Literature watch returns(21) 秋田純一著、揚げて炙ってわかるコンピュータのしくみ

Joseph Halfmoon

本連載、基本、紙媒体の御本は購入させていただいているのですが、今回は近傍の(田舎な)図書館の「新刊書」コーナーにて発見、思わず借りて即日読み切ってしまいました。著者の秋田純一先生は金沢大の教授だそうですが、末尾に「好きなプロセスは、CMOS0.35μm」と公言されている方です。技術評論社「2020年9月1日初版第一刷発行」

最初に、私も0.35μmプロセスは「思い出深い」プロセスでした、と一言述べさせていただきます。

さて本題。このタイトルを拝見しましたとき、「揚げて炙って」は「何かの例え」じゃないかと曲解いたしました。が、面白いタイトルなので中をチラ見してみると

  • 本当に揚げていた
  • 本当に炙っていた

です。個人的には、衝撃の一冊、であります。その上、この御本を読ませていただくと思わずやってみずにはいられない、のであります。早速ながら「炙る」候補選手(なるべく線幅の微細でないプロセスのプラスチックパッケージのデバイス共、新規で使用する可能性が小さくて、お値段も張らないものども)を選抜し、可哀そうなのでひっくり返してこのご本の表紙の上に並べたのがアイキャッチ画像なんであります。

これから炙ってみますです。(本稿投稿時点では、すでに炙りは終わっております。一応成功。炙った結果はまた別な投稿にいたしますのでよろしく。何が?)

この御本、揚げたり、炙ったりだけの御本ではなく、前3分の1は、「何も知らない」いたいけ?な人々を「この世界」に引き込むためのお誘い、中ほど3分の1で、揚げたり、炙ったりし、後半3分の1で、「オープン」(オーブンではない)な世界で半導体の開発に勤しむように引きづり込む、という感じの一冊であります。神の啓示か、悪魔のおさそいか。

ともあれ基板を「揚げる」のは、私にはちとリスクが高く思われました。低めの温度でゆるゆると揚げるように指示されておりますが、200℃。ちと気を抜いて鍋の中に火が入ると大変。それに、揚げた廃油の始末(今日も資源物回収にいってきたばかり)を考えるとちょっと?です。廃油の回収(多分石鹸等にリサイクル?)もありますが、基本、食べ物を揚げた残りを想定している筈。まさか基板を揚げた残りはマズイでしょう。重金属などよからぬ輩が含まれておる筈。最近のエコな認証通っている基板なら問題は少なそうですが、食べ物扱いはダメでしょう。特に鉛半田使っているような古い基板は確実かつ非常に駄目だと思います(なお著者の秋田先生は鉛半田が好きな人らしいです。きょうび挑戦的。まあ、本音で鉛フリー半田好きな人はあまり多く無さそうですが、世の流れ。)

一方、プラスティックパッケージを「炙る」のは、換気のよい屋外であれば、まあよかろうかと思いました。なにせ、パッケージそのものの質量は小さく、危ない物質の濃度は無視できる程度の低さかと想像しました。

半導体企業の内部でもパッケージを開けて中を調べる、ことはままあります。特に不良が出てしまった場合などですね。ただ、そういうときには、「とても危ない薬品」を使ってパッケージを溶かしてチップをとりだします。専門の設備と担当者がおり、どこの会社でも「普通の人」は自分で取り出したりしないのではないかと思います。「お願い」すると「美麗な解析写真」をいただける、というのが普通じゃないかと思います。しかし、

「炙れば」自分で取り出せるじゃん、というのは目から鱗のご指摘

でありました。いくらエンプラとはいえプラスティックなので火炎レベルの高温では組成は維持できますまい。それに対してチップやリードフレームなどはその程度の温度には耐えるでしょう(実際、耐えることを本稿の初稿執筆後確認しております。)真似する人は、危ないので火傷、火災や煙にはくれぐれも気をつけてください

私個人は、たまに目ぼしいデバイスを見つけたならば、

炙って「チップ」の御尊顔を拝する

ことにいたします。

Literature watch returns(20) RISC-V原典 へ戻る

Literature watch returns(22) Interface誌付録コンピュータ手帳2021 へ進む