お手軽ツールで今更学ぶアナログ(52) ボーデ線図は描けたけれど。バンドパスフィルタ。

Joseph Halfmoon

前回はどういうわけかADALM1000(M1K)のボーデ線図描画がうまくいかず代替機で測定しました。今回もボーデ線図描く必要あったのですが、今度は問題なく描けました。なぜ前回は描けなかった?と気になりました。しかし、それにもまして今回の2018年12月記事には不審な点あり。テーマはバンドパスフィルタであります。

このところ毎週休まず修行しております「アナデバ社(ADI社)のWeb記事『StudentZone』を初回からすべて読む」ですが、ついに2018年12月号にたどり着きました。次回からは2019年だね(何時になったら「現在」に追いつくのだ?というペースですが。)今回の記事(日本語版)へのリンクは以下であります。

「ADALM1000」で、SMUの基本を学ぶトピック12:バンドパス・フィルタ

アナログの権化、アナデバ様には恐れ多いことなのですが、今回の記事(日本語版)については幾つか指摘せざるを得ません。第1は実験にあたり「準備するもの」に書かれている部品リストです。引用すると

抵抗:1MΩ

これタイポじゃないかと思います。その後の手順や図面やグラフ等から推測するに1kΩが正しいと思います。部品箱から1MΩ取り出そうとして気づいてよかった。

次に式(4)です。また引用させていただくと、、

BW=fL < fH

数学的には「BWとfLが等しくて fHよりも小さい」と読むこともできますが、文脈からして、右辺を左辺に代入的な式 BW=fH-fL であって、fL < fHがその条件ということであると思います。そうでないとバンド幅の計算にならないです。

そして表記の問題ですが、出だし部分で「ロールオフ周波数」として語られているfL、fHが、途中から「カットオフ周波数」と呼ばれ、後になってから「カットオフ(ロールオフ)周波数」と書かれます。アナデバ様の読者の皆さまは間違うことはないかもしれないですが、混乱した印象が残ります。

そして最大の疑問が、カットオフ周波数と実験で使うデバイスの定数です。

  1. 本記事は、LPFとHPFを組み合わせてBPFを構成しようとしている
  2. LPFはRC回路であり、このカットオフ周波数fHがBPFの通過帯の上限を与える
  3. HPFはRL回路フィルタであり、このカットオフ周波数fLがBPFの通過帯の下限を与える
  4. (先ほど述べた通り)fL < fH 前提である
  5. しかし、実験で使うデバイスの定数から計算すると fL > fH である
  6. この組み合わせでもBPFとして動作するのだが、単純にLPFとHPFの組み合わせとして説明している本文とは「ちょっと動作原理違う」んじゃなかろか

ということであります。まずは、指定の定数から実験してみます。

1000Ω、L=20mH、C=0.047μH

まずはご指定の回路通りでボーデ線図を描いてみます。緑が入力信号 0dBVの設定(M1Kは「遅い」ので周波数が高いところで落ち気味。)オレンジが出力信号です。
2018decBode1000Ohmそれらしいプロットにはなっていますが、問題は、計算上、fLが約8kHz、fHが約3.3kHzとfL > fH であることです。本文説明では、LPFとHPFのANDをとった部分でBPFという形です。しかしこの定数では、LPF的にもHPF的にも通過帯域の外にピークが来るはず。計算上約5.2kHzあたりでピークが来るはずのLC共振の共振周波数が見えている感じ。本当か?

1000Ω、C=0.047μH

まずはコイルを取り除き、コンデンサのみでボーデ線図を書きなおします。-3dBとなる周波数をしらべると計算どおり3.3kHz付近。やはり先ほどのピークはLPFの通過帯域から外れてます。

2018decBode1000Ohm_NL

1000Ω、L=20mH

次にコンデンサを取り除き、コイルを戻してボーデ線図を書きなおします。-3dBとなる周波数をしらべると7.6kHz付近。やはり先ほどのピークはHPFの通過帯域からも外れてます。
2018decBode1000Ohm_NCこの定数の組み合わせについては、記事前半で説明されている仕組みとは「違う」ように見えます。

前半の説明の仕組みどおりだったらどうなるのか?自分勝手な定数で確かめてみました。抵抗を1kΩから470Ωに替えるだけです。LC共振周波数は変わりませんが、LPFのfHが7.2kHz、HPFのfLが3.7kHzと 説明通りの fL < fH な関係となります。

470Ω、L=20mH、C=0.047μH

説明原理通りの回路とすると、BWがかなり広がった、なだらかな特性が得られました。ピーク位置はは変わらないように見えますが、その高さは高いように見えます。
2018decBode470Ohm

470Ω、C=0.047μH

こちらでもコイルを抜いて、LPFだけの特性を観察します。期待値7.2kHzに対して7.1kHz程度のfHが観察できました。

2018decBode470OhmNL

470Ω、L=20mH

今度は、コンデンサを抜いて、コイルを戻して、HPFだけの特性を観察します。期待値3.7kHzに対して観察結果も3.7kHz程度のfLです。

2018decBode470OhmNC

本文説明と、実験の指定定数の「矛盾」気になります(それを良いことに面倒な実験手順を大分端折ってしましたが。)そこで「解答編」参照してみました。

December 2018 StudentZone Quiz Solution

これを読んで、この定数の問題、アナデバ様の深い慮りがあるのでは、という気がしてきました。fLとfH、1000Ωのときに自分で計算した結果と一致していました。計算間違いありません。つまり、fL > fH なのですが、そのことには何の言及もなく、そのままです。本文で説明したその先を自分で考えよ、という事みたい?

アナログ素人には深い投げかけであるなあ。。。

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