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□磁気工学

☆定義と用語

◆電気/磁気の対応表

磁気 電気
記号 パラメータ 記号 パラメータ
Φ 磁束 I 電流
H 磁界の強さ E 電界の強さ
B 磁束密度 J 電流密度
MMF 起磁力 EMF 起電力
μ 透磁率 σ 導電率
R 磁気抵抗 R 抵抗
L インダクタンス C キャパシタンス
LG エアギャップ D 誘電物質

◆磁気双極子
超ミクロな磁気モーメント。N極とS極を同時に所有する最小の”磁石”。それは電子に宿る極小の”磁石”そのもの。

◆量子化された電子
1個の原子に属するZ個の電子は、3つの量子数n、l、mにより、極めて厳格にそのポテンシャルエネルギー準位、運動様式、磁場中における行動領域の多重度を決められている。
n=1,2,3
l=0,1,2…(s,p,d…)
m=…,-1,0,1,…

※さらに歴史的には上記3種の量子に遅れることになったが、さらにもう一種、個々の電子に宿る”固有の磁気量”を規定している2つの量子、上向き(+)、下向き(-)の矢印で示される、正負2つの「スピン磁気モーメント」がある。

※1個の原子に属する電子のひとつひとつには、n、l、m、そして+と-に分かれる2種のスピン磁気モーメントの組み合わせによって、原子内に不連続的に存在する”唯一のエネルギー状態”が与えられている

①1つの電子軌道(電子雲)には、反対のスピンを持つ2個の電子だけが納まる
(パウリの原理、あるいはパウリの排他律)
②近似的な表現として、nで示される主量子数は、原子核と電子の間の距離を量子化したもの(電子のポテンシャルエネルギー準位を示す)
③方位量子数lは、電子軌道のゆがみ具合の大きさ(電子の軌道角運動量を量子化した値。ゆがみのない球対称を成すs軌道を0とする)を示す。
④mは磁気量子数と呼ばれ、nとlで規定された電子軌道が、磁場中において分裂する数を示す

◆磁性体の分類

不対電子の有無による

_◇反磁性
電子対がスピンによる磁気を打ち消しあっている原子や分子等の場合、磁場中におかれると電子は磁場に垂直な面内で微小な円運動(誘導電流)を行い磁場を打ち消す方向に磁気を出す

※異方的反磁性
例)ベンゼン
磁場がベンゼン環に垂直にかけられると分子内電流がながれやすいが、平行のときは流れにくい。よって磁場を打ち消そうとする反磁性も環に垂直なときには大きく、平行では小さい

※反磁性磁場配向
異方性によりねじり力をうけて回転する
⇒グラファイト

_◇常磁性
磁場をかけるとミクロな磁石である不対電子により磁場方向に(正の方向)磁気が生じる。

※化合物になると磁気を失うのは、不対電子を組み合わせて結合することでスピン磁気が消しあってしまうため
例)
水素原子⇒磁性をもつ、水素分子⇒非磁性

_◇強磁性
常磁性と同様であるが、ミクロな磁石間に相互作用があり、全スピンがそろって磁場方向を向く

※3d電子
Fe, Co, Ni

_◇反強磁性
各スピンを反対方向になるようにする傾向のあるもの
例)
MnF2

_◇フェリ磁性体
反強磁性の変形だが、逆向きスピンの大きさがことなり、差の分の強磁性が現れるもの
例)
フェライト
MO(MにはFe, Mn, Ni, Co)とFe2O3の合成物質
Fe2O3は反強磁性だが、Mのスピンが片方と平行になり強磁性を発現する
⇒フェライトは酸化物なので電気を通さないので高周波帯での磁性材料となる

