連載小説 第26回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ> サイコーエジソン株式会社8年目のIC営業部海外営業課の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを海外に売っているんですよ。でも、もう今年で大台に乗ってしまいます。あとがなくなってきました(焦)。

 

 

 

第26話  大台に乗ってしまった

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですが技術製品(半導体)を販売するIC営業部の4ビットAI内蔵営業レディです。私は同期の富夢まりお(トムマリオ)君とともにアメリカ市場を担当しています。なお、トム君は名前の割に純ジャパです(笑)。職場には後輩も沢山入ってきて、私は4月から主任になりました。それはいいのですが、誕生日がくると私は大台に乗ってしまいます。オーマイガーなのです。

 

「もう26回目ですよ、トム君」

「え、なんの事?」

「だから、この小説も第26話だっていう事です」

「ほお、という事は、スゴイと・・・?」

「スゴくない?」

「まあ、入社前の1979年から1987年だからねえ。8年で26回という事は平均3回で1年っていうペースだって事だな?」

「そうですね。まあ、年によって偏りはありますけどね」

「まあ、舞衣子、君の望むように書いていけばいいんじゃないか?」

「ま、そうします」

「ところで、いい加減、何で4ビットAIを内蔵しているのか、教えてくれてもいい頃じゃないかと思うんだよな。もう8年目だぜ、俺たち出会ってから」

「・・・」

「何でいつもそこで黙るんだよ」

「・・・」

 

私の4ビットAIの件は、とりあえず不問にふしておいて欲しいと思っているのです。何故かって? それも、不問にふしておいてくださいませ。いずれ、その時がきたらお話しできるかも・・・。

それよりも、今日ここでお話したいのは、私が人生初の30代になってしまった事です。まあ、普通、人生2回目の30代になるというのは、タイムリープもの以外にはないと思いますが(笑)。

いずれにしても、あれよあれよという間に、誕生日の10月10日がやってきてしまったのです。分かってはいましたが、衝撃的でした。だって、30ですよ、30。

かつて、マダムジュジュ化粧品によって、「25歳はお肌の曲がり角」と言われ、若さも美貌も衰え始める目安の年齢とされていた25をはるかに超え、とうとう一桁多い年齢に突入してしまったのですから、これは衝撃的と言わざるを得ません。あ、一桁多いって間違ってました? ですよね、100歳になっちゃいますよね(笑)。10進法で10の位が1増えたって言えばいいのでしょうか。

まあ、28歳が29歳になるという響きと、29歳が30歳になるという響きでは、物理的には同じ1の差であっても、気持ち的には果てしない〇〇光年くらいの差があります。え?ない?

ま、いいでしょう。ともかく、私は10月で30歳になってしまったのです。

 

美貌は衰えたでしょうか?

そんな事は断じてありません。・・・と思います。

まだまだミニスカもボディコンもイケてると思うのです。その証拠に、年末に東京へ帰省したのですが、冬の寒空にも負けず、結構ステキなミニスカ姿で都会を闊歩する私に対して、道行く若者からの視線は相変わらず熱く注がれていたんです。ええ、私はどちらかと言えば童顔系なので、30歳といっても全然20代に見えると言われます。

それと、毎日素晴らしい温泉に入っているので、ちっともお肌は曲がり角じゃないと思います。つるつるです。

それに、自分で言うのも気が引ける時もありますが、あまり引けないのですが(笑)、結構可愛いのでした。

なのに、何故出会いがないの~?

地方企業暮らしだからでしょうか?

 

好きで地方企業に就職したのですから、文句は言えません。ただ、どういう訳か、出会わないんだなあ、運命の人に(涙)。同期の島工作君と富夢マリオ君は、もしや運命の人ではと思った事もあったのですが、二人とも別の子と結婚しちゃったし・・・。ぴえんです。(注:ぴえんという言葉は2020年頃にのみ使われた女子用語で、(涙)とほぼ同じ意味です)

営業部以外にも同年代の男子はいましたし、気軽に声をかけてくれる同期もいたのですが、どうも友達以上になりません。それほど、きゅんきゅんしないのです。そうこうしているうちに、同期の男子も殆ど片付いてしまい、気がついたら私だけ?みたいになってきているのです。

 

「ねえ、お母さん、30歳初の1988年だよ」

「また、面白い事言うのねぇ、舞衣子は、ふふ」

「あああ、30歳だ~!」

「いいじゃない、健康で30で新しい年を迎えられたんだから」

「そうなんだけどさぁ、30だよ私」

「私は50代ですよ」

「そうだ、いつ60になるんだっけ?」

「まだ、もう少し先よ」

「お母さん、結構若く見えるしね」

「いつも40代でしょ?って言われてるわよ」

「ええ、10歳くらい若く言われるの?」

「言われるわよ。思われてるかどうか知らないけど・・・」

「そっか、思ってなくてもそのくらい言うもんね、みんな」

「そうよ。ま、いいんじゃない、そんな事。大人なんだから」

「大人かあ」

「舞衣子だって、立派な大人でしょ。私があなたの年にはあなたはとっくに生まれてたからね」

「そっか」

「まあ、頑張んなさい」

「ふわぁ~い」

 

結局、何の進展もなさそうな1988年の幕開けでした。

明後日には、あずさに乗って仕事に戻ろっと。

 

 

第27話につづく

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