連載小説 第25回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ> サイコーエジソン株式会社8年目のIC営業部海外営業課の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを海外に売っているんですよ。でも、もう20代もあと少し。あとがなくなってきました(焦)。

 

 

 

第25話  FPGAってアウトドア商品?

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですが技術製品(半導体)を販売するIC営業部の4ビットAI内蔵営業レディです。私は同期の富夢まりお(トムマリオ)君とともにアメリカ市場を担当しています。なお、トム君は名前の割に純ジャパです(笑)。職場には後輩も沢山入ってきて、私は4月から主任になりました。

この連載大河小説もとうとう25回を迎えました。いつになったら終わるんだろうと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、何てったって、日本の半導体産業の枯盛衰とともに生きてきた私ですから、その全てをお話しない訳にはいきません。

この年の11月、大韓航空の飛行機が墜落して多数の犠牲者を出しました。大韓航空機爆破事件です。北の工作員が爆弾を仕掛けるという世にも恐ろしい事件でした。実行犯の二人のうちの一人(男性)はたばこを吸うふりをして服毒自殺したという、まるでスパイ映画のような事が本当に起こるのだと知り、驚愕したことを覚えています。そして、もう一人の実行犯はと言えば、これもまたまるでスパイ映画に出てくるかのような美人女性で、別の意味でも驚愕しました。彼らは北に洗脳されてあの恐ろしい事件を起こしてしまったらしいのですが、韓国の繁栄ぶりを目にして目が覚めたとの報道でした。この女性工作員キムヒョンヒが日本人としての偽造パスポートを持っていた事の取り調べをきっかけにして、日本人拉致被害者の問題もクローズアップされました。

日本の半導体産業とはほぼ関わりのない話でしたが、その後の韓国半導体産業の発展を考える上で、何かの参考になるかもと思い、書いてみました。ほぼ参考になりませんでしたね。ごめんなさい(てへぺろ)。ただ、あまりに衝撃的な事件でしたので・・・。

 

この年あたりだったかと記憶しておりますが、ペケリンクス社からリリースされていたFPGA(Field Programmable Gate Array)が、画期的な商品として急速にシェアを伸ばしていきます。何てったって、フィールドでプログラムできるゲートアレイだってんですから画期的です。え? それはどういう意味かって? だから、フィールドでプログラムできるゲートアレイですよ。心理学科卒なんですから技術的な難しい事はわかりません。ゲートアレイの特別なヤツなんだと思います(汗)。

野原でプログラム? アウトドア商品?

詳しい事はペケリンクス社に聞いて下さい(笑)。

そのペケリンクス社はファブレスで、我々がウェファー製造を請け負っていたのでした。最初はそれ程大きなビジネスではありませんでしたが、ひとたび業界でこれは素晴らしいと評価されると一気に多くの技術者が使うようになっていきました。

初期の段階で日本の独占販売権でももらっていれば、スゴイ事になっていたかも知れません。FPGAが大ブレークするのは、我が社がギブアップしてから1~2年後の事でした。結局ペケリンクスジャパンという法人が設立されて日本での販売を一手に引き受ける事になり、かなり大きなビジネスを展開しました。

何故、世の中の技術者がFPGAを頻繁に使うようになったかと言いますと、実は文系の私も勉強したので知っているんです。

ゲートアレイのようなICを開発しようとするとICを製造する時間がかかりますし、開発費もかなり必要になります。もし、設計をミスると修正するのに結構な時間と新たな開発費がかかってしまいます。基本的なICの製造方法に従ってアルミニウム配線層のマスクを作成してゲートアレイを作るとなるとそうならざるを得ないのです。そして、電子回路の設計は簡単ではなく、ミスは頻繁に発生しますし、ミスでなくとも設計変更はしょっちゅう起こりました。

もし、ゲートアレイを開発する前に何度でも簡単に作品を作る事ができれば、仕様が完全に固まるまで何度でも試作品を作って修正を繰り返す事ができます。そして、最終形をゲートアレイとしてIC化し、大量生産すればいいのです。

FPGAはいちいちマスクを作成してIC化する方法ではなく、マスクの代わりに設計データをFPGA内のメモリーに取り込む方式なので簡単かつ迅速に試作品が出来上がるという代物です。なので、何度も試作を繰り返す事が可能となるのです。

え? 複雑ですか? 分かりませんか? ごめんなさい。先ほどはちょっとジョークで、心理学科卒には分からないアウトドア商品かも、なんて言っちゃいましたけど、本当は私も勉強して理解しています。実はそういう事なのです。

FPGAは半導体工場ではないところの、いわば在野のユーザーが設計して作る事ができるのでフィールドプログラマブルと言うのです。

 

マイコンだって最終形を作るまでには何度もプログラムを作ってシミュレーションして、必要な修正(デバッグ)をして、プログラムを固めた上でマスク化しますよね。あ、マスク化ってICを作るためのマスクを作るって事なんですけど、ま、いいや、それと同じです。

マスクがどういうモノなのかは、いつか機会があったらお話しますが、IC製造の原理を知っている方なら基本的な事ですよね。ま、そういう事です。

 

ペケリンクス社以外にも別の手法を使ったFPGAを手掛けるメーカーがいくつか出現し、西海岸にある別のFPGAメーカーからもシリコンファウンドリーを請け負う事になりました。こうしてアメリカ向けのビジネスはどんどん伸張していきました。

今回は図らずも、文系のワタクシが心理学科卒という半導体とは無関係なバックグラウンドを棚に上げて、色々語ってしまいました。つい、教養が滲み出てしまいましたのです、うふふ。

しかしながら、家電も工業製品も電子回路にはマイコン/CPUとASICとメモリーICがほぼ必ず使われています。私たちは世の中の多くの商品の開発に対して、直接であれ間接であれ、大きく寄与していたのでした。

 

 

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