L.W.R.(35)古文書編#6 『bit別冊 16ビット・マイクロプロセッサ』共立出版

Joseph Halfmoon

米国にはBYTEがありました。そして日本にはbitがあったのです。コンピュータの雑誌(紙媒体)です。そのうちBYTEも取り上げさせていただくつもりですが、今回は共立出版の bit誌、それも1982年5月の別冊です。約250ページほどの分量ですが、まるっとその当時最新鋭の16ビット・マイクロプロセッサの解説書なんであります。

米BYTE誌はマニアというか、米国のオタクというかの琴線に触れる雑誌だったですが、紙媒体としては21世紀を迎えられずに終焉を迎えたみたいです。一方、bit誌は「コンピュータ・サイエンス」の風を吹かせていて、研究よりな感じがしました。出版元の共立出版さんは、確か学会誌みたいなものも手掛けていたのではないかしらん?しかし、bitは学会誌よりは「砕けた」感じ、でもアカデミック。私が楽しみにしていたのは、「bit 悪魔の事典」というコラム?面白かったです。bit誌は、なんとか21世紀は迎えられたみたいですが、そうそうに命運つきた、と。

しかし、惜しむ人が多かったのでしょう、2021年1月に以下のリリースが出てました。

イースト、共立出版と提携し、月刊『bit』全386巻の販売を丸善雄松堂より開始

買う人いるのかな?多分、私は多分買わないケド。。。すみません。

さて本題に戻ります。大分、記憶が怪しくなっています。本棚の奥から取り出してきたこの雑誌、bit 別冊といいつつ雑誌としての前後の脈絡なく、独立した1冊の書籍です。今時の言い方であれば「ムック」というべきか。長い事、8086とZ8000、68000、当時の三大人気の16ビットプロセッサの解説書だと思い込んでいました。実際、付録Bに「最近の16ビット・マイコン」という記事があり、その記事はまさに3つを表に並べているのです。たった1ページ。著者は石田晴久先生であります。当時、石田先生を知らないとコンピュータ業界ではモグリと言われたかもです(知らんけど。)

しかし実際には、この本、8086、Z8000、LSI-11、9900、68000、NS16000の6つを解説している本でした。充実のラインナップか?記憶から3つがすっぽり抜けていました。LSI-11は前々回くらいに出てきたVAX-11の前の機種PDP-11をLSI化したものですな。実際、PDP-11でも後の方の機種はLSI-11搭載だったのじゃないかしら。9900はTIですね。たしかTMS9900っていう型番だったじゃないかしらん。そしてNS16000はナショナル・セミコンダクタ(松下電器の古いブランドじゃありませんよ、米国の半導体会社です。日本ではナショセミと通称する人が多かったです。TIに買収されています)です。ナショセミというとアナログの会社というイメージが強いですが、マイクロプロセッサもやっていたのです(ただ、1990年代頃、ナショセミの中の人に聞いたら上層部はアナログな頭?の人ばかりで理解されんとこぼしていた記憶があります。)

そして最大の記憶欠落が、この本は訳書ということです。著者は Baldwin, Hubin, Scalon そして2人のTitus、そして訳者は石田晴久先生を筆頭に合計7名様の豪華メンバであります。まだまだ1982年頃だとマイクロプロセッサの最新情報は米国でないと、という感じだったのかなあ。まあ、今も大差ないかも知れないけれども。

改めて見返してみると40年ちかく前のマイクロプロセッサ話で、ところどころ時代を感じる部分もありますが、基本はあんまり変わってないですな。本文の中でいくつかの16ビットマイクロプロセッサでエクササイズしているベンチマークプログラムを石田晴久先生が付録A(これは訳ではなく、ご自身の執筆)で解説しているのですが、それをRISC-VかArmに移植しても当然動くでございましょう。平方根の近似計算のコードがあったので、今度やってみますか。

ご本で解説している6機種のうち、自分でプログラムしてみたことがあるのは、8086と68000の2機種のみ。多分LSI-11はCADアプリを処理してくれるマシンとしてお世話になっているかもしれないけれど、自分はプログラム書いてないです。その他3機種は触った記憶もありません。唯一、TIの9900は、秋葉原で「パソコン」を見た記憶があります。ただ高くてとても買えなかった記憶。

68000は自宅で趣味で使っていました。強烈な64ピンDIPでした。40ピンやPGAを見慣れた目にはデカイ。ちょうどそのころ会社では仕事で80286のプログラムを書いていたので、時々、アセンブラがこんがらがって困りました。俺の立派なプログラムが何でうごかんのじゃ、とみると、オペランドの左右が逆転しているのです。ご存じのとおり、インテルのアセンブラでは、ソースオペランドが右、デスティネーションが左です。ところがモトローラ(そうです68000はモトローラです。後に半導体部門が切り出されフリースケール、そして今ではNXPの一部門)のアセンブラでは、ソースが左、デスティネーションが右なのです。転送命令のニーモニックはインテルが MOV、モトローラがMOVE、流石にこれは間違えないです。間違えれば即アセンブルエラー。しかし、無意識に書いているとオペランドはときどき左右を取り違えました。これは単純なアセンブルエラーにならないので走らせるまで気づかないことあり。付け加えると、リトルエンディアンとビッグエンディアンの違いもありますが、こちらは気をつけているので意外と混乱しない。

年寄りの繰り言を誘発する1冊。

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