_◇ヘリカル磁性体
スピンがらせん状に配列するもの
※希土類金属

_◇誘起磁気モーメント
磁化

磁場によって誘起された磁気量の大きさ

_◇磁化率
磁化を磁場で割った量

_◇伝導電子と局在電子

電子スピンが原子の磁気そのままで現れるわけではないく、固体を構成した上で他の電子との相互作用を通じて磁気を発現する。

※イオン結晶
原子の磁性は該当イオンに局在する
⇒局在電子
鉄の3価イオン

※金属強磁性体
鉄、ニッケル、コバルト
磁気成分も伝導電子の一部となって流動している

_◇交換相互作用
不対電子でスピンをそろえるスピン間の量子論的働きを見かけの磁場に見立てる

_◇スピンのフラストレーション

反磁性でおこりやすい。各スピン間に何種類かの相互作用があると単純な強磁性、反磁性で収まらない配列が出現する

_◇メタ磁性
反磁性体だが、突然、ステップ状に磁化が現れる。

例)
CsFeCl3

_◇軟材料磁性合金
どの方向に磁場をかけても容易に磁化が生じる材料

※パーマロイ
磁気異方性が逆である鉄とニッケルの合金

◆スピン共鳴
(スピン磁気共鳴)
磁気が特定の周波数、磁場の下で電磁波のエネルギーを吸収して運動する現象

※ラーマー運動(スピン軸のみそすり運動)
周期は磁場に比例⇒周期にあった電磁波をあてるとラーマー回転が共鳴し、回転振幅が増大する

※電子スピンでも原子核スピンでも見られる

_◇ESR
電子スピン共鳴

_◇NMR
核磁気共鳴

◆磁場(magnetic field)
工学分野では、磁界(じかい)という。

※単に磁場と言った場合は磁束密度 Bを表していることが多い。

※BとHを明確に区別する時はHのことを「磁場の強さ」と言う。

※BとHの単位はSI単位系でそれぞれWb/m^2, A/m である
(次元も異なる独立した二つの物理量である)

※磁場、磁束密度 B
磁界が変化するときに電界を発生する能力
T(テスラ)もしくはWb/m^2を単位とする。
空間の各点で向きと大きさを持つ物理量(ベクトル場)であり、電場の時間的変化または電流によって形成。時間の入った概念である。

※磁場の大きさ(強さ)H
A/mを単位とし、磁界が磁極に及ぼす力を示す。
+1[Wb]のN極が受ける力の大きさで表される。1A/mの磁場中にWbの磁場をおくと1Nの力を受ける。実際には磁気モーメントを置くことになるから、回転力が働く
⇒一様な静的磁場中ではHのみ考えればよい
⇒磁場を図示する場合、N極からS極向きに磁力線の矢印を描く。

※磁気モーメント M
磁石の両端の磁荷+m(N極), -m(S極)に極の間の距離lをかけたもの
M=m*l
lには方向があるので、ベクトル量である
単位は Wb*m

_◇WbとT
※ウェーバ
ある閉曲線を通過する磁束の変化とその閉曲線のまわりの電界とを関連づけるファラデーの電磁誘導の法則に基づいて定義することができる。1秒あたり1ウェーバの磁束の変化は、1ボルトの起電力を生ずる(E-B対応の場合)。

※テスラ
1テスラは、「磁束の方向に垂直な面の1平方メートルにつき1ウェーバの磁束密度」(計量単位令による)と定義される。すなわちウェーバ毎平方メートル(Wb/m2)に等しい。

_◇磁束密度(magnetic flux density)
磁束の単位面積当たりの面密度のことであるが、単に磁場と呼ばれることも多い。記号 B で表され、透磁率 μ と磁場の強さ H の積である。磁場はベクトルであるので、磁束密度もまたベクトル量である。単位はテスラ(T)、もしくはウェーバ毎平方メートル(Wb/m2)。

_◇透磁率μ
物質の単位面積を通過することができる磁束量
⇒鉄の透磁率は真空の約1万倍でコイルの中にかなり多くの磁束を収容することができる
<>導体、電流という形でエネルギーを通す
⇒多くの物体で透磁率は線形な特性ではない
⇒たかだか1万倍(導電率なら10の20乗)なので、リーク磁束は無視できない

B=μH

μ0:真空の透磁率4πE-7 [H/m]

_◇帯磁率χ
物質に磁場をかけたとき発生する磁気モーメントを示す量
M=χH

_◇BH曲線

_◇強磁性飽和
磁力線を濃縮していっても通常の鉄芯では約2テスラ程度で飽和する。

_◇カピッツァ限界
コイルにDCを流すと発熱の問題があるので、パルス磁場を作ることで約50テスラまでは磁界を作れる。しかし、このときコイルには上下方向に圧縮、横方向に膨脹力を受けているので、これ以上になるとコイルは爆発する。

_◇反磁場、反磁場係数
強磁性体が磁化した状態
⇒外部に磁力線を生じる
⇒磁性体内部にも磁場を作る=反磁場
μ0*HD = -D*I
D:反磁場係数
磁化方向の形状に依存する
無限に長い棒ではD=0
I: 単位体積あたりの磁気モーメント(磁化)
Wb/m^2

