連載小説 第124回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。米国現地法人のSS-Systemsを経て、今はミュンヘンにあるヨーロッパ現地法人のEdison Europe Electronics GmbHに勤務。携帯電話が爆発的に売れる中、我々の電子デバイスビジネスも絶好調。日本への帰任まであとわずかです。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第124話 さよならミュンヘン

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の19年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。アメリカの現地法人SS-Systemsを経て、ヨーロッパの現法Edison Europe Electronics GmbHへ異動しました。ドイツのミュンヘンで倫ちゃんと1歳になった子どもと暮らしています。ビジネスは絶好調の中、日本への帰任が決まりました。

 

ミュンヘンに暮らして3年半。色々ありました。

初めてヨーロッパのビジネスを担当し、急激なブームになった携帯電話向けビジネスで毎日忙しく仕事した事。半導体事業だけでなく、液晶表示体と水晶製品のビジネスも担当した事。そして、何と言っても、異国の地で子どもを産んだ事。これは、なかなかしようと思ってもできない経験かと思います。

ミュンヘンの街は住めば住むほど愛着がわいてきて、とっても好きな街になりました。とりわけ、出産をした街という訳ですので、サンノゼ、バンクーバーと並んで第二の故郷のようなものです。

ミュンヘンのどんなところが好きかと言いますと、まずはビールが美味しい。ですが、妊娠してからは飲めませんでしたので、もっぱらアルコールフライビア(Alcohol Frei Bier)です。ノンアルコールビールの事ですね。そして、ビールを飲む場所が夏場は屋外である事。とても気持ちがいいです。ビールに合う食べ物も沢山あります。まずはソーセージザウアークラウトというキャベツ。そしてプレッツェルというパン。これさえあれば、もう大丈夫という感じです。

美術館には何度も足を運びました。特に、ノイエピナコテーク(Neue Pinakothek)にはドイツ・ロマン派やナザレ派などのドイツ近代絵画、さらにモネ、セザンヌ、ルノワール、ゴーギャンなど印象派の作品が充実し、またゴッホの「ひまわり」も展示されていて、素晴らしい美術館でした。展示室は広々としていて、いつでもゆったりと観てまわれる空間になっており、とてもステキな雰囲気でした。

ドイツミュージアムという博物館もスゴいです。ヨーロッパ近代化の象徴的存在の一つであったドイツ工業の歴史などが展示されていて、重厚感にあふれています。

広場や公園も沢山あり、市の中心であるマリエンプラッツ、ビクトリアマルクト(市場)エングリッシャーガルテン(英国庭園)などは歩くだけで楽しい場所です。

フラウエンキルヒェテアティナ-キルヒェなどの教会や、レジデンツ(宮殿)ニンフェンブルク城などの素晴らしい建築物も多く、日本とは違った歴史や文化を感じる街でした。

また、ミュンヘンからは、頑張れば車で行ける観光地も多く、ドイツ国内ではレーゲンスブルグやアウグスブルグ等にも行きましたし、メルヘン街道には城壁の街ローテンブルグノイシュバンシュタイン城で有名なフュッセンなどステキな場所が沢山あり、何度か訪れました。オーストリアのザルツブルグ、ウィーン、インスブルックにも車で行きましたし、スイスのマッターホルンの麓のツェルマットやユンググラウの麓のグリンデルヴァルトへも旅しました。アルプスの少女ハイジになった気分でしたね。

イタリアのベネチア、フィレンツェ、ミラノ、ピサへもミュンヘンから車で旅しました。ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会で、レオナルド・ダ・ビンチの「最後の晩餐」を心ゆくまで眺めていた事を思い出します。ヨーロッパに住んでいるからこその至福の時間でしたね。

ローマはさすがに遠いので飛行機で行きました。「ローマの休日」の聖地も回りましたし、何と言ってもフォロ・ロマーノというローマ時代の遺跡が窓のすぐ外に見えるホテルに泊まったので、大変心を動かされました。

本当にミュンヘンに住んで良かったなあと思いましたね。

3月11日に引っ越し便を出して、住み馴れたフラットにさよならをしました。

「♪思い出つまったこの部屋をボクも出て行こう♪」 という唄もありましたね(笑)。感慨深いですねえ。

最後の2~3日は市の中心部にあるバエリッシャーホフという由緒あるホテルに宿泊しました。名残惜しいですが、これでミュンヘンとはお別れです。

帰国便はパリ経由とし、3日間はパリで過ごして良い事になりましたので、ルーブル美術館やオルセー美術館という世界的なミュージアムに行かせて頂きました。こんな贅沢はないですよね。

シャンゼリゼや凱旋門、エッフェル塔にももちろん足を伸ばしましたよ。

そして、とうとう3月18日、帰国便に搭乗する事になったという次第です。成田まで十数時間のフライト。

いよいよ、日本での生活が始まります。

 

 

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