部品屋根性(45) SEMITEC製 10TPS83T サーモパイル

Joseph Halfmoon

IoTセンサ図鑑に触発?されて、柄にもなくアナログなセンサに手を出しております。今回はSEMITEC製 10TPS83Tサーモパイル、非接触で温度を測ったり、生体を検出したりすることができるセンサです。センサの原理は素晴らしいものなのだけれどね、温度を測ろうとしたら中々大変であることをいろいろ納得?本当か?

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非接触で温度を測る、あるいは、熱などを検知するセンサは幾つかあり、既に本サイトで投稿させていただいたものも以下のようにいくつかあります。

焦電型赤外センサの原理はニッセラ社の「焦電型赤外センサについて」のページの説明が分かり易いです。赤外線の照射によって温度が変化した焦電体表面の分極現象を検出するものです。原理は難しいですが、センサは01で人体の検出を報告してくれるので使うのはとても簡単。

火炎センサの方は、近赤外線に感度のピークをもつフォトトランジスタでした。上記の投稿で述べたとおり、検出そのものは簡単だけれど誤動作を防ぐのが難しいです。

さて今回取り上げさせていただくのはSEMITEC社のサーモパイルであります。ホームページは以下にあります。

SEMITEC サーモパイル

サーモパイルの原理は、熱電対です。遥かな昔、大学の実験で熱電対よく使ってました。片側を定温にしておいてもう片側を測定対象に貼り付けて起電力から温度を測るあれです。そのような普通の熱電対は接点を現物に貼り付ける接触型の筈。ところがサーモパイルの場合は、赤外線を一方の接点位置に集めてそのエネルギーによる温度上昇を測定する、という原理のようです。その際、熱電対1個では起電力が小さいので、複数個を電気的に直列に接続。この積み重ねて接続することをパイルと呼んでいるそうです。

熱電対なのでもう一方の接点がありますが、こちらはセンサのボディの温度をとるようになっているようです。ターゲット側の接点とは熱的になるべくアイソレートしているみたいです。よってセンサのボディの温度との相対的な温度差が出力電位をつくり出すことになります。つまり温度に換算するときにはセンサのボディの温度を知らないと「出発点」が決まりません。そこでセンサ内に接触型の温度センサであるサーミスタを備えています。サーミスタの抵抗値を測定し、これからセンサボディの温度に換算しておく必要があるいうことです。サーミスタの搭載自体は、もともとSEMITEC社はサーミスタの会社なのでお手のものなのでしょう。

アイキャッチ画像に上からみた10TPS83Tサーモパイルの写真を掲げました。長さが同じ4端子あるのですが、どうやって端子を区別するのとちょっと不安になる形態です。しかし、ひっくり返せば端子は簡単に識別できます。以下のような感じ。

10TPS83T_BACK1番端子の根元だけ色違い。その上丸いCANの端に1か所突起があるので、方向も見極めができます。1番と3番の間にサーモパイル、2番と4番の間がサーミスタです。サーミスタの方は方向気にしなくても良いと思うのですが、サーモパイルの方は、電位差の+、-でボディの温度より高い低いを識別するのでひっくり返すと温度が逆転してしまいます。このデバイスの場合1番ピンが+方向。

しかし、原理を調べていてだんだんその難しさが分かってきました。赤外線を熱電対の接点がならんでいる領域に入射させないとならないわけですが、

    1. サーモパイルのノゾキアナ(アパチャーというみたい)から見える領域すべてから到来するエネルギーに依存する。「視野の中に冷たいものや温かいものが混在すると平均化されてしまう」みたいです。測定ターゲットの赤外線だけが入射するようにするある種の「光学系」が必須。
    2. ターゲットの材質によって放射率が異なる。また、物体の形状(デコボコ)によっても光が拡散したりするので異なってくる。

というわけで、「赤外線の取扱い」の段階でかなりムズイです。さらに、

テーブルデータ(参考値)

というものを見ていて電気的にもかなり難しいことが分かりました。サーミスタ側で決定するのであろうセンサ温度が25℃で、サーモパイルターゲット側の対象物温度が37℃(人肌)というアリガチな想定のとき、サーモパイルの起電力はというと1.000mVとあります。当然センサ温度とサーモパイル側とが同じ温度であれば起電力は0Vなので、この付近では1℃あたり0.1mV以下という微小さ加減です。そしてサーモパイル側温度と起電力の関係は、それほどひねくれたカーブではありませんが「勿論非線形」であります。

ちょっとマイコンのADコンバータに直接入力するというレベルではないですね。しかし、ともかくデバイスに電源投入する程度の実験はしておきたい。よせばよいのに急遽「アナログフロントエンド」もどきをでっち上げてみました。とりあえず手元のADALP2000アナログ部品キットの中から「高精度」な方のOP97オペアンプで「一気にほぼ100倍」の非反転増幅器です。とりあえずテスト用に10mV振幅1kHzの方形波をいれたところ、ほぼ1V振幅の方形波出力が得られたので「ま、いいか」なもの。

信号源を10TP583Tにつなぎ変えて観察してみると。あれれ発振している?周期をみれば50Hz。つまるところ商用電源からのノイズが見えてしまっているみたい。出力側で観察したところ100mVくらいなので、入力側で1mVくらい乗っている計算?

サーモパイル全体を掌で包み込むようにした(5cmくらい離した)場合、振幅は増大します。温度変化に反応したの?しかし、50Hzで発振している波形そのものの振幅が大きくなっている感じです。ほんとにサーモパイルの反応?その辺の配線と手の間の浮遊容量のせい?

これでは、とても温度を測るなんぞとっても無理。またまたアナログ回路再トライ編です。

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