土木でエレキ(6) 打音検査、ICT化AI化、なにがやりたい?

このところ、素人のくせにコンクリートの打音検査の件に突っ込まさせていただいております。素人ゆえに、プロの人が何を期待されて、そのICT化というべきか、AI化というべきかをしたいと考えているのかはよく探っておかねばなりますまい。いろいろ調べていくと2つの目的が浮かんできます。

第1の目的は、固く言うと「属人的な要素を排し、客観的で再現可能な」判定をしたいとまとめられると思います。調べていると、

調べた人によって問題個所の箇所数が変わる。以前にあった筈の問題が無い。

などという事例があるようです。調査の継続性、信頼性という面で、調べる人次第な要素が残る検査が問題となっていることが理解されます。その上、近年クローズアップされている

熟練した作業者の減少

という問題もあります。熟練した作業者の「耳」を持ってこないと「聞き落とし」がでるような方法では、「ザル」な検査になってしまうのが恐ろしいということにまとめられるでしょう。本来、2つは独立した要因だと考えますが、現実的には複合しています。ともかく、人の耳に頼らずに客観的な判定を出したい、というのが要求事項だと考えます。この音から判定する部分を機械化(自動化)するためにAIの手法が浮上してきたのだと思います。しかし、1足飛びにAIに行ったわけでもないようです。

コンクリート対象の打音検査でも結構特許が出ているので、それをいくつか読んでみました。10年以上前のもので、

機械的に回転するものを打ち付けて、その打音の音圧から判断

というパターンが目につきます。一定のインパクトを維持するために打撃側に工夫をした上で、音の強弱から知ろうというのです。しかし、強弱で分かるのかいな、とド素人は疑います。想像するに、対象の「ブツ」の形状も変化するし、厚みやら、鉄筋の位置、深さ、太さ、コンクリートの配合、骨材に使っている砂利の材質、周辺の付属品の存在、現場の音の反響の具合など、影響しそうな要素はいくらでも列挙できます。

音圧だけって、そりゃザックリすぎるのでは

と思うんであります。当然、業界の方もそう思われたのでしょう。鉄道総合技術研究所 特願2001-231938 から引用させてもらいます。

打音継続時間xと打音周波数yと打音強さzからなる打音分析データ(x,y,z)を算出し、打音分析データを3次元の打音解析空間にプロットして得られる打音曲面の形状を判別

測定するデータが3軸になりました。大分、高度化したかに見えます。ただ、判別という部分、どうするつもりなのか、いまいち?です。これが、最近の特許では大分アルゴリズミックな部分に突っ込んでいきます。2016年出願、

特願2016-139826 ポート電子

打音からスペクトラムを得た上で、k近傍法で診断しています。k近傍法は、機械学習としてはごくシンプルな方法ですが、結構、機械系などの異常診断に用いていられている定番的な方法じゃないかと思います。通例は機械学習(Machine Learning)分類ですが、最近、なんでもAIと2文字で説明を済ませる人がいるようなので注意が必要かと。DNN系等とは毛色が違う、どちらかというと人間には分類の理由が腑に落ちやすい計算方法じゃないかと考えます。続いて、2017年出願、

特願2017-237453 構研エンジニアリング&京都大学

予め「スカ」をいれた様な供試体をつくって音響データを測定し、ウエーブレット変換かけたものを自己回帰モデル処理から複素PARCOR係数を求めておいて、現場で測った係数と比較するのだそうです。ムツカシ~。実際、計算したことはないですし、現実にどのくらいうまくいくのかも分かりませんが、ともかく判定の方法は「客観的」で「再現可能」です。

特許を探ってみても、今の時点ではAIを前面に出しているものはありません。そんな現時点で、打音検査でAI応用というと、産業総合研究所と首都高技術がコラボしたのケースが一番かもしれません。産総研の「広報雑誌」にこの記事が載っていたので、以下にリンクを貼り付けておきます。

「人工知能で構造物の異常音を検知」産総研Link No.19 2018 July

産総研といいつつ「ビジネス・モデル」という取り上げ方なので、人工知能(AI)といいつつ、詳しい方法は書いていません。根っ子は画像系のパターンマッチ技術にあることくらいが書かれているだけです。しかし、素晴らしいのは、AIで異常を検出(正常範囲に収まらないものが異常という考え方)するだけでなく、ごく小さな装置を壁に立てかけておけば、普通の打音検査用のハンマーで人間が適当に叩いた位置を、その音響から決定できるという機能です。

適当にハンマーでたたいていれば、「異常度」マップが出来上がる

そうです、AI化というか、ICT化の第2の効用こそ、

カッコいいビジュアルのレポートをコンピュータが一瞬で作ってくれる

というものです。1点、1点、図面にデータを手で落としていくような作業は不要になることです。実際、かねてより関心しているのが、土木業界での「エビデンス」の念入りさです。何か調査とか、修正とかする度、小さな黒板に日付とか、担当者とか、場所やら状況など書き込んで、現場の横に置き、それどころか担当者ご本人が現場を指さしながら写真に納まります(今でもやっているのでしょうか)。電子デバイス業界ではまず見ない習慣ですが、昔、初めて見たときは感動でした。今はどうか分からないですが、その写真、といって広い現場です、数百枚もあるものをレポートに添付するため、分類し、CD-Rに焼き込んでいるのを目撃しました。大変な労力だと思います(検分する方も大変そうですが)。その点、コンピュータに入ってしまえば、図面の上に測定値をマップしてビジュアル化するなど一撃(ま、最初だれかがプログラミングしないとなりませんが)。ビジュアルなグラフィック満載、分かり易くて見栄えの良いレポートなど瞬時に出力できます。担当者の印鑑押した表紙くらいはつけないとならないでしょうが。私的には密かに、

実は、こちらの方が期待大きいんじゃないの?

と思ったりもします。

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