鳥なき里のマイコン屋(24) ABOV Semiconductor, メモリの国のMCUベンダ

Gartnerから2018年の半導体売上高のランキングが発表になっていました。トップ10から日本企業が消えた、というニュースを見た方も多いのではないかと思います。実際には東芝メモリが東芝デバイス&ストレージと分割してカウントされるようになったためとは言え、往年の日本半導体を知るものにとっては「悲しいお知らせ」でしょう。一方、御隣は、Samsung Electronicsが首位、SK hynixが3位と、がっちりランキング上位を占めています。まったくもってメモリのお陰です。しかし、ことマイコン、MCUとなるとほとんど存在感はありません。Samsungは、スマホ向けのArmベースのSoCプロセッサは有名ですが、MCUは米IXISに出してしまったようです。そんなメモリの国にも、マイコン屋はいたのです。

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韓国で、ほとんど唯一ともいえるマイコン(シングルチップ・マイクロコントローラ、MCU)ベンダが ABOV Semiconductor社です。ここの会社のホームページで製品を調べると8ビットと32ビット製品、それも

Armコア と 8051コア

が目立つところに並んでいます。なあんだ、「Armのお供に8051説」が成り立つ米国、台湾系と変わらぬ品ぞろえか、と思ってしまうのですが、そこで追及の手を緩めてはなりません。この会社、もう少し奥が深いのです。なんと、

8ビットの製品ラインを穿っていると4ビットが出てくる

のです。今時、4ビットとかわざわざ宣伝するのも恥ずかしいから奥の方にちょこっと置いておいたのかどうかは知りません。どこの会社も売りたい製品ラインを目立つところにおいて、そうでないものはひっそりとしたところに置くのはよくあることです。しかし、4ビットMCUファン(そういうものがあったれば)の一人として、4ビットが未だ健在という1点だけで、マイコンの歴史と伝統が感じられてしまうのです。

ArmコアのMCUだけで商売しているぽっと出のマイコン屋とは違う

です。そうであれば、まだ奥がある筈。そう思ってさらに掘り進んいくと分かります。この会社の4ビット系統は、大きく3系統もあるのです。なかなかの充実ぶりです。

    • ADAM2 とよばれるコアの4ビットマイコン
    • ADAM4 とよばれるコアの4ビットマイコン
    • G400とよばれるコアの4ビットマイコン

それぞれ開発ツールも異なるので、この4ビット3系統が独立した製品群であることが理解されます。そして8ビット系統も調べてみると、やはり3系統あるのです。

    • ADAM8とよばれるコアの8ビットマイコン
    • G800とよばれるコアの8ビットマイコン
    • 8051系コアの8ビットマイコン

名称から見ても直ぐに想像つくと思いますが、ADAM2/4/8は「兄弟」機種で、それに対してG400/G800は別な「兄弟」のようです。これまでの調査で、多くのマイコンメーカーにおいて、会社の合併などの結果、複数の製品ラインが並び立つ状況を見てきました。そうです、ABOV社においてもこれは例外ではありませんでした。2011年にEtachipsという会社と合併していたようです。このEtachipsという会社は、リモコン向けのマイコン屋さんだったようです。すると、リモコン向けの製品ラインで目立つ ADAM2/4/8 がEtachips起源の系統なのではないかいな、と想像できます。それに対するG400/G800の兄弟がABOV社のもとからある製品ラインでしょうか。ハッキリした証拠がないので、もしかすると逆かもしれないのでご注意を。これらの系統に対して、Web上の扱いからは、

今後のローエンド向け8ビット製品は8051コア

だものね、という「推し」を強く感じることができます。ただし、ADAM系もG系もまだまだ現役で流れているので、直ぐになくなったりはしないという感じでしょうか。ともあれ、数少ない4ビットマイコンが生き延びていて目出度い限りです。

下の方の込み入った事情とは異なり、32ビットは最初からARMだったようです。主力は、ArmベースのMCUの定番ともいえる以下の3種のコアでした。

Arm Cortex M0/M0+/M3

ここで、ARM と Arm とキャピタル・ロックを使い分けたことにお気づきの方は鋭い。タイポじゃありません。この会社のARMへの取り組みが最近になってのポッと出じゃないことが分かるからです。

    • ARM7TDMIベースの製品がある
    • ARM720Tベースの製品まである

ARM7TDMIは、20年以上前にArm社が携帯電話市場で大ブレークした当時の大ベストセラーです。当時は、ARMと大文字で綴っていたのでした。また、ARM720Tは、非力だったARM7TDMIに対してキャッシュをつけて性能を補ったものです。同時代のARM7TDMIと比べると、かなりレアなアイテムと言えましょう。この辺のコアが出てくるということは、この会社のArmに対する取り組みは、最近になってからのこれまた「ぽっと出」なものではなく、ざっと20年近くは「やっとる」証拠と言えます。メモリの国では肩身が狭いかもしれませんが、頑張っていただきたいものです。

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