連載小説 第88回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任していましたが、夫の倫太郎さんがソミーヨーロッパへ転職する事になり、私もサイコーエジソンの現地法人があるドイツのミュンヘンへの異動が決まりました。IT環境は、インターネット、電子メール、Windows95と新時代を迎える中、ヨーロッパでは携帯電話の普及というビジネスの波が起こっていました。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第88話 ミュンヘン空港へ降り立ちました

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の16年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任し、今度はヨーロッパの現法への異動が決まりました。ドイツのミュンヘンへひとっ飛びです。

 

「倫ちゃ~ん。お迎えありがとう」

私はとうとうヨーロッパはドイツのミュンヘン空港へ降り立ちました。今日からミュンヘンの住人です。夫の倫太郎さんも一緒なのでとても心強いのです。

「舞衣子~、会いたかったよ~」

「私もだよ~、倫ちゃん」

でれでれの夫婦でごめんなさい(笑)。でも、1ヶ月ほど、アメリカとドイツと別々に暮らしていたので、早く会いたかったのです。ま、1ヶ月なんて大した事ないと言えば、大した事ないんですが、若い二人にとっては、長い時間だったんですよ。

え?あ、すみません、若い二人とか言っちゃいましたね。うふふ。ちょっと表現が間違っていましたかもです。倫吾郎さんも私も30代後半でした(汗)。結構いい年でした。でも、気持ちは若い二人だったんです。

これから新天地で生活していく事を考えると、少々の不安はあるものの、どんな面白い事が待っているのだろうかと、ワクワクする気持ちの方がずっと強かった事を覚えています。

私は、子どもの頃住んだカナダ、つい昨日までいたアメリカと、北アメリカ方面の事は良く知っているのですが、ヨーロッパには殆ど馴染みがないという状態でした。ですので、見るモノ聞くモノ全て新鮮で、ちょっと別世界に来たような感じがしました。だって、空港でもドイツ語がとびかっているんですよ。日本語と英語しか分からない自分にとってみれば、What? What? What? の連続です。ドイツ語的に言えば、Was? Was? Was? の連続です。

行き交う人々も違って見えました。アジア人やアフリカ系の人は少なくて、殆どがヨーロッパ系の人に見えます。昨日までいたアメリカ、特にカリフォルニアでは、色々な国から来た人たちがいて、ヨーロッパをルーツとする人は半分くらいしかいない感じがしていましたが、ミュンヘンではほぼ全員がドイツ人的な人です。実際にはドイツ人だけでなく、ヨーロッパの他の国から来ている人も結構いるらしいのですが、殆どがヨーロッパ系です。

それと、アメリカとの大きな違いは、おデブちゃんが少ない事です。がっしりしている人は多いのですが、そのがっしり感はアメリカと違って、おデブではありません。食文化が影響しているのでしょうか。ま、誤解を恐れずに簡単な言葉で言ってしまえば、ヨーロッパ:かっこいい、可愛い vs アメリカ:色々 という感じです。

もう一つ大きな違いは空の青さです。ミュンヘンの空も青いのですが、カリフォルニアとはちょっと違って見えました。言葉で言い表すのはちょっと難しいのですが、両方を感じた事のある方なら、その違いが分かると思います。だからといって、どちらが良いという話ではありませんよ。ミュンヘンの空もステキです。

ミュンヘンが属するバイエルン州では州の旗など色々なところに青と白を組み合わせた菱形の模様が使われています。有名な自動車メーカーのBMWのエンブレムも青と白がモチーフになっていて、バイエルンの空の青に由来するとも言われています。

倫ちゃんの運転する車で空港からミュンヘン市街へ向かいました。いい天気です。カリフォルニアの天気よりは日本の天気に近いような感じです。なぜならば、ただ青いだけではなく、白い雲も見えているからに違いありません。

アウトバーンと呼ばれる高速道路はよく整備されていますが、速度無制限の区間もあるというのはちょっとびっくりです。時速200kmくらいで走る事もあるらしいのですが、アメリカでは考えられないですね。日本はもっとです。

空港から市街へ向かうアウトバーンには無制限区間はありません。さすがに通行量の多い区間では速度制限があります。それでも、どの車も、びゅんびゅん走っています。一般的にドイツでは車の性能が優れているようです。これもアメリカとは大部違う感じです。サンフランシスコとサンノゼを結ぶハイウェイ101などを走っていると、よくこんな壊れたような車に乗ってるなあと思うような古ぼけた美しくない車を見る事もありましたが、ドイツではそのような事はありません。多くが、ベンツ、BMW、アウディなどの高級車で、アメリカで見るようなヤバそうな車は見当たりません。

アメリカでドイツ車を見る事はあっても、ドイツでアメリカ車を見る事は殆どありませんでしたね。ほんのたまに日本車が走っていましたが、9割以上はヨーロッパ車で、世界の自動車産業勢力図が見えるようでした。

そうこうしているうちに、私たちが二人で住むフラットに到着しました。あ、フラットというのは、ヨーロッパでの言い方で、日本でいうマンションの事です。アメリカ的にはコンドミニアムとかアパートメントとかですね。

倫ちゃんが探してくれたフラットは閑静な住宅街にあり、2LDKのステキな住まいでした。小綺麗なリビングとダイニングの窓から外が見えて、とてもステキでした。私は一発で気に入ってしまいました。それに、リビングの壁は一面が棚になっていて、色々な本や花や置物を置くと、益々ステキに見えるという作りです。

「倫ちゃん、ステキな部屋ねえ。いいフラットを探してくれてありがとう。チュッ」

思わず、ほっぺたに感謝の気持ちを表してしまいました(笑)

 

 

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