介護の隙間から(42) 杖にみる心持ちのすれ違い

3つ前、第39回で「歩行を助けるデバイス」という投稿を書いたときに、その最初の項目として杖を上げさせてもらいました。もっともプリミティブ、あるいはファースト・チョイスということで、3点ほど「選択のポイント」を列挙しました。が、しかし、このほど、その選択のポイントなど、所詮、杖を必要としないものの勝手な意見だということがあからさまになってしまいました。その「最重要な」選択のポイント、デバイス屋にはまったく想像もつかない部分にありました。

まず杖を必要とする人を考えましょう。そのような方々は、歩行に何らかの問題を感じているとは言え、比較的軽い「問題」の方々だと言えます。つまり、

自立歩行が可能

な人。歩行介助のための用具、歩行器が必須とか、あるいは車椅子が無いと移動できないというほどの人ではなく、あくまで自分の両足だけでも歩ける人が、補助的に使うための用具であります。そこで、前回あげたポイントをおさらいしてみると、

  1. 対地面。自立可能か否か。(杖の中には手を離しても単独で直立していられるような自立性を担保したものもある。自立不能な通常タイプでも対地グリップ、摩擦力という点だけ見ても選択範囲は広い)
  2. 杖を握る側。手とのグリップ。(スポーツ、登山向けなどのステッキと、歩行介助用で大きく異なる部分。)
  3. 杖の長さ。(伸縮、折り畳み、固定長など。)

という3項目。御覧いただければわかるとおり、ほとんど物理的な形状についての問題ばかり。当然、お値段というものは別格で存在しますが、他にも思いつくのは、杖の自重、耐荷重、曲げ強さなど、物理的な性質ばかり。基本、スペックで語りたいデバイス屋、もともと工学系。しかし、そんなものは「チョイス」としては3番目以降なんだと、一気に吹き飛ばされます。

要介護のおばあさんが、病院で馴染みの看護師さんに新しく買った杖を見せます。

「いい色だねー」

「いい色でしょー」

こんな感じ。そんな色の杖なんて持ちたくないなどという話も漏れ聞こえてきます。はっとして、待合室をば見渡せば、花柄の杖の方もいる。

色とか、柄とか、そこかい!

実際、杖の売り場に行って眺めてみれば、「物理的な機能」を考えるとほとんど差が無いように見える製品が、

色と柄で4~5倍も値段付けが違う

ように見えました。確かに、これは良いねと見える柄はお高い。中にはヒョウ柄なども(大阪向け?)安いものは実用本位だけれど、いかにも単なる棒という感じで可愛いところはなし。「色、柄」ファッションの問題こそ、ファーストチョイスだったようです。介護は、気持ちの問題だ、ということを忘れてましたね。反省。

とは言え、デバイス屋としてみると、杖に電子デバイスの出る幕を見てしまいます。あの棒きれにセンサでもつけてやったら、歩行(とその障害)に関する情報がとれるだろうなと。3軸の加速度センサとそのデータをスマホなり、スマートウオッチなりに送信できるような装置を杖に装着すればいろいろできるのではないかと。実際、ちょっと調べてみると直ぐにそういうものが見つかりました。

私が思いついたの方向を既に実現していた感じなのが下の提案。センサも加速度だけではなく複数併用。すでにより優れたものが考案済でした。

歩行リハビリ支援のためのセンサ装着杖を介した歩行動作認識方法の提案

それに対して、道具立ては似ているような気がするけれど、人間そのものに対するセンスではなく、外界をセンスして人間に知らせる方向なのがこちら。

杖センサを用いた安全歩行支援

そして、GPSを使い、徘徊検知的な方向性を向いているのがこちら。

高齢者見守り「IoT杖」市販の杖のクラウド連携

ただね、先ほど述べさせていただいた「最大」の選択ポイント、まともに取り上げている感じのところは無し。いっちゃ悪いけれども最後のもののサンプルの写真、多分、絶対「いい色でしょー」とかにはなりそうにない。勿論、狙っているのは杖の販売でなく、クラウド使った「サービスビジネス」であることは重々承知しておりますが。使う人が見ているのはどうもそこではないのだ。

杖一つ見ても、何を見てるのか、心持がすれ違っている感じがいたします。

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