※磁性体を磁化する場合、磁性体内部に働く有効磁場は
Heff = Ha – D*I/μ0
Ha:外部からかけた磁場

_◇化学的カタストロフィー
磁場の強度が大きくなって10^5テスラを越えると、電子スピン磁気エネルギーが化学結合エネルギーと同等になり、化学結合は不安定となる

◆複素誘電率

誘電体に静電場を印加すると分極する。(分極は電子雲の偏りや誘起双極子等によって起こる)

電束密度をD、電場をE、分極をPとすると
(1)D=εE+P

※電場を交流電場(E=E0cosωt)にすると双極子のような重いものは電場の変化にリアルタイムに追随せず、位相の遅れ(δ)を生ずる。

これを反映してDは

(2)D=D0cos(ωt-δ)=D0cosωtcosδ+D0sinωtsinδ

と表される。(2)式右辺の第1項は電場の変化と同相の成分だが、第2項は電場の変化に対し90度位相が遅れた成分ということになり、この2つの成分を複素座標で考えると複素誘電率となる。

※複素誘電率
誘電体に交番電場Eをかける時、電束密度Dの変化に位相的な遅れが出る場合、

DとEの比、ε=D/E=ε’-jε”

εを複素誘電率と言う。μ’、μ”は実数。

※損失係数
ε”/ε’=tanδ

◆複素透磁率
磁性体に交番磁場Hをかける時、磁束密度Bの変化に位相的な遅れが出る場合、

BとHの比、μ=B/H=μ’-jμ

μを複素透磁率と言う。
※μ’、μ”は実数。

※μ’を実数項、μ”を虚数項とよぶ
虚数項は磁気エネルギーの損失分に相当し、高周波では大きいほど雑音抑制効果がある

_◇損失係数
μ”/μ’=tanδ

◆表皮効果:高周波電流または、電磁場が導体の表面層に極限されて、内部に入らない
現象。導体の面が平面で、電場や電流が表面の場所によらず一様な時、透磁率μ、電
気伝導度σ、角振動数ωとすると、電場EはE=E0exp((-1-i)Zμσω/2+iωt)と
なって、深さZと共に、急激に減少する。電磁場の強さが表面の1/εになる厚さ、δ=
(2/μεω)1/2をskin depthと呼ぶ。

◆渦電流
時間的に変化する磁場中に置かれた導体の内部に電磁誘導によって生じる渦状の電流。

◆遷移元素(遷移金属)
最外殻がs軌道で、その内側のd軌道の電子数が10未満であるか、10であっても最外殻に1個の電子しか納まっていない原子

_◇強磁性
鉄などの原子は電子のスピンの向きがそろってマクロ的な磁石になる

◆結晶の磁化

_◇自発磁化
結晶全体の磁化

_◇磁気異方性と磁歪
強磁性体の各原子の磁気モーメントは平行に整列するだけでなく、結晶のある方向を向こうとする
⇒磁気容易化方向
⇒磁化方向がずれるとエネルギー増加
⇒磁気異方性エネルギー

※結晶は磁化方向に歪を生じる
⇒磁歪

_◇磁区と磁化
一方方向への磁化は安定ではない。
磁化が部分的に異なった領域(磁区)を作り、内部で磁力線がつながるようになった方が、エネルギーが下がる
⇒外部にでる磁力線の数が減る

※磁壁
磁区の境界

◆キュリー温度
キュリー温度(Curie temperature、記号Tc)
強磁性体が常磁性体に変化する転移温度、もしくは強誘電体が常誘電体に変化する転移温度

例)鉄では770℃

強磁性体との類推により、キュリー温度は強誘電体(圧電物質)が自発分極や圧電特性を失う温度にも用いられる。

※低温では同一方向に原子の磁気モーメントがそろっていても、温度を上げると熱エネルギーにより方向が揺らぐために起こる。

_◇キュリーワイスの法則

χ=C/(T-θp)

χ:磁化率(帯磁率)
T:絶対温度
C:キュリー定数
θp:常磁性キュリー温度

_◇磁化率(magnetic susceptibility)
磁気分極の起こりやすさを示す物性値
Pm = χm * μ0 * H
χは無次元量

_◇磁気分極(magnetic polarization)
磁化した物体を磁性体に接近させることで、磁化した物体に近い側に、磁化した物体とは逆の磁極(磁荷)が現れる現象。
Pm [A/m]

