IoT何をいまさら(10) AMS、センシングへの道

「IoTはデバイス・ビジネスではない」などと言われております。その心はデータを処理して「価値を創出」する側が利益の大半を持っていくのだということだと思います。それでも、デバイス側から取り組んでいらっしゃる「プレイヤー」様あり、かつまた「うまく行っている」場合もままあり。そんな「プライヤー」様を巡るシリーズとして、今回は、AMS社を取り上げさせていただきたいと思います。

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ぱっと見、AMS社の「今」はセンサー屋です。スローガンを引用させていただくと、これです。

Sensing is life

日本語では「センシングは生活そのもの」となっておりました。細かい製品説明などを読んでいくと “IoT” という言葉もそこかしこに使われているのですが、表立って大きく “IoT” などという言葉を全面に出して、流行に迎合しようなどとしていないところが、あくまでセンサ屋さん、という雰囲気を出しています。しかし、ひと昔以上前のAMS社を知っているならば、

半導体会社

というイメージだったと思います。確かに、一部センサも手掛けていたと思うのですが、当時は “Sensing is life” と言い切るほどにセンサばかりではなかった筈。

だいたいこの会社、半導体会社としてのロケーションからしてちょっと変わっているので印象深いのです。今では “AMS” という名で全世界展開していますが、元は、

Austria micro systems

という名であったのです。それどころか、会社の創業には American micro systems という会社が出資していた、ということであり、「アメリカンな会社」の「オーストリアの合弁子会社」が、成長して大きくなって、AMSになった、という経緯です。一般には、欧州オーストリアは半導体の国だ、とは思われいませんが、この会社があるだけで、半導体業界にプレゼンスを示していると感じられます。

多分、この会社もかつて「悩める」半導体会社の一つだったのじゃないかと想像しています。数量が出てナンボの主流の半導体製品において、

先端の半導体製品≒微細なプロセス≒大口径のウエファー製造ライン≒投資大

という公式が成り立ちます。すると、比較的小規模で、あまり大きな資金投下ができず、微細なプロセスに必要な、かつ、大口径ウエファーを処理できるような高価な製造装置をそろえられない半導体メーカーは、勝負にならない、ということです。そこで、そういう境遇の中小の半導体企業の多くが考えたのは、それほど微細なプロセスでなくても、また、大口径のウエファーでなくても収益があげられそうな

  • アナログ製品
  • パワー系の製品

にフォーカスするという方向でした。でも、アナログは回路が難しいです。そしてそれ以上に、プロセスやトランジスタの性能にも厳しいです。作る度に特性がばらつくような製造工程では、高く売れる精度の高いアナログなどよう作り切れん、というわけです。パワー系にはさらに、大電流を流すための立体的なトランジスタ構造を作れる製造技術が必要になる、といった要求もあります。それらが出来てようやく、戦いの土俵に乗れるわけです。しかし、性能差はある意味デジタル系より明確、スペックの数値一つで勝敗が分かれる世界です。思いついたはいいけれど、厳しい競争に勝ち抜けた会社はごく一部じゃないかと思います。

比較的小規模な半導体会社として出発したAMS社も、当時は、アナログ、パワー、RFといった分野で生き残りを図ろうとしていた会社群の内の1社じゃなかったのかと思われます。それなりの技術は持っていたのだと思いますが、でも、ここにとどまっていたら、AMS社の成長はなかったかもしれません。

センシングのために特化

高精度のアナログ回路とそれを支えるプロセスは、センサを使った計測に使えます。また、パワー系の3次元的な加工技術はMEMSに通ずるものがあったのではないかと想像されます。そういった半導体の製造技術をセンシングに適用しただけでなく、いろいろな要素技術をセンシング向けの方向性に特化させた形跡があるのです。例えば

VCSEL(面発光レーザ)

です。ふつう、VCSELを開発したら大抵の人が

光ファイバにつなげて通信に使おう と思う

筈です。今やデータセンタなどの高速ネットワークは光ファイバだらけ、市場は確実にあり、大きく、成長しています。でも、光ファイバ向けは競争も激しく、強力な会社もままあって、VCSELだけでシェアとるのは簡単でなかったでしょう。通信狙ってVCSELを手掛けたけれども物に出来なかったところ、実は結構あるような気がします。ところが、AMS社がVCSEL使ってやったのは、光ファイバで通信ではありませんでした。

  1. ストラクチャードライト(3次元の計測)
  2. TOFセンサ(距離計測)

などセンシング用途です。さらに、光を発する側のVCSELだけでなく、受けるためのCMOSセンサ、途中の光学系(レンズ、フィルタ等)やら信号処理やらまでトータルで扱うことを目標にしたようです。

異なる要素技術を複数組み合わせたソリューション

というところにまで仕上げてくると、

コンペティターの数は一気に減る

筈です。ここ10年くらいのAMS社というのは、センシングに向けて突き進んだ結果、各要素技術の相乗効果というものがいい方向に回っていたと想像できます。結果、

中小半導体メーカ ではなくて 大手センサメーカ

になり得たのではないでしょうか。日本の中小半導体メーカもこういう展開ができていれば、日本半導体の凋落もかなり違ったものになったんじゃないかな~といまさらながら思います。

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“IoT何をいまさら(10) AMS、センシングへの道” への1件の返信

  1. 非常に含蓄のある記事ですね!
    私等はVCSELの創成期ころから台湾メーカのVCSELを購入して日本で販売していました、販売を始めた時期が早すぎたのか、某大手企業にVCSELチップをサンプルとして大量に購入して貰いましたが、某大手企業も事業化がならず、担当責任者は消えてしまいました。
    異なる要素業種技術を複数組み合わせたソリューション、こんな感覚が当時あればその担当者も消える事はなかったと感慨深く思いました。
    日本人は決まっ事をかみ砕き大量に作る事は巧くても想像力に欠けていますね!
    日本の多くの大企業の組織は、それを許さないので、それが日本の電機業界の地盤沈下になったのですね!

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