連載小説 第74回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。運命の人、Appleの青井倫吾郎さんと、とうとう結婚しちゃいまして、うふっ、楽しいです、仕事も生活も。そして、私たちのもとへスゴい新製品がやってきちゃったのです。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第74話 カードPCってIntel入ってる?

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の14年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。アップル・コンピュータの青井倫吾郎さんと遂に結婚しちゃいました!ステキです。うふっ。面白い商品がお披露目されました。

 

これから前回の続きをお話するのですが、カードPCという新商品のお話です。Intel入ってるのです。

開発エンジニアの三二村さんが日本から出張してきてくれました。そして、カードPCを高らかにかざすと、

「では、これからデモンストレーションを行います」

と言って、電源やら表示装置やらを繋ぎました。

「それでは、スウィッチオン!」

「Oh!」

歓声が上がりました。表示装置には、いつも見ているWindows3.1のスタート画面が現れました。

「Mr.Minimura, this is a real PC, but very small, isn’t it ?」

「そうなのです。完全にPCです。カードサイズのPCです」

「Yeah!By the way, Mr.Minimura, is Intel inside ?」

「そうなのです。インテル入ってるのです」

「Super ! Intel inside in such a small area !」

「はい、ここで使っているインテルは386なのです」

「Wow, 386 inside. Beautiful !」

インテルの80386というCPUは当時長いこと、PCに使われていました。既に80486という上位機種が発売されて移行しつつありましたが、80386とWindows3.1はセットでPCの標準になっていました。

「Mr. Minimura, may I ask you a question?」

「どうぞ」

「What is the target application ?」

「大変いい質問です」

「All right.」

「そこを皆さんに考えて頂きたいのです」

「What?」

「ですから、超小型PCなのですが、まだ何に使っていいのか、よく分からないので、皆さんのマーケティング力で調査して頂きたいのです

「Are you sure ?」

なんだか、怪しくなってきました。ローカルのマーケティングとセールスはターゲット市場を教えてもらって、どんどん売り込みに行きたいという風でしたが、ターゲット市場がよく分からないと言われてしまい、逆に教えてくれといわれてしまったのでした。喜んだけど、期待はずれだった、という感じのローカルスタッフに対して、トム君が何とかとりなすように話しました。

「皆さん、この製品はスゴい技術に基づいて作られています。世界一小型化したPCです」

「Oh yes, understood.」

「ですので、スゴいポテンシャルをもっているのです」

「OK, I agree. But, then, what application did you develop it for ?」

「そこです。皆さんに力を貸して欲しいのは。どんなアプリケーションが考えられるか、現場で調べて下さい」

「Ummmm, any thoughts?」

「考えられるのは、小型機器です。そうですよね、三二村さん」

「ええ、そうです。まずは小型機器だと思います」

「What kind of small products ?」

「オーケー、ガイズ、ミスター・ミニムラはそこを皆さんで調査して欲しいと言っています。上手くいけば、大きな市場があって、皆さんも売上げガンガンあげて、ガッポガッポです」

「Tom, what is Gappo Gappo ?」

「ガッポガッポとは、大儲け、ビッグマネーです!」

「Oh, Gappo Gappo ! That means I can make big money, right, Tom?」

「その通りです!」

「Good. I ilke Gappo Gappo,」

「そうです。あなたも大好き、ガッポガッポ。私も大好き、ガッポガッポです

「OK, I will try to find out the application for the CardPC」

「I will, too, for Gappo Gappo !」

「Me, too, Gappo Gappo !」

トム君のガッポガッポという誘いの言葉で急激にローカルスタッフは色めきだち、やる気を出したようでした。「小型機器です」 などと、ほとんど誰でも想像がつくような事を言って危なくなりながらも、”Gappo Gappo” というセールスの脳を刺激する言葉で何とか彼らをその気にさせて乗り切ってしまったのでした。セールスはガッポガッポに弱いのです(笑)。

正直に言いますと、当時のSS-Systemsもサイコーエジソン株式会社も、残念ながらあまり科学的にマーケティングができていませんでした。ターゲットが明確でないのに技術先行で新しいものを作り、とにかく顧客にその新製品を持って行って、何か使えない? と聞いて回るようなやり方でした。闇雲な方法なので、効率も悪く、本質的にはトンチンカンなのです。本来は、もう少し事前に顧客のニーズを考えて、この用途なら課題を解決できる、だから売れる、という仮説をたてて、そのターゲット顧客を重点的に攻めるというのが売上げに最も近い方法なのでしょうが、製品開発の時にどうしても技術先行になり、スゴい製品ができたぞ、やったー!ところで何に使うんだ?という図式でした。何故このような製品が必要なのか、それによって何を実現するのか、どんな課題を解決するのか、というようなポイントにフォーカスできていないのでした。

この図式はサイコーエジソン株式会社において、なかなか変わらず、私たちを苦しめる事になります。もっと言えば、日本の電機電子産業の中で、長きにわたって未解決の「技術先行プロダクトアウトの罠」とも題すべき、多くの企業に共通した課題なのでした。

よくよく考えてみると、世界一小さいPCではあるのですが、PCというには表示体がそこについている訳ではないので、正確に言えば、世界一小さいPCというよりは世界一小さい「PC基板」のようなものです。PCとして機能するためには、外付けに表示体やキーボードなどの入力装置が必要で、基板がいくら小さくても、結局、表示体などの大きさで製品の大きさが決まってしまうと言ってよかったでしょう。

という状況なので、鳴り物入りで登場したカードPCは、まだまだこれから、というのが本当のところでした。でも、何かスゴい製品でありそうなのはその通りで、もしかしたら、思いもよらぬアプリケーションがあって、ガッポガッポなのかも、と思わせるモノが現れたのでした。

期待の新製品カードPCは世の中を席巻できるのか?

サイコーエジソン株式会社とSS-Systemsの力量が試されていました

大成功を収めたのか、カードPC?

その答え合わせはまたの機会に・・・うふっ。

 

 

第75話につづく

第73話に戻る