連載小説 第77回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。運命の人、倫ちゃんと結婚して、仕事も生活も半導体事業も絶好調ですよ。SS-Systems Inc設立後、もう10年になろうとしていました。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第77話 10周年記念です

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の14年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。運命の人、倫ちゃんと結婚して、仕事も生活も絶好調です。半導体事業も絶好調です。

 

SS-Systemsの設立は1983年でしたので、ちょうど10年経った事になります。設立当初から10年勤続しているのはダニエル社長の他はほんの数名です。一つの会社にとどまらず新しい仕事にチャレンジする人が多いシリコンバレーでは自然の成り行きですね。特に設立から2,3年は、まだまだ会社の規模も小さく、知名度も高くなかったので、定着する人材は少なかったのですが、その後、売上げも伸び、販売だけでなく開発設計の機能を持つに至って、社員数も200名近くに増え、比較的長く勤続するコア人材も増えてきました。

私やトム君が赴任してきた1989年からは4年ほど経ったところですが、その頃から一緒に勤務している社員が何人もいて、とても良くしてもらっています。そのおかげか結構アットホームな会社だと感じています。

11月には、設立10周年の記念パーティを開催する事になりました。日本からはイケイケの半導体事業部長や海外営業部長もいらして参加して下さいました。それと、SS-Systems設立の立役者である島工作君もきてくれたのでした。工作君は設立以来8年くらいSS-Systemsにいたわけで、とてもスゴいのです。何がスゴいって、ホントにスゴいんですから(笑)。

久し振りに工作君とトム君と私の同期3人で会えて嬉しいのと美味しい日本食を頂きたいのとで、私たちはEl Camino Real沿いにある日本食レストランへ出かけました。

「かんぱ~い!」

「いやぁ、工作ぅ、また一緒に飲めて嬉しいよ、俺は」

「トムぅ、ボクもうれしいよぉ!」

「やっぱ、ビールだよなぁ、俺たちは」

「うん、ビールだよぉ」

と工作君とトム君は大げさに乾杯しています。

「ねえ、なんであなたたちって、いつもそう芝居がかってるわけ?

「え、芝居がかってるか、舞衣子?」

「そうよ、別に10年ぶりに会ったって訳じゃないんだからさあ」

「ま、そうだな、この前は3ヶ月前だっけ、工作?」

「ああ、前回出張で来たのは8月の終わり頃だったかな」

「でしょでしょ。あん時だって、二人とも大げさに懐かしいなあ工作ぅ、トムぅ、とか言ってたじゃない」

「ま、そうだね」

「でも、まあいいじゃないか、こうしてビールを一緒に飲めるというのは幸せな事なのだよ、舞衣子。な、工作?」

「うん、アメリカへ出張してくるのは、なんてったってトムと舞衣子がいるから楽しいよ

「だろだろ」

「うん」

「ま、いいわ、二人とも、そうやってじゃれてなさい」

「何だよ、舞衣子、君もじゃれればいいじゃないか」

「おあいにく。私はもう人妻なんだから、そんな子どもじみた事してられないの」

「え、もう人妻って、2年以上も人妻やってて、今更それ言うか?」

「悪かったわね、2年以上も人妻で」

「いや、悪くないよ、舞衣子。ボクだって、10年近くおっとだから」

「あら、ありがとう。その割にお二人ともいつまでもお子様のようだけど」

「まあ、そうなんだけどさ、舞衣子。君だけが大人になってしまうと俺たちの立場というものがだねえ」

「何よ、トム君の立場って」

「ん、まあ、その、ね・・・。おい、工作も何とか言ってくれよ」

「ああ、トムはね、トムの立場ってモノがあるらしいよ」

「二人とも、なんて無意味な会話をしているのかしら。さっきから、話してる内容が無いよぅ」

「え?」

「内容が無いよぅ?」

「もしかして、なんか面白い事言った、舞衣子?」

「・・・」

変な沈黙が私たちを包み込みました。私が、発したひと言がだじゃれに聞こえてしまったようです。あはは、ですね。

思えば、私も2年以上も人妻をやっている訳ですが、倫ちゃんも私もそれぞれ仕事が充実しているので、結婚する前と大きな違いはないような生活をしています。お互いの生き方をリスペクトできているので、変に干渉する事もなく、それぞれ自分のペースを崩すことなくやっているように思います。もちろん楽しいんですよ、倫ちゃんとの結婚生活は。でも、仕事関係の会食も、特に同期の二人との飲み会もとっても楽しいので、一昔前のステレオタイプの日本の主婦みたいに、家に閉じ籠もっているような事は全くありません。自由で豊かな社会っていいですよね。仕事も生活も充実している感じでした。

その後、遅れてやってきたチーバ君も合流して、私たちは飲んだり食べたり大笑いしたりと、日本食レストランでのひとときを満喫したのでした。帰りには倫ちゃんが車で、迎えに来てくれましたよ。工作君をホテルへ送ってもくれましたしね。優しいハズバンドさんです。うふっ。

その翌日、SS-Systemsの10周年パーティは、North First Street近くのRed Lion Inn というまあまあゴージャスなホテルのボールルームで行われました。旧知のメンバーがとても多い工作君は元同僚たちと楽しく語らい合っていました。SS-Systems設立当初からホントに苦労してこの会社の基盤を作ってくれた人です。実質的にファウンダーの一人と言っても過言ではないでしょう。

そんな同期の工作君を私は誇りに思っています。そして、私やトム君が今こうして充実した仕事をできているのも工作君のおかげだなあと今更ながらに感謝するのでした・・・。

 

第78話につづく

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