鳥なき里のマイコン屋(23) Maxim Integrated, セキュアとウエアラブル

「マキシム」というと「コーヒー」のブランドを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、半導体業界では、Maxim Integrated社に決まっています。この会社に対する業界内でのイメージは「アナログの会社」でしょう。これまた、一般では「アナログ」というと「デジタル」より遅れているようなイメージを持たれるかもしれません。しかし、半導体業界では、「アナログが強い」=「ガッツリ儲けている」というイメージです。デジタルは誰でもできますが、良いアナログは限られたところでしかできません。そんなMaxim社にもデジタルなマイコン(マイクロコントローラ、MCU)はあるのです。

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通例によってMaxim社のMCUコアの一覧を御覧いただく前に、私の仮説

Armのお供に8051説

の検証状況をお知らせしておきましょう。お時間があったらこちらのページをご覧いただくと良いのですが、地域性があり

米国と台湾では成立、欧州と日本では不成立、中国本土はまだら模様

です。全地球的には成り立たないけれども、アメリカと台湾では成り立つ「半天下」ルールです。さて、本日、取り上げさせていただくMaxim社は米国本社ですから、成り立つ筈です。Maxim社のホームページへ行って見てみましょう。すると目立つところにはArmしかありません。すっきりしたものです。それもMCU向けとしてはちょっと高級なArm Cortex-M4搭載の機種ばかりが並んでいます。(MCU向けのArm Cortex Mについてはこちら)しかし、ちゃんと探せば出てきます。コアの一覧表をごらんください。

8bit8051
16bitMAXQ20S
32bitMAXQ30
32bitArm Cortex-M4
Arm Cortex-M3
Arm926EJ-S
Arm922T

ほらね、という感じで8051が隠れていました。説は成立。そしてArmの影には、Maxim自社コアのMAXQシリーズまで隠れています。また、同じArmでもArm926EJ-S、さらにはArm922TといったクラシックなArmベースの製品も存在します。なーんだ、どこかの会社と同じじゃん、と思うとまったくそうじゃないのが、Maximのマイコンの特長じゃないかと思います。

刺さる用途には半端なく刺さる

まずは、一番小さい8051を見てみましょう。この8051は、CPUの命令そのものはオリジナルと何の違いもないもののようですが、特徴は「セキュア」だという点にあります。まず、プログラムが読み取られないように暗号化されています。例えばMCUをワンタイムの暗証番号を生成するような小さなガジェットに使うことを考えてみてください。蓋をあけられて、マイコン開発装置でMCU中のプログラムを読み取られたりすると暗号が破られてしまいます。まずはプログラムが暗号化されている、というのは必要でしょう。しかし、それだけではないのです、この8051コアは。覗き見を検出すると、自ら自分の中のプログラムを消去してしまう機能まで内蔵しています。(当然、消去可能なプログラムメモリになっています。)なかなか徹底したものです。このセキュア路線の上位機種はArmになっていて、製品としての暗号化モジュールを作るために、マイコン自体も暗号化、セキュア化を徹底しているようです。

どこのマイコンメーカーも特長だして差別化しようとは思っている筈ですが、なかなか徹底できないのではないでしょうか。その点、Maxim社は良い感じに得意な分野に絞りこんでいるのが分かります。MAXQ20Sなど16ビット自社コアは、赤外線通信向けのみ。地味な分野ですが割り切りは大事でしょう。売りの「セキュア」ともう一つの「売り」が「超低パワー」であるようです。しかし、超低パワーは各社凌ぎを削っていて、ただ、電力小さい、というだけではさほど特長がでるとも思えません。そこでMaxim社としては、超低パワーのマイコンと自社お得意のアナログ系のデバイスとのコラボレーションが生きるところ、

ウエアラブル

を攻める方針なようです。しかし、ウエアラブルを攻めるために、ただ、アナログICとマイコンを並べて見せるだけじゃ芸がありません。アナログICをうまく使いこなすのは難しいし、無線もいるし、ファームウエアも要ります。システムとして成り立たせるのをお客まかせにしていたら、なかなか売れるところまでたどりつきません。その点Maxim社はぬかりありません。それに対する良いソリューションがいくつもならんでいるのです。数ある中で、個人的な経験から以下をチョイスしてみました。

ヘルスセンサープラットフォーム

まずこの小さなボードで、心拍数の測定が可能です。ランナーの方はご存知かもしれませんが、胸につけるハートレートモニタがありますが、そういったものが簡単に実現可能です。そして流石にアナログ得意のMaximだけあって、心拍数(ハートレート, HR)だけではなくて、ECG(心電図波形)までとれるフロントエンドも搭載しています。スポーツ向けからちょっと医療的な部分まで持ち上げられそうな感じです。また、ハートレートモニタ側の回路でSpO2(血中の酸素濃度)の測定まで可能だということです。凄い。当然、温度センサ積んでいるので皮膚の表面温度も測れるし、3軸の加速度センサ、3軸のジャイロセンサも接続できるので、身体のモーションもとれます。ついでに圧力センサも搭載しているので、気圧から高度を推定することもできるでしょう。無線はBTLE。モバイル機器に接続してデータを送るのは簡単だと思います。あえて難癖つけるならば、仕様がゴージャスすぎてちょっとお高いんじゃ、という点です。しかし、これはあくまでデモボード、実際は必要な機能に絞り込んでね、ということでしょうから問題になりませんね。

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