連載小説 第35回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社IC海外営業部の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICのアメリカ営業担当でしたが、平成元年になった1989年、とうとう、現地法人のSS-Systemsへ海外赴任しちゃいました。カリフォルニアの空は底抜けに青かったです。

 

 

第35話  いよいよアメリカ赴任です

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですが技術製品(半導体)を販売するIC海外営業部の4ビットAI内蔵営業レディで、同期の富夢まりお(トムマリオ)君とともにアメリカ市場を担当していたのですが、ついにアメリカの販売現地法人であるSS-Systemsへ赴任する事になったのです。しかも、同期の富夢まりお君も1ヶ月後にはジョインします。そして、同期の島工作君も赴任中。何てステキ!

 

San JoseにあるSS-Systems Inc. のオフィスは広くて、日本とは雲泥の差でした。そして、一人一人が集中して仕事できるようにパーテーションで区切られた個人スペースにデスクを持っています。役職者は個室です。何と私にも個室が与えられていました。ステキです。

まずはダニエル社長に挨拶です。

 

“Welcome aboard, Maiko“

“Thank you, President ! “

“Oh, you don’t have to say President. Daniel is fine.”

“I know. But, it is the first day here for me. Then, I just said so naturally. Anyway, I will try my best during my tenure in SS.”

“Good. I count on you.”

“Thank you, Daniel. See you around.”

 

ってな感じで一通り挨拶を済ませ、自分のオフィスに落ち着くと、やっぱりほっとしました。さあ、これからが本番です。

日本と違って、一人一人にPCがあてがわれていました。おお、素晴らしい。1989年の事です。アメリカでは一人一台が当たり前になってきていましたが、日本ではまだそんなではありませんでした。そもそも、電子メールがまだなかった時代です。

メインの通信手段は電話とファックスです。オフィス内では紙が多数行き交っていました。例えば会議通知も全て紙ベースなので、PCで文章を作ってプリントアウトして出席者のメールボックスに配布します。メールボックスと言っても現代の人々が想像する電子メールのメールボックスではありません。物理的空間に存在する各個人宛の棚です。従って、各人は定期的にメールボックス部屋に寄って自分宛の文書をピックアップする必要があります。或いは自分のデスクへ直接配布される事もあります。

早速、私のメールボックスにこんな文書が配布されていました。

 

Maiko Yonbito Welcome Lunch

8/4/1989 (Fri) Lunch time

at Cafeteria

Sandwiches will be served

 

へえ、歓迎会してくれるんだ。嬉しいじゃん。金曜日にやるっていうのは、何となく週末のリラックス感があるからかな、などと思いました。日本と違って、全てにリラックス感があります。そして、金曜日はCasual Dayと決まっていました。金曜日くらいは服装をカジュアルにしてリラックスするよ、という会社方針です。従って、普段はスーツの人も金曜日はリラックスした私服で仕事をします。日本のように全てを四角四面に管理するという気はないのです。このあたりの事は何度も出張で訪問しているので分かっていました。

当時のSS-Systemsはまだ小さな会社で、従業員は全部で50名程度。私はアドミ全般を見ている副社長の傘下にあるLiaison Departmentに所属しました。副社長もサイコーエジソン株式会社からの赴任者です。Liaison はアメリカと日本を結ぶ役割で殆どが日本人赴任者。スタッフとして何人かローカルスタッフを入れていました。工作君がLiaison DepartmentのDirectorです。

海外営業部の後輩の住友直太朗君が私のオフィスへ挨拶に来ました。彼は7年後輩ですが、しっかりしています。半年くらい前に赴任しました。

“Hi Maiko san. Welcome aboard !”

“Thank you, Nick”

「お疲れ様です。調子はどうですか?」

「ばっちりよ。ニックは?」

「こっち来てからまだ半年ですけど、殆ど慣れました。まあまあ上手くいってます」

「上手くいってない点は?」

「ううん、自分が思ったようにはローカルが動いてくれない事ですかね」

「ま、それは永遠の課題的な話だからね。それはそうと、生活はどう?」

「とってもしいですよ」

サラちゃんはどうしてる?」

「ええ、楽しそうです。語学学校へ通っています」

「そう、会いたいなあ」

「遊びに来ます、今日?」

「え、いきなり? いいの?」

「いいですよ。ぜひ来て下さい。サラちゃんも喜ぶと思うから電話してみますね」

「ありがと」

 

てな話で赴任初日からいきなりニックとサラちゃんのおうちへお邪魔する事になりました。あ、二人は暫く前に結婚し、サラちゃんは赴任者の妻となったのでした。当時の制度の下では、赴任者の妻は就労ビザが取れないため海外で仕事はできず、同時に日本での職も失う事になってしまいました。サラちゃんはニックと同期でサイコーエジソン株式会社の海外営業部へ入って貰った逸材でしたが、ニックは赴任者、サラちゃんは無職の赴任妻という境遇になってしまいました。しかも、赴任者の妻として海外へ行く時にはサイコーエジソン株式会社を退社しなくてはならない取り決めでした。何だかおかしいぞ、休職扱いにはできないのか? と現代の頭で考えると思う訳ですが、当時はかなりの性社会で、女性は家に入るもの的な考えがはびこっていて、結婚後に赴任者の妻となって海外へ渡航する人は退職となる取り決めだったのです。

私自身は独身なので海外赴任もさせて貰えたのですが、仮に例えば同期のトム君の妻になっていたとしたら、無職の赴任者妻としてサラちゃんと同じ立場になっていたのだと思います。

ま、色々ありはしますが、私の事をスーパーな先輩だと思ってくれていたサラちゃんとも再会を果たしまし、こうして赴任一日目は過ぎていったのでした。

みんなで乾杯したカリフォルニアワインの美味しかった事・・・。うふふですね。

 

この続きはまた次回。

 

 

 

第36話につづく

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