IoT何をいまさら(41) 高級スポーツウオッチの脈拍計測

お友達のKさんの「おすすめ」でバーゲンで買った約2000円のスマートウオッチ、「脈拍だけじゃない血圧も測れるぞ」とか、「歩数も当然」とか、いろいろ書いてしまいました。そうしたらお友達のSさんから、今度は高級スポーツウオッチのセンサ部を見よ!とばかりに写真を頂いてしまいました。この業界の老舗Polar社のスポーツウオッチの裏側写真です。一目みれば2000円スマートウオッチとの違いが分かります。そのすごさの一端を勉強してみました。

Polar社は、日本ではカタカナ表記で「ポラール」と自ら名乗っておられます。欧米ではそのまま英語式に「ポーラー」的な発音で呼ばれることも多いじゃないかと思います。スポーツウオッチ業界(スマートウオッチなどというカテゴリが存在する以前から存在していた)の老舗、巨頭、大立者と言って良いでしょう。北欧はフィンランド、それも北極圏まで目と鼻の先といっていいオウル市に本拠地がある会社です(フィンランド全体が北方にあるのでフィンランド地図の真ん中くらいな感じですが。)まさにPolarな感じのロケーション。まずは、Sさんから送っていただいたPolar主力機種のIgniteの背面写真はこちら。

どうです、このモノモノしさ。大きな丸い金属コンタクトはUSB接続用だそうです。まずは、十字に5個セットされたLEDが目に留まります。それも見れば2種類ずつ実装されているのが目につきます。測定に2波長使っているということでしょう。フォトセンサらしきものは、LED間に計4個みつかります。4チャンネル測定か!

比較のため、バーゲンで買った無印スマートウオッチの背面写真を再掲載しておきます。

LEDは中央右の1個、緑色です。フォトセンサは左側の小さいやつ。右の金属コンタクトは充電用です。

道具立てとして、あるべきものはある

という感じですが、Polar見た後だとヘビーデューティーさに欠けます(個人の印象です。)ま、仕方ないか、お値段がお値段だし。

Igniteの裏面のLEDが光っているところも写真を送っていただけました。緑色。もう一つは赤系統の色らしいです。そして、点滅しているとのこと。点滅しているのは測定時にチャネル間の干渉を防ぐためなのでしょうか、それとも単純に消費電力削減狙いなのでしょうか。

いろいろ疑問が湧いてくるのですが、今回は、複数チャンネルを使った測定方法について調べてみることにいたしました。

Polar社の製品だし、まずは、Polar社の特許で、それらしいマルチ・チャンネルで脈拍を測定しているようなものはないかいな、ということで検索してみました。ありました。United States Patentであります。

US 6,312,387 B1 Nov. 6, 2001 METHOD AND APPARATUS FOR IDENTIFYING HEARTBEAT

かなり古い特許です。センサとしては実施例でPZT系使ったりしているので今日的ではない感じです。当然その後もPolar社はその改良版というべき発明を申請しているわけですが、これは古いだけに測定の根本の部分に近いように思われました。本当は、特許図面を2,3コピペできれば分かり易いのですがやめときます。以下、虎ノ門富田特許国際事務所さんのページから引用

特許明細書や図面などの記載内容というのは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ですから、これは当然に著作物であって、著作権法で保護されるものであります。

ということなので、図面なしで説明します。どうせパテントはWebで誰でも読めるので興味のある方は原本にあたってください。

まず、複数チャネルでの測定について、最初の印象でSさんに嘘をついてしまったことをお話しなければなりますまい。複数チャネルを使うことで「ディファレンシャル的」な外乱信号を抑制して「コモン的」な脈波信号を取り出せるのかな、と嘘をつきました。この特許みるとそれは大嘘でした。

外乱信号が「コモン」、脈波はチャネル毎に異なる

というのが基本でした。腕の振りとか外乱は、全てのチャネルに同様に乗ってくるですが、脈波そのものは、血管との位置関係などがズレたりするので、測定ポイントで大きく異なります。

もう一点は当たってました。

複数のチャネルの中で波形の良く取れるよさげなチャネルを採用してるんじゃね

特許読むとそれほど単純じゃないですが、原理的にはチャネル毎にとれる波形が異なり、ほとんど信号を取れないチャネルとか、立派にとれるチャネルとかが動的に並存するのでした。腕を回したりすると「取れる」チャネルと「取れない」チャネルが入れ替わっていく様子を波形で示した図面も含まれているので、非常に分かり易いです。特許から読み取れた測定の流れを簡単にまとめると(誤解してたらご指摘ください)以下のような感じ。

  1. 複数のセンサでマルチチャネルで脈波を測定
  2. バンドパスフィルタ
  3. コモンモードの外乱信号除く(チャネル平均か、取れないチャネル基準)
  4. 正負のピークの検出
  5. チャネル毎にウエイトを掛ける(ルールベース)
  6. ディシジョンメーキング

なお、正負のピークの間隔が100msから200msの間の信号を取り出す、といったことまで書いてあります。ありがたや。このような処理で、マルチチャネルから安定した脈拍パルスが抽出できると。なお、大分古い特許なので、実施例の図面みると、腕時計とは反対側のバックル?付近(多分こちらの方が動脈に近い)に複数センサがあり、センサ部と腕時計部は通信しているように描かれていますが、それ自体は要件ではないと思います。

走り回っても何しても連続してとることが目的なのと、立ち止まって単発で測定できればOKというスタンスの差も大きいですけど、

やっぱ、高級品は違うな~ でも 2000円でも取れるちゃ、取れるし。。。

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