データシートを読む(3) STM32F401xD/xE その3

JosephHalfmoon

前回は、表紙の上の方の「3行」読むのに1回費やしてしまいました。こんなペースでは何時になったらデータシート1冊読み終えるのか分からないので、スピードアップを図りたいと思います。とは言え、「ひっかかるところ」にはこだわって行きたいです。端から潰していけばそのうち早く読めるかも?

さて今回は、表紙の主要部分

Features

に入りたいと思います。ここには、お客さんにアピールしたいポイントを列挙してある筈。さて、前回申し上げたとおり、表紙は、ほとんど

KEY = VALUE

式のデータベースのようなものです。かといってコンピュータ用のJSONやXMLのようなデータを伝達するためのものではなく、相手はあくまで人間。メリハリというものがあります。このページでいうならば、以下の3か所でしょうか。

  1. Featuresの先頭、左上の項目
  2. 右上の図
  3. 右下の表

どこの会社のMCUのデータシートも表紙は2列のフォーマットに箇条書きするというのが定番です。その左上、いの一番の第1項目にはCPUコアの仕様がくることが多いですが、チップの「売り」のポイントと考えている仕様が置かれることも多いです。同系統のチップで複数のデータシートを見比べると、ここに置かれている仕様から、シリーズの各チップの方向性の違いなど窺えたりもするかもしれません。

このデータシートの第1項目には、前回の繰り返しでもあるARMのCortex-M4なるコアについての記述がくるのですが、やはり注目ポイントは、

ART Accelerator(TM)

です。TMついているくらいなので、ST社の独自機能、ST社が他社のCortex-M4とは「ちょっと」違うのだ、と主張したいポイントである筈。ART=Adaptive real-time acceleratorだそうです。一般に、現代のMCUはプログラムがFlashに書き込まれています。ところが、Flashメモリというのは、あまり早くはありません。ぶっちゃけ、ここで設定されている84MHzというようなクロック速度で素のFlashメモリをノーウエイトで動かすことはどこの会社も難しいでしょう。そこでこのARTというのが登場してくるのであります。これを使うことで0-wait stateで実行できます、というスピードアピールですね。きっとどこかの

CPUクロックは早いんだけれど、Flashアクセスに何ウエイトも入る

チップとの差別化だと思います。潜在顧客で、上位品種に変更してクロック速度あがったのに性能がイマイチあがらなかった経験のある方には刺さるポイントかもしれません。ただし、メモリの高速化のためには「キャッシュ」という王道があります。ARTもある意味キャッシュの一形態じゃないかと思うのですが、組み込み用のMCUならではの進化を遂げている、と考えるべきでしょうか。また後で詳しく見ましょう。

さて次は右上の図、パッケージの図です。

見れば形が分かる。そして大きさも書いてある。パッケージの後ろには数字が書いてあるので、これがピン数に違いありません。一番小さいのが、WLCSP49、ウエファー・レベル・チップ・サイズ・パッケージの49ピン。ウエファー・レベルなので、だいたいチップそのものの大きさの筈。似たピン数ではUFQFPN48というパッケージがあり、こちらも大きくはないのですが、CSPに比べると面積的には4倍以上あります。それに対して一番オーソドックスなのがLQFPパッケージ。こちらは100ピンと64ピン設定。ただし、100ピンでは先ほどのUFQFPN48の面積4倍(WLCSP49からしたら16倍)、取り扱い易いと思いますが、今時この大きさはデカすぎる用途も多いかも。ということで同じ100ピンでも面積4分の1のUFBGA100も設定されています。ただし、QFPと比べると多分お高い。ピン数はターゲット製品のスペック次第、パッケージはターゲット製品の大きさ、価格、ボードの実装工程の能力など、誰かが悩んで決めることになります。たった1枚の図面ですが、悩みは深いのだ。(一番気になるのはコストかもしれないですが。)ST社にしても、お客の要望に応えるために、同じ型番のチップでもこれだけパッケージ用意しておる、と。

さて最後、右下の表 Table 1. Device summaryです。なんだか素っ気ない表です。Referenceとして書いてある名は、これからデータシート内でも何度かお目にかかる「おおきな機能」を識別するための名、それに対応するPart numberが列挙してあります。上下2行で違いは2文字づつ、これがピン数(ピン機能)とメモリ量が決まる(ただし、ここには何の説明もないです、後ろの方を読んでねということ。)合計6種。しかし、ここに販売可能な全製品を定義しておるのですな。6種組み合わせの全てが購入可能と。これと先ほどのパッケージ種別を組合わせると、ようやく

製品を注文

できるわけです。たかが2文字ですが、書かずにはいられない表でした。

またまた、3か所で予定数量尽きました。まだまだ、何じゃらほいな用語は沢山あります。例えば、左側の欄の真ん中あたり、

POR、PDR、PVDにBORって何?

これ見て瞬時に理解できるのはMCUのプロですね。次はこの辺から再開かな。

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