連載小説 第50回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化で私の見事な肉体は更に水平方向へ成長しつつも、同期の工作君とトム君とも一緒に毎日忙しくやっています。Appleの青井倫吾郎さんとは、二人でお食事を楽しむご関係に発展し・・・。私って絶好調かも、うふっ。

 

 

第50話 今度こそ、日本の半導体産業の光と影・・・のはずが

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の10年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)には水平方向成長化という由々しき異変がおこりましたが、アップル・コンピュータにお勤めの青井倫吾郎さんとは二人で毎週お食事を楽しむご関係に発展し、もしかすると近々婚約発表? でも、その前に確かめなければならない事があるかも・・・。

 

1990年の年末です。日本の実家へ帰省しています。

「ねえ、舞衣子。あなたの、その何て言うの、ふっくらした二の腕、更に逞しくなった感じよ」

お風呂上がりでバスタオルの私に母が言いました。

「え、そっかなあ」

「そうよ、冬場は腕とか見えないから周りが気づかないでしょ。だから家族が気づいてあげなければ、誰も教えてくれないのよ」

「それは、ありがとうございます、お母さま(笑)」

「ホントは彼氏とかが気づいてくれそうなものなのにねえ」

「やだ、お母さんたら」

「そのリチャードさんだっけ? 気づいてくれないの?」

「何言ってんの、リチャードとかじゃないから」

「じゃ、どなたなの?」

「や、そ、それは・・・」

私の好きな人は「青井の君」です。青井倫吾郎さんです。アメリカでAppleに勤めています。母の同級生の次男さんです。そもそも母から紹介されたのですが、つき合っていると言える自信が100%に達していないため、かえって今は、「私の彼は倫吾郎さんです」と言えない状況なのでした。

そこには、一つのが残されています。二人で毎週のように食事に出かけて、とても楽しい時間を過ごすのですが、どういう訳かそれ以上のというか、私の母親の言葉を借りれば、いわゆる一つの“リップの関係”に発展していないのです。

私は、その理由を考えてみました。

 

推論1.倫吾郎さんは私を好きではない? → いやいや、そんな事はないはず

推論2.倫吾郎さんには別の人がいる? → え、そんな、ヒドイ・・・

推論3.倫吾郎さんは女の子よりも男の子が好き? → や、多分、違うと思うんだけど・・・

推論4.倫吾郎さんは単に食事好き? → そうには違いないけど、だって毎週、私と、ですよ

推論5.倫吾郎さんは単に奥手?ってか私を大事にしてくれるフェミニスト? → うんうん、それならいいかも

これはもう、推論5でしょ!と私はポジティブに考えました。仮に推論1~4であったとしても、それはその時。仕方ない事を考えてもしょうがありません。No gingerです。

あ、因みにNo gingerはしょうがない、の意味ですね。日本語の分かる日系アメリカ人との間ではよく使われていました。

大晦日なので、昨年はアメリカにいて見られなかった紅白歌合戦を観てみました。「踊るポンポコリン」 だの 「さよなら人類」 だの笑かしてくれる歌も面白かったのですが、Cyndi Lauperが出てきたり、Paul Simon が出てきたりと、日米紅白歌合戦化していました。11時近くになるとあまり興味ない演歌ばかりになってしまったので、音を小さくして、また、母親と話し始めました。

「ねえ、お母さん、お父さんとはどうやって知り合ったの?」

「何よ、唐突に」

「だって、あんまり教えてくれないじゃん」

「そう? 別にヒミツにしてる訳じゃないのよ」

「だったら教えてよ」

「そうねえ」

「学生の時に知り合ったの?」

「どうだったかしら・・・」

結局とぼけられて、話題を変えられてしまいました。リビングにはお父さんもいたのですが、この話には加わって来ず、謎は残ったままです。

そんなこんなで夜も更け、除夜の鐘の鳴り響く 「行く年来る年」の映像が流れる中、1990年は幕を閉じ、1991年を迎えたのでした。

年末に世間では大抵10大ニュースというのが出て来るのですが、私も自分10大ニュースを振り返るようにしました。10だと多いので、3だとこんな感じです。

 

1990舞衣子の3大ニュース!

  1. 何と言っても、青井倫吾郎とGo outするようになったこと!
  2. 水平方向への肥大化を最小限に抑え、121パウンドで食い止めたこと
  3. アメリカでのお仕事2年目をenjoyしつつ乗り切ったこと

そして、10大目標も考えてみました。こちらも3で。

1991年舞衣子の3大目標!

  1. 倫吾郎さんとのラブをリップ以上の関係まで発展させる。
  2. 倫吾郎さんが望めば、115パウンドくらいまで何とかする
  3. 3年目に入るSS-Systemsでのお仕事でスゴイことやっちゃう!

ま、こんな感じで、一応1990年を振り返り、新年の目標も立てたという事で、つつがなく就寝したという次第です。詠人舞衣子32歳、1991年の幕開けです。

この続きはまた次回。

 

ん? それは、いいんだけど、何か忘れてる・・・?

そう、今回は記念すべき連載第50回ではありませんか。節目の第50回がこんな感じで終わっちゃっていいんでしたっけ? だって、ほら、半導体をはじめとする我が国の電子部品産業の光と影を描くはずが、今回も体重の話とかに終始してしまった・・・。これは、由々しき事態かも。

この調子では、いつまで経ってもお話は進んでいきません。50回かけてようやく10年ちょっとの進み具合です。現代へ行きつく頃にはとんでもない長編になってしまうのかも・・・。

ま、いっか。大河小説ですからね。

末永く私のお話とお付き合いくださいませ、うふっ

 

 

 

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