L.W.R.(44) 古文書編#14、SPICEによる回路設計(ディスク付)、1994年

Joseph Halfmoon

みんな大好きSPICEは誰もが使う(ホントかいな?)回路シミュレータ。解説書の類も多数存在。その中で30年前のこのご本がちょっと異色なのは、SPICEのマクロモデル、ビヘイビアモデルの作り方に特化しているということであります。購入させていただいてほぼほぼ30年、本棚の奥に眠っていたこのご本に日の目をあてるときが来た?

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冒頭に、この本の付録の未開封の3.5インチ・フロッピーの写真を掲げました。これの意味するところは、開いてファイルを確かめてない、ということであります。本体ページも極めて美麗。読んだ形跡もありませぬ。まあ、購入させていただいた90年代中盤、「買っただけで満足」していたことがアリアリです。今となっては3.5inchFDを読める装置とてありませぬのだ。。。

ところが最近SPICE(アナログデバイセズ社のLTspiceです)を使わせていただくことが多く、いろいろSPICEでやりたい希望がでてまいりました。そこで思い出したのが本書の存在であります。

    1. SPICEによる回路設計(ディスク付)
    2. 1994年5月25日初版
    3. J.A.コネリー/P.チェイ著
    4. 青木均/青木由美子訳
    5. 株式会社トッパン

表紙が以下に。SPICE_BOOK

印刷業界の巨頭、トッパンさんが自ら出版されておるのです。しかし業界人ならお気づきでしょう。トッパンといえば半導体設計も大手です。トッパン社内の設計者のデマンドも入っていたようにも推察されます。

当時、この本がユニークであったのは、マクロモデル、ビヘイビアモデルの作り方に特化していたためです。SPICEそのものは90年代には既に「枯れた」感じのするプログラムであり、半導体会社、CADベンダなどはそれぞれのSPICEツール上で、自社のプロセスを反映した「デバイス」モデルの作成と精度向上に血道をあげておった、と。ここでの「デバイス」というのは「トランジスタ」のことです。微細化をつづけるトランジスタを、そのレベルでいかに現物の挙動とあわせていくのか。当時も今もMOSモデルとそのパラメータはめくるめく官能の世界らしいです。プロフェッショナルな仕事ではありますが、トランジスタの挙動レベルのモデルが必要なのは半導体会社の中の人ばかりです、多分。

一方パソコンが普及するにつれ、SPICEを実行可能なコンピュータが徐々に増えていきます。70年代、80年代前半くらいまではメインフレーム、ミニコンであったものが、80年代後半にはパソコンでもなんとかなる世界へ。なんといってもFPU、8087とその後継の普及が後押しをしたのでないかと。するとICの外側で回路を検討するのにもSPICEシミュレーションが有効な手段となってまいります。そのときにメーカの供給するわずかばかりのSPICEモデルに飽き足らず、自らモデリングをしたいと考えた人々のための御本、それが本書でなかったか、と(勝手な意見です。)

爾来30年の時を経て(だいたい)、ようやくそういう境地に私メも達したと(ホントか?)別件シリーズ『SPICEの小瓶』にて、本書にもとづきマクロモデルの作成に取り組んでみる予定。大丈夫かアナログ素人が?

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