連載小説 第64回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化で私の見事な肉体は更に水平方向へ成長しつつも、毎日忙しくやっています。Appleの青井倫吾郎さんから、とうとうプロポーズされちゃいました。最高!

 

 

第64話 幸運の電話?

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の11年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)は水平方向へ更に見事な成長をとげたものの、アップル・コンピュータの青井倫吾郎さんから遂にプロポーズを受けちゃいました!

 

 

「トム君、美味しい物を食べに行こうよ。今日は私、ご馳走しちゃうから(うふっ)」

私は、同期で一緒にSS-Systemsへ赴任している富夢まりお君に婚約発表をしたくて仕方ありません。それで、夕方、仕事が一段落しそうな時間にお誘いしたという訳です。

「おいおい、どういう風の吹き回しだよ。なんかあったのか?」

「うん、まあ(ニコニコ)」

「その顔は、マンモスうれピー事があったってわけだな? 舞衣子はホント、分かりやすいよ(笑)」

(注:“マンモスうれピー”は、現在では死語となっていますが、1980年代に酒井法子さんが発明した喜びのお言葉です)

「そうなんだ(うふ)。でも、今は言わない。後でね」

「わーったわーった。じゃTake off at 7pmで」

「オッケー」

という事で7pmの5分前にそそくさと片付けをしていると、電話が鳴りました。

「Hello. Maiko speaking.」

「あのー、舞衣子さん、ごめんなさい。納期が危なそうなんです~

それは、日本の海外営業部からの電話でした。

「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってえ!どのお客さん向け?」

「それが、今一番急いでってお願いしてるシトラス・ロジック向けのASICです」

「ガビーン。今日、セールスから納期大丈夫だよねって念を押されたんだよねー。まいったなあ、何とかならないかなあ、ミッチー」

「それがですねえ、もしかしたらロットアウトかもって・・・」

「えええええ、ロットアウト~?」

(注:ロットアウト(Lot Out)とは、この業界では、最上級レベルの恐ろしい言葉です。製造したICのひとかたまりがまるごと不良品扱いになるという悪夢で、ひとたびLot Outが発生すると、品質的な大問題であるというのは勿論のこと、納期も確保できなくなってしまい、大騒ぎになってしまうのでした)

「ねえ、ミッチー、いつロットアウトかどうかの判断が出るの?」

「今日の午後には出ると思うんですけど」

「まいったー!工作君にも話上がってるかなあ?」

「はい、勿論です。課長に電話替わりましょうか?」

「うん、お願い」

ミッチーは海外営業部でSS-Systemsの営業担当をしてくれている女性です。私がアメリカ赴任をした1989年に中途入社で入ってくれたので、数ヶ月は一緒に仕事をしていました。今は、新宿のオフィスで島工作クンが課長をしている海外営業課のメンバーです。いつも助けてもらっているステキな女子です。

「工作く~ん、久し振り~」

「おお、舞衣子、元気?」

「うん。それはいいんだけど、何とかならないかな~。ロットアウトとかご無体なことを言わずに、ね」

「舞衣子、ごめんな~。ロットアウトじゃないといいんだけど。今、検査課の方で検討して貰ってて、結論は午後だってさ。舞衣子たちはいったん帰って大丈夫だよ。今、できる事はあんまりないから」

「私、これからトム君とご飯食べに行くところなんだけど、大丈夫かな?」

「ま、時差もあるし、しょうがないよ。そっちの朝までにはどうなったかミッチーからFaxを送っておくから」

「うん。でも、お客さんも大変みたいだからさあ、何とか納期を間に合わせたいんだよね~。祈ってます~

「OK。事業部とできるだけ調整をするよ」

「お願いします~」

「ああ。じゃ、トムトムにも宜しく」

「うん。色々ありがとう」

「じゃな」

「あ、工作君、一つだけ話していい?」

「どした?」

「私、婚約しました!」

「え、あの彼とか?」

「うん、倫太郎さん」

「そうか、良かったなあ。おめでとう!」

「ありがとう」

「で、いつ結婚するの?」

「それは、これから決めるんだけど」

「分かったら教えてくれよ」

「うん。ホントは電話じゃなくて、Face to Faceで報告できたら良かったんだけど」

「いや、それは仕方ないよ。みんなにはもう話したの?」

「ううん。工作君が一番だよ。トム君にもこれから食事に行って話すんだけど」

「そっか。じゃ、この電話のおかげだな、一番最初にボクがおめでとうって言えたのは」

「そうね。意外と縁起の良い電話だったかも(笑)」

「これで、ロットアウトじゃなければな(笑)」

「そう、願ってるよ~、工作く~ん」

「分かった。じゃ、工作にご馳走してもらえよ」

「うん、でも、今日は私がご馳走するよ」

「ま、いずれにしても良かった良かった。Congratulations !!」

「Thanks a lot !」

「じゃ、Bye-bye。食べ過ぎんなよ(笑)」

「今日くらいはいっぱい食べてやるわ(笑)」

「ははは」

「うふふ」

という会話があり、仕事はいったん忘れる事にして、ようやく食事に行ける事になりました。

 

お祝いだと言って、結局トム君がご馳走してくれました。同期君との楽しいディナーでした。

その日はいっぱい食べましたが、翌日からは少し自制しようと思いました。だって、倫ちゃんとの新しい人生をスリムな私で始めたかったので・・・。

 

詠人舞衣子、33歳、プロポーズ受諾済み、肉付き良好、結婚間近です(うふっ)

 

 

第65話につづく

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