連載小説 第38回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業をしていましたが、平成元年になった1989年、とうとう、現地法人のSS-Systemsへ海外赴任しちゃいました。一月遅れでトム君も合流し、同期が3人ともアメリカ赴任中です。

 

 

第38話  サンクスギビング

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の10年目。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任しました。しかも、同期の富夢まりお君も一月遅れでジョインしました。そして、同期の島工作君も赴任中。しかも、工作君の任期は2年延長となり、3人一緒です。何てステキ!

 

「舞衣子、サンクスギビングに赴任者の皆でタホへ行こうって話になったんだけど、行く?」

「へえ、Lake Tahoeか。いいね。でも、何しに行くの?」

「スキーだって」

「スキーか。うん、いいよ行く行く」

トム君が誘ってくれました。

おいおい、また遊びの話?と思われるかも知れませんね。そうです、仕事の話じゃありません。ごめんなさい。本当は、半導体産業の栄枯盛衰を語る大河小説なので、あまり仕事以外の話にページをさく訳にはいかないのですが、どうも筆がそちらの方向へ行ってしまうのです。あ、、というのも前時代的でしょうか。指が、キーボードを叩くが、と言った方が正しいかも知れません。それか、あと少しすると、入力する音声が、という事になるかも知れません。更にもう少しすると、私の想念が、という時代になって、思っただけで入力されるという事になるのかも知れません。ま、いっか。

スキーは長野県勤務の時に結構何度も行っているので、まあまあ滑れます。

聞いてみると殆どがご家族一緒で行くらしく、独身者は私だけみたいです。ちょっと淋しいかもです。でも、ま、いっか。私は私で結構気楽だし、もしかしてもしかしたら、Lake Tahoe でステキな出会いとかあったりするかも知れないし。ウフ。

Thanks Giving というのは11月の終わり頃にある4連休です。日本の勤労感謝の日の頃ですね。ローカルの人たちは大抵里帰りするなど、家族と過ごし、七面鳥料理を食べるなどの伝統文化があります。私たち日本人赴任者は実家へ帰る事もないので、どこかへ出かけるという事も多かったのです。

私は、住友直太朗君(ニック)とサラちゃんが乗る車に同乗させて貰う事になりました。お二人は海外営業部の後輩です。

「ねえ、ニック、Lake Tahoeまでどのくらいかかるの?」

「そうですねえ、5時間くらいかな」

「そっか、結構遠いね」

「ええ、でも、運転は任せておいてください。雪道でも走れるタイヤですし、問題ありません」

「へえ、それ日本と違う?」

「ええ、日本では冬はまだスパイクタイヤでしょ?」

「うん」

「こっちでは、Mud & Snowというタイヤなので、いちいち冬用、夏用とタイヤを履き替える必要もないんですよ。舞衣子さんの車だって同じタイヤのはずですよ」

「そっか。そうなんだ。なんにも考えてなかった」

San Jose近辺では殆ど雪が降る事はないので、全然注意していなかったのですが、Lake Tahoeはシエラネバダ山脈の中にあり、11月後半にはもう雪が降る高地です。大量の降雪で幹線道路以外は閉鎖される事もあり、雪の中で立ち往生した車が脱出できず悲惨な事故になってしまったという年もありました。

我々が行った日も少々降雪はありましたが、それ程難しい事もなく到着する事ができました。Lake Tahoe はリフォルニア州とバダ州にまたがっています。州によって法律が違うため、州境をまたいだ瞬間に景色が一変しました。カリフォルニア州側は静かな湖畔道路だったのですが、ネバダ州に入ったとたん、大量の光でライトアップされた看板が立ち並びます。それは、Casinoでした。カリフォルニアでは禁じられているカジノがネバダではOKなので、大きく景観が異なるのです。

「へえ、噂には聞いてたけど、ホントに州境を超えた瞬間に変わるんだね。サラちゃんも初めてでしょ?」

「そうなんです、舞衣子さん。アメリカってスゴイですね」

私たちはネバダ州に入ったすぐのところにあるホテルへチェックインし、ディナーとなりました。ステキな雰囲気のホテルのレストランで美味しい料理を頂いたあと、皆でカジノへ遊びに行きました。どうにも男性諸君はギャンブルが好きなようで、真剣な目つきでブラックジャックやルーレットに取り組んでいます。私はサラちゃんたちとジャックポットで遊んだりしていましたが、それ程ギャンブル熱が高くない女性たちは、早々に切り上げてそれぞれお部屋に戻りました。ニックやトム君はこれまでネバダ州に収めたお金を取り返すのだと、遅くまで粘っていたようです。結局ネバダ州へ預けた金額が増えただけのようでしたが、翌日はヘブンリーバレーというスキー場へ元気に出かけました。でも、みんな少々眠そうでしたね。

何だか、ちっとも半導体産業のお話になりません。でも、よく遊び、よく学び、よく仕事をしていた頃のお話です。次回はそろそろお仕事の話でしょうか。

どんな展開が待っているのか、お楽しみに。うふ。

 

 

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