Pm = B – μ0*H

磁性体の存在によって生じる磁束密度からのずれをあらわす。

◆ホール効果
電流に直角に磁場をかけたとき、電流、磁場双方に垂直方向に電圧が発生する
⇒レンツの法則

◆ゼーマンエネルギー
スピンに外部磁場を加えると、スピンの磁気モーメントと磁場の相互作用のために、スピン磁場の方向成分にあわせてエネルギーが分裂(ゼーマン分裂)する

スピンが±1/2なら2準位だが、鉄の三価イオンのようにスピンが5/2など大きければ、準位間の角運動量の差が1となるように複数の準位ができる

※古典的磁石はS無限大

◆巨大磁気抵抗
GMR
磁性体に磁場をかけると電気抵抗が変化する
⇒磁気抵抗
⇒通常はごくわずか

磁気スピンがバラバラなときは電気抵抗が生じるが、スピンが並ぶと電子の流れがスムースになる

このなかで大きな磁気抵抗を持つもの

◆スピン注入磁化反転

磁場を使わない、NS反転

①2つの磁性素子を短距離導体でつなぐ
②電子流を流す
③導体中では伝導電子のスピンの向きはランダム
④強磁性体中で、交換相互作用によりスピンの向きがそろう
⇒整列スピン流
⑤途中の短距離導体中では崩れない
⑥崩れないうちに次の強磁性体に入る
⇒こんどは伝導電子に引きずられて強磁性体のスピンの向きが変わる

※GaAs, InAsなどにMnを入れて作った強磁性体

◆マグネトバイオロジー
磁場が生体に与える影響を研究する

◆バイオマグネティズム
生物が作る磁気の科学

◆磁場中の原子準位
原子の準位は固体中でバンドになり、それは磁場中でフラクタル構造となる

☆フェライト

<フェライトの項全体は、主としてTDK社のWebによる。参照用に短く編集してしまったが、実際の文章は大変面白くてためになる>

※フェライト
XFe(2)O(4)(Xは鉄以外の金属イオン)という一般化学式で示される金属イオンと鉄イオンの化合物

A格子1つ、B格子2つから成るユニットにおいて、鉄イオンが2つの副格子を占める

1ユニットは電気的に中性とならなければいけない
(金属イオンの総価数は酸素イオン4個の-8と釣り合う)

※Xに鉄イオンが納まると、マグタイトFe(3)O(4)になる

※フェライト
磁性酸化物. フェライトとはFe3+イオンを含む酸化物。フェライトにはスピネル形, 六方晶, ガーネット形などの結晶構造のものがある。六方晶フェライトは結晶構造の対称性が低いことから磁気異方性が大きく高保磁力になるため、主に永久磁石材料に用いられる。
フェライトの特徴は電気抵抗率が高いため高周波で使用できることである。そのため磁気損失については渦電流損失が通常無視され、その損失の大部分がヒステリシス損失、および残留損失とみなされる電子移動に起因する磁気余効や磁気的共鳴損失(スピンの回転共鳴, 磁壁移動の共鳴など) とから成り立つ。限界周波数はごく定性的にいえばμ0 に逆比例するので、高μフェライトほど高周波用として不適当。このような損失を残留損失と呼ぶ。

※透磁率の経年変化
フェライトの磁壁が焼結後時間の経過とともに安定化するため。

◆標準材質特性
Standard Characteristics Of Material

交流初透磁率 Initial permeability [μiac]
相対損失係数 Relative loss factor [tanδ/μiac]
透磁率の相対温度係数 Relative temperature
キューリー温度 Curie temperature Tc
実効飽和磁束密度 Saturation flux density Bms at H=1200 (A/m) [mT]
残留磁束密度 Remanence flux density Br [mT]
保磁力 Coercivity Hc [A/m]
抵抗率 Electrical resistivity ρ [Ωm]
見かけ密度 Density dapp [Kg/m^3]

初透磁率 : 磁性体の磁化のしやすさを示す指標。

tanδ=tanδh+tanδe+tanδr

tanδh: ヒステリシス損失
tanδe: 渦電流損失
tanδr: 残留損失(磁壁共鳴/自然共鳴/拡散・電子余効)

◆ソフトフェライト
酸素イオンが構築する結晶格子点に鉄イオンと他の金属イオンがある規則性を保ちながら整然と納まったイオン結合の結晶体
※基本的な結晶モチーフ、最小結晶単位”単位胞”がある。
※ソフトフェライト結晶粒をグレインと呼ぶ。

