連載小説 第128回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、4月から久し振りの日本勤務です。20世紀も終焉に近づいていく中、我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶発振デバイス)はどうなっていくのでしょうか。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第128話 取り調べ(!)

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の20年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て1999年3月に日本へ帰任しました。ミレニアムも間近です。家族は3人一緒でラブラブです。うふっ。

 

「トム君、会議室に来てだってよ」

その日の午後、トム君は国税の調査官が待ち構えている部屋へ出頭していきました。出頭とかいうと、まるで悪い事をした人がお呼ばれするみたいな感じですが、まさにそんな感じだったといいます。

その時の取り調べ(!)はこんな話だったそうです。

「忙しいところ、お時間頂きありがとうございます。富夢まりお課長でよろしいですか」

「はい」

「あなたが米国を担当していますね?」

「はい」

「現法のSS-Systems Incの経営状態を教えてください」

「は?」

「SS-Systemsです」

「あ、はい。でも、私は営業活動をしていて、現法の経営などにはあまり詳しくないのですが」

と、トム君はちょっと逃げ気味の返答をしてしまったそうです。実際には、現法の経営状態についてもよく分かっているのですが。

「あまり詳しくないのであれば、詳しくないなりに回答してくれればいいのです。詳しいとか詳しくないとかを判断するのはこちらです

「あ、はい。では、私の理解している限り・・・」

というような会話があったそうで、その後、更に次のような話になったそうです。

「昨年度のSS-Systemsのグロスマージン(荒利益)は何%でしたか?」

「あ、えっと、それはえっと、昨年は私はアメリカの担当ではなかったので、よく分かりません」

「でも、4月からSS-Systemsを担当していますよね」

「あ、はい」

「引き継ぎはなさっていないのですか?」

「え、あ、まあ、それなりには」

「では、今年のグロスマージンの計画は?」

「えっと、まあ、それなりに」

「は?」

「あ、いえ、15%です」

「15%なんですね」

「あ、ええ、でも、あくまでも計画で」

「ええ、計画値を聞いているんです。15%なんですね」

「あ、はい」

「じゃあ、昨年の実績値は何%だったんですか?」

18%くらいだったと思います」

「知ってるんじゃありませんか」

「あ、えっと・・・」

「知らないふりをするとスムーズに税務調査が進みません。ご協力をお願いします」

「あ、はい」

「それと、ひとこと言っておきますが、何か隠そうとか、事実を違う事を言う、などの姿は良い印象を与えないのでご注意ください」

「あ、はい」

「それでは、いったんお席に戻って頂いて結構です」

「あ、はい。失礼します」

というような調子で取り調べ(!)を受けたトム君が居室に戻ってきました。

「おい、舞衣子、まいったよ」

「え、どうだったの?」

「いやあ、まるで取り調べさ」

「何か見つかったの?」

「いや、よく分からないけど、SS-Systemsのグロスマージンの事を聞かれたよ」

「へえ、なんでそれを聞くんだろ」

「なんでだろうなあ」

「それにしても、調査官は高圧的でイヤな感じだよ」

と言っているところで、後ろに調査官が二人いるのに気づきました。通常は、会議室のみにいると聞いていたので、油断をしていて、不意を突かれてしまいました。もしかして、調査官がイヤな感じだという私たちの会話が聞かれてしまったも知れません(汗)。

「あ、先ほどは・・・。今、片付けます」

「ああ、そのまま、そのまま」

「あ、はい」

「富夢課長、いつもはSS-Systemsの方々とはどのような手段でお話されているのですか?」

「あ、はい、電話かメールです」

「メールはそのパソコンでやりとりしているのですか?」

「あ、はい」

「それでは、その内容を教えて頂きたいのですが」

「え? 内容ですか?」

「はい、メールのやりとりを全て開示してください」

「あ、でも、どうやって?」

「そのパソコンの中身を全部見せて頂きたいのですが」

「あ、でも、これを持って行ってしまわれると仕事にならなくて・・・」

「・・・」

「・・・」

「では、富夢課長、こうしてください。そのパソコンに入っている全てのメールのやりとりをプリントアウトして提出してください」

「え、全部プリントアウトするのですか?」

「はい、何か?」

「あ、いえ、分かりました。ただ、膨大な量なので、かなり時間がかかると思います」

「どのくらいかかりますか?」

「一週間くらいは」

2日でお願いします

「あ、はい。2日で・・・」

「ええ、2日でお願いします」

「はあ・・・」

それまでの税務調査は全て紙ベースと聞いていたので、パソコンに調査範囲が及ぶとはその頃の私たちは全然考えていませんでした。

今は、何かあれば、PCやスマホがあっという間に差し押さえられるような世の中ですが、その当時はパソコンに事が及ぶとは考えないような時代でしたし、PC内の情報にアクセスするにしても、わざわさ、中身をプリントアウトして提出せよ、というような世の中だったのです。まだ20世紀だった時のお話ですからね。

さて、それからどうなったかと言いますと、話は長くなってしまうのですが、大河小説ですから仕方ありませんでしょう。

続きを更に次回お話させて頂きたいと思います。

 

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