連載小説 第48回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化による水平方向成長をものともせず、同期の工作君とトム君とも一緒に毎日忙しくやっています。青井倫吾郎さんからの電話が途中で切れてしまうという不運を克服し、再会を果たしました。私って絶好調かも・・・。

 

 

第48話 「Back to the future」 と世界の料理

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社で10年になりました。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。しかも、同期の富夢まりお君も島工作君も一緒で、何てステキ!と思いきや、思わぬ落とし穴が・・・。だって美味しいレストランが多すぎて、私の見事な肉体(笑)にも水平方向成長化という由々しき異変がおこり、偶然再会した“青井の君”に私だと認識してもらえない事態に・・・。しかし、数々の困難を乗り越え、日本食スーパーのお味噌売り場で青井倫吾郎さんと再会を果たしました。

今回は映画館へお出かけです。

 

「なあ、舞衣子、土曜日に映画見に行くんだけど、一緒に行くか?」

トム君が聞いてきました。

「もしかして、Back to the future 3 ?」

「お、良く分ったねえ。それだよ、それ」

「行く行く! 見たかったんだよね」

「じゃ、10時集合な」

「オッケー」

 

「Back to the future 3」 は、ご存じの通り、1985年にリリースされたBack to the future の続々編で、Steven Spielbergが製作総指揮をとっています。日本でも大ヒットとなりましたので、多くの方々が鑑賞したと思います。私も日本で観ています。何しろ、デロリアンが時空を飛び越えて過去へ行ったり未来へ行ったりするのですから、奇想天外で荒唐無稽で抱腹絶倒しちゃうという映画です。自分のお母様に恋されちゃうなんて、何てステキ、というか、何て危険??というお話ですね。

 

土曜日の10時に映画館の前に行ったら、トム君は奥様のハルカちゃんと、ニックとサラちゃんもいました。誰が一緒にいくのとも聞かずに来たのですが、ま、いつものメンバーねという感じです。

それともう一人、ローカル採用の日系アメリカ人のジョージ君。彼も同じLiaison Departmentの一員で、主に日本への発注業務を担当しています。ご両親は日本人ですが、ジョージ君はアメリカで生まれ育っているので、英語が母国語で、日本語はカタコトです。

SS-Systems Incには何名もの日系アメリカ人がいました。San Joseはもともと日系移民も多かった地域なので、日系企業で働く人も多数いました。二世や三世の日系人の彼らはアメリカで生まれ育ち、アメリカの大学を卒業して企業へ就職します。両親の影響により、あるレベルで日本語を話しますが、完全なバイリンガルではない人が多いので、私たち日本人赴任者とはほぼ英語で話します。日本語の読み書きは難しいので、大抵は簡単な読み書き以外はできません。

それでも、何となく、日本人同士みたいな感覚もあり、一方で、やっぱりアメリカ人だよ、みたいな感覚もありで、日本で暮らしているだけでは触れる事のできないインターナショナルな世界でした。

英語で字幕なしの映画を観るのは、結構大変です。大体のストーリーは把握できるのですが、ところどころ分からない単語や言い回しがあって、完全に理解する事はできません。それでも、映画は何度も観に行きました。そうする事で段々とビジネス以外の英語も理解できるようになっていくからです。

Back to the future 2 は過去へ行ったり未来へ行ったりで、なかなか理解が困難でしたが、この日に観たBack to the future 3 はそれ程あっちへ行ったりこっちへ行ったりしないので、比較的分かりやすい映画でした。分からない所は後でジョージ君に聞いて理解を深めます。

朝の映画は安く観る事ができるシステムで、それにあまり混雑していないので、私たちは午前に映画を観て、その後みんなでランチに行くようにしていました。よく行ったのは、Dim Sumと呼ばれる中華の点心料理で、店員がワゴンに乗せて運んでくる餃子やシューマイなどの小皿をいくつか取って、みんなで分け合う料理でした。

シリコンバレーには世界各国から人々が集まってきているので、世界中の料理を扱うレストランがあります。我々がよく行ったのは、日本食、中華、ベトナム、インド、メキシコのレストランです。その他にアメリカ、イタリア、フランス、モロッコ、タイ、など色々ありました。

 

シューマイの小皿を取ったところで、トム君がみんなに言いました。

「面白かったなあ、Back to the future 3も」

「うん、もぐもぐ」

「そうだよね。もぐもぐ」

「また、観たいね。もぐもぐ」

ってな調子で、みんなもぐもぐしていました。

「何だよ、みんな、もぐもぐ、もぐもぐって。食べてばかりいないで、映画の反省会しようよ」

「はいはい、もぐもぐ」

「うん、そうだね。もぐもぐ」

ってな調子で、みんなもぐもぐしていました。

 

ひとしきり、舌鼓を売ったところで、ジャスミン茶を飲みながらゴマ団子を頂いて、ディムサムランチは終了となりました。

ああ、美味しかった。

 

この続きはまた次回です。

え? ちっとも電子産業の栄枯盛衰に迫っていない?

そうでしたね。

でも、美味しかったんですよ。ホント・・・。

これじゃ、やっぱり水平方向に広がっちゃいますよね(笑)。

 

第49話につづく

第47話にもどる