪華なラインアップなんですが。それにしても元日立の機種の影が薄いのはなぜ?

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