連載小説 第99回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任していましたが、夫の倫ちゃんのドイツ転職を機に、私もミュンヘンにある現法へ異動しました。ヨーロッパでは携帯電話の普及というビジネスの波が起こっていました。我々の半導体製品もその波に乗って大忙しです。同期のトム君も赴任して来ちゃいました。また一緒です。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第99話 新年の抱負“世界の料理を食べ尽くす”と、飛ぶボタン

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の16年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任し、今度はヨーロッパの現法へ異動しました。ドイツのミュンヘンで倫ちゃんとの新しい生活がスタートです。新婚さんみたい。うふっ。新年を日本の実家で迎えました。

 

前回のお話で詠人家の謎に少しだけ迫ったように思えたのですが、決定的な事実は発見できないままでした。今回はそこに再度迫るのかどうかという展開だったのですが、とりあえず、無事に1996年を迎えたところです。

「明けましておめでとうございま~す。 Happy New Year !  Frohes neues Jahr!」

私の家に倫ちゃんとお義母さんの蘭さんもいらっしゃって、みんなで新年の乾杯をしました。日英独の3カ国語です。

私の妹の詩織も2人のおちびちゃんを連れて夫婦でやってきました。よくある4人家族になっています。彼女も色々な事にチャレンジしたい性格ですが、まずは2人の子どもをしっかり育てていきたいという現実的でナイスな目標を持っています。大勢の集まりの場では、小さい子どもが賑わいを加速させます。いきおい、みんなの目がそちらに向くので、暫く両親は孫との関わりで満足しているようでした。

子どもが遊び疲れて、別室でお昼寝になったところで、矛先は倫ちゃんと私に向かったのでした。

「ところで、お義姉さん夫婦はミュンヘンではどんな生活を送ってるんですか?」

詩織の夫が聞いてきました。

「どんな生活って、まあ、普通の生活よ。普通の」

「あ、普通の生活なんですね。倫太郎さんはお仕事は忙しいですか?」

「うん、忙しいねえ。」

「ソミーですよね」

「うん。ソミー」

「何をやってるんですか」

「ちょっと、あなた、そんなに矢継ぎ早に質問ばかりするんじゃないわよ」

詩織が夫君を制しましたが、倫ちゃんは質問に答えて、

「ソミーミュンヘンの社長です」

「おお、それは忙しいでしょうね」

「いや、それ程でもないんですよ。細かい事はみんスタッフがやってくれるんで」

「そうなの、倫ちゃんはね、時間的にはそんなに忙しくない時も多くて、私の方が帰りが遅いんだよね。私のところの仕事は毎日のオペレーションで、止まる事がないからさあ」

「へえ、そうなんですね。そもそも、ソミーミュンヘンは何をなりわいにしているんですか?」

「ああ、そこはちょっと企業秘密なんだけど、まあ、携帯電話関連の業務ですね」

「おお、はやりの携帯電話なんですね」

「世界の中で、今はヨーロッパが一番進んでいるのでね。色々調査したり、開発のための仕掛け作りをしたりしているんですよ」

「へえ、スゴいですね。という事はソミーがヨーロッパで携帯を売るって事なんですか?」

「えっと、そこは、企業秘密なので、ご勘弁ください」

「あ、いや、失礼しました」

ちょうど、子どもの毛布がはねのけられたようで、

「あなた、ちょっと毛布直してきて」

と詩織に頼まれて夫君は場をはずしました。

「ねえ、倫ちゃん、それより、ミュンヘンで見つけた面白い話をしようよ。みんな聞きたいって言ってたから」

「うん、そうだね」

「ねえ、聞いてもいい? 舞衣子お姉ちゃんは料理するの?」

「ん・・・・」

「あれ、どういうお返事かな、お姉ちゃん(笑)」

「する時はするのよ、私だって。でも、倫ちゃんの方が沢山してくれるの」

「そうだと思った。倫太郎さん、あんまりお姉ちゃんを甘やかさないでくださいね」

「いや、ボクはそんな、甘やかすとかじゃなくて、その・・好きでやってるんで」

「そうなの、そうなの、ね、倫ちゃん(笑)」

「舞衣子、あなた、忙しいのは分かるけど、休みの日くらいお料理すればいいじゃないの」

「うん、分かってる。やってるよ、少しは。けど・・・休みの日は休みの日で忙しいんだよね。ね、倫ちゃん」

「あ、ええ、休みの日は、大体はレストラン開拓に出かけているんです」

「あら、それはステキね、倫太郎さん。でも、それだと、尚更お料理する機会が減るわね」

「お母さん、いいじゃない、私もやる時はやるんだし、そんなに下手じゃないのよ。それより、折角の世界のお料理を現場で頂かない手はないと思うの」

「それにはボクも賛成しているんです。アメリカ時代からもそうなんですが、世界には色んな料理があって、その道のプロがcookしてくれているのですから、それを頂かないのは勿体ないと思うんです」

「いいなあ、お姉ちゃんたちは、いっぱい美味しいものを食べられて。私なんか、チビが二人もいるからめったにステキなレストランなんて行けないからね。ぷんぷんだよ」

「ごめんね、詩織。今のうちに倫ちゃんと二人で世界の料理を食べ尽くすからね(笑)」

「お姉ちゃん、だからって、胸のボタン吹っ飛ばすほどに食べちゃダメだからね」

「え、詩織、知ってるのその話?」

「あら、舞衣子、ゴメンね。詩織には話しちゃった。あはは」

「やだ、お母さんたら、あはは」

「あはは」

「あはは」

という訳で一同“あはは”となり、元旦の短い日は陰っていくのでした。

あはは・・・。

 

 

 

わお、次回は記念すべき 「第100話」

第98話に戻る