お手軽ツールで今更学ぶアナログ(102) ディスクリート・トランジスタでユニティゲインアンプ

Joseph Halfmoon

「アナデバ社(ADI社)のWeb記事『StudentZone』を初回からすべて読む」の2021年10月号2回目は、ユニティ・ゲイン・アンプ(ボルテージ・フォロワ)です。前回は反転型のオペアンプ。その後に「なしてユニティゲイン?」。しかし回路みると集積回路風のテイストです。アナデバ様の深い慮りがありかと。IC化せよと?

前回の反転型オペアンプ回路は、ディスクリート・トランジスタ「4石」のシンプルな回路でした。しかし抵抗やらコンデンサやら受動素子をバリバリ使ってました。そういう回路は、基板の上で回路を作るときには良いですが、IC化しようとなると意外と大変かもしれませぬ。なんといっても集積回路の上に抵抗とか容量を実装しようとすると、定数によっては馬鹿デカイ面積が必要になったり、精度がでなかったりするからです。

その点、今回実習いたしますボルテージ・フォロワの回路は抵抗1個以外受動素子はありませぬ。トランジスタばかり。IC化するには良い回路なのかも知れませんで。

トランジスタが足らないのよ

とはいえ机の上でICが作れるわけもなく、今回はNPNのディスクリート・トランジスタ2N3904を6個、PNPの2N3906を2個使用する回路です。アナデバ様によれば、Q1とQ2はマッチングがとれていることが重要なので単体の2N3904よりデュアルNPNトランジスタSSM2212を、Q3とQ4は単体2N3906よりデュアルPNPのSSM2220を推奨されています。しかし以下の事態に直面しました。

手元のアナデバ製ADALP2000学習用パーツキットには、

    • SSM2212もSSM2220も含まれていない。
    • 2N3906は5個含まれている
    • 2N3904も5個含まれている

およよ、2N3904が1個足りないじゃないの。

実はADALP2000の「お品書き」には、2N3906も2N3904も3個と書かれているのです。しかし実際には5個づつ入っています。以前、これに気づいて「ラッキー」などと思いましたが、実は違うと。今回は2N3904を6個必要だと。どうする?

どうもアナデバの「中の人」はADALP2000には2N3904が5個「しか」入っていないこともお見通しみたいです。1か所引用させていただきます。

2N3904が足りない場合、Q5は「TIP31C」で代用してもかまわない

ほえほえ、荒業です。TIP31Cは確かにADALP2000に含まれております。ごつい「パワートランジスタ」です。ごつさは冒頭のアイキャッチ画像をご覧ください。それでもボルテージ・フォロワはできる、と。

まずはLTspice

通例にもとづき、まずはLTspiceしてみました。回路は以下に。この状態では当然トランジスタ間のバラつきなどありませぬ。また部品が不足することもありませぬ。ピュア2N3904+2N3906です。8トランジスタの回路です。

UnityGainAMP

シミュレーションしてみたものが以下に。黄緑の入力信号1+が見えないのは、青色の出力信号2+が、ほぼ完璧に重なってしまっているためです。ボルテージ・フォロワぞなもし。

UnityGainAMP_TIM

 

実機回路

ブレッドボード上に組み立てた回路(出力段のQ5用の2N3904が不足なので、TIP31Cで置き換えたもの)にアナデバ製ADALM2000の代わりに、Digilent社Analog Discovery2を接続したものが以下に。

DUT_connected

電源ONっと。黄色が入力C1、青色が出力C2です。あれれ、出力が0.5V付近でクリップ?しているじゃん!

BAD

いや、ブレッドボード組み立てたときに回路はよくよく確認したつもりなんだけれども。。。

調べたらツマラナイ失敗でした。Vpの電圧、5Vと設定したつもりが1Vになってました。そりゃ「クリップ」されてまうやろ。

BAD_reason

Vpを5Vに修正した後の波形が以下に。シミュレーション同様2つの波形がほぼほぼ重なってしまうので、わざとY軸方向ずらしてあります。

GOOD

ボルテージ・フォロワというか、ユニティ・ゲイン・アンプ、動いてますな。これまた、あったり前か。

なお、アナデバ様の記事の末尾には「付録」ということで「プリント基板に実装されたより高度な回路」というものが掲載されています。2N3904と2N3906、合計11トランジスタとダイオード1個、抵抗、キャパシタ多数からなるオペアンプの回路例が掲載されています。本格的?アナデバ様のGitHubを漁るとボードの設計ファイルもあるみたいです。プリント基板を作れ、ということですな。。。どうする。

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