連載小説 第70回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。お仕事は毎日忙しくやっているんですけど、運命の人、Appleの青井倫吾郎さんと、とうとう結婚しちゃいました。それからもう1年以上経ち、日本へ二人で里帰り中です。ステキです。うふっ。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第70話 ランお義母さんのお話

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の13年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)は水平方向へ更に見事な成長をとげたものの、アップル・コンピュータの青井倫吾郎さんと遂に結婚しちゃいました!ステキです。うふっ。

 

結婚してから一年ほど経ったのですが、1992年の年末に久し振りの日本への里帰りで、倫吾郎さんと二人で東京の実家へ来ています。倫吾郎さんのお母さんは私の母親の元同級生なので、ずっと仲良しで、倫ちゃんと一緒に遊びに来てくれました。4人でお話しているうちに、母親二人が、私と倫ちゃんの知り合うチャンスを作ってくれた時の話になり・・・。

 

ランお義母さんが話を続けました。

「倫吾郎がまだ離婚できていない事は分かっていたけど、実質的にボストンの彼女とは別れてしまったって聞いていたから、今度は本当に生涯の伴侶になれる人を探して欲しいなとは思っていたのよね。それで、色々な人と出会う機会だけはたくさんあったらいいなって思ってたわけ。そんな話をスーちゃんには聞いてもらっていたから、倫吾郎が一時帰国をするって分かった時に、スーちゃんに何か機会はないかなって相談してみたって訳なの。別に舞衣子ちゃんって決めて話していた訳じゃないのよ。ねえ、スーちゃん」

「うん、そうよ。色々相談に乗ってたの」

「で、スーちゃんと色々話しているうちに、舞衣子ちゃんに会ってもらうのもいいかなって話になって・・・」

「そう。あの時は別に舞衣子とどうのって事じゃなくて、倫吾郎ちゃんにとっても、舞衣子にとっても、色々な人との出会いの可能性は広がるんじゃないかなって、私も思ったのよ。ねえ、ランちゃん」

「そう。だからね、あなたたち二人がこうなる可能性はゼロではないと思ったけど、私もスーちゃんも、ホントに結婚する事になるとは思っていなかったのよ。そうなったらいいなあという期待はちょっとだけあったんだけどね」

「そうそう、“もしも二人がくっついちゃったら私たち同級生ってだけじゃなくて、家族だね” なんて笑ってたの。ねえ、ランちゃん」

「そうだったわねえ。スーちゃん(笑)」

「そう、私も、倫吾郎ちゃんと舞衣子が一緒になってくれたら嬉しいなとはちょっと思ったんだけど、あの時はまだ舞衣子は日本にいたでしょ。アメリカを担当はしてたみたいだけど、赴任する事になるとは思っていなかったから、単純にアメリカ関係で知ってる人を増やしておいて損はないんじゃないかくらいの気持ちだったの。ランちゃんも一緒よね」

「うん、そうなの。何かの時にお世話になるかも、くらいの感じね。だから、それから2年以上もたって二人から結婚するって聞いた時はびっくりしたわよ。だって、4年前に二人が明治神宮へ初詣に行った時だって、帰りにはぐれちゃって、それっきりだって言ってたから(笑)」

「私もよ、ランちゃん。舞衣子からはぐれちゃったって話を聞いて、思わず笑っちゃったけどね(笑)」

「あははは・・・」

「あははは・・・」

母親二人は屈託なく笑っていました。

「だからね、舞衣子ちゃん、お二人には機会は提供したけど、その後の展開はお二人次第だったって事。倫吾郎がその頃まだ婚姻状態だったとしても、それを伝えるも伝えないも、どんな話をするかも、全部あなたたち次第だったというわけ。舞衣子ちゃんの気持ちを思いやるのも倫吾郎次第だって、思ってたのよ」

「そうだったんですね、お義母さん。その時の状況がよく分かりました。お話聞かせてくださってありがとうございます」

「ええ」

「ねえ、倫ちゃん。あれから色々あったけど、私たちの始まりの日のこと、また思い出しちゃった。倫ちゃん、ぎこちなかったよ(笑)」

「そうだよな、まあ、あはは」

初めて二人で会った時の倫ちゃんは、何だか、会話ぎこちないけれど、きっといい人なんだろうなあと感じた事を思い出しましたが、ぎこちなかったのは、そんなこんなの状況があったからだと、今になって合点がいきました。

世の中、色々ありますが、出会いというのはホント運命かも知れません。そして、運命の赤い糸という言葉もありますが、赤い糸を結びつけてくれたのは、私たちの母親二人であったのですね。感謝です(うふっ)。

「ねえ、ところで、大晦日なんだから、今日は一緒にお蕎麦食べない、ランちゃん?」

私の母親が提案しました。

「いいわね。うちへ帰ってからまた食べるんだけどね。こっちでも頂くわ。あはは」

ランお義母さんも食欲は旺盛な方のようで、私と通じるものがあるのでしょうか(笑)。

うちで食べる母親のお蕎麦は、かき揚げと一緒に頂くのですが、このかき揚げが絶品で、ちょうど良い加減に茹で上がった二八蕎麦との相性もよく、外ではなかなか食べられない味なんです。ホントの日本の味のような感じがしました。

明日は元旦。一体、どんな一年になるのやら、楽しみですね。

何だかほっこりする1992年の暮れでした。

 

次回は1993年特集かな?

 

 

第71話につづく

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