※単位胞”ブロック”が規則正しく三次元的に積み上げられ結晶粒グレインが構築される

◆不対電子とフェライト

※孤独な電子を不対電子と呼ぶ
※最外殻ではなく、そのすぐ内側の電子雲に1個、2個と取り残されると、そこに潜在能力が仕掛けられる

⇒そのような電子配置を持つ原子の代表
フェライト組成の骨組=原子番号26の鉄原子

※最外殻は球対称の4s軌道
正負逆のスピン磁気モーメントを持つ電子が2個
定員数2を満足

※すぐ内側=磁気量子数mが5の3d軌道
6個の電子しかない。

※1sから3pまでの軌道は、閉殻となっている
(原子番号18のアルゴンと同じ)

※5つの3d軌道には同じ方位を指し示す不対電子が4個
鉄原子は磁性の均衡を大幅に崩し、電子4個分の磁性を帯びる

※鉄イオン(Fe2+)
4s軌道に納まった電子2個が飛び出した状態。
⇒酸素原子の不足分として囚われる。

※Fe(3)O(4)
正に帯電した2価鉄と負の電荷を帯びた酸素が混在するイオン宇宙が出現
→静電気的な結合力が発生
→同種のイオンは互いに反発し、鉄イオンと酸素イオンは互いに強く引き合う。その結果、正負のイオンは交互に整然と組み合わされ、イオン宇宙は電気的に中性なイオン結晶を構築

※イオン結合の結晶体は、最小ユニットが三次元的かつ連続的につながる構造を持つ。
→それらは”分子”でなくイオン化した原子の連鎖的なつながり

◆最小ユニット・モデル
酸素イオンと金属イオンの比率の違う2つの副格子(単位胞内に規則的に配列している金属イオンの納まる位置)の合体

①酸素イオン4個の中心に金属イオンを収納するA格子
②6個の酸素イオンに金属イオンが取り囲まれたB格子
1対2の割合で組み合わされている。

◆磁気モーメント
不対電子のスピン磁気モーメントを合成したイオン単位の磁気モーメントの意
A格子とB格子で反対方向を向く

※ボーア磁子 Bohr magneton
電子の磁気モーメントの定数。
(SI単位系での定義)
μB=e*h~/2*me
e: 電気素量
h~: 有理化されたプランク定数
me: 電子の静止質量
9.27400915e-24 [J/T]

電子は本来ほぼボーア磁子に等しい磁気双極子モーメントを持つ

有効ボーア磁子数 磁気モーメントの大きさをボーア磁子の大きさを基準で表したもの
μeff = μ/μB

実際の電子の磁気モーメントの大きさ ボーア磁子から少しずれる
μe – μB
を異常磁気モーメントと呼ぶ

※個々の金属イオンに宿る磁性の程度
3d軌道上を孤独に巡る不対電子の員数に依存する(電子1個に固有のスピン磁気モーメント量をボーア磁子1μBとするので、そのまま不対電子の数を反映している。3d軌道の”部屋数”は5つなので、1金属イオンあたりに宿る最大のボーア磁子量は5μBとなる)

◆Zn2+によるMn2+の置換

※3価の鉄イオンがすでにB格子を占拠+A格子に価数は+2でなおかつ3d軌道上に不対電子がひとつも存在しない非磁性イオンがあれば3価の鉄の全μBを活用できるかもしれない。
⇒定員いっぱいの10個の電子を3d軌道に納め、4s軌道に2個の電子を持つ原子番号30の亜鉛(Zn)原子。(亜鉛イオンは鉄イオンより、積極的にA格子に納まりたがる)

※Zn2+で、Mn2+を置換するとある程度までは磁子量は増大するが、増えすぎると、磁子量は見る間に減少してしまい、亜鉛イオンがA格子の全席を占領すると、この物質の磁性は完全に消失する。

※A、B両格子に陣取った金属イオンの3d軌道上に存在する不対電子は、中央に位置する共有酸素イオンの最外殻電子雲を介し相互に量子力学的な交換関係を取り結んでいる。
⇒相互的な交換作用のため。

◆温度と磁気モーメント
温度が実用レベルまで上昇してくれば、A、B副格子間に発生する磁気モーメントのやりとりも単純な理論値から変わって来る。

⇒絶対零度(-273.15℃)に近い極低温では両格子の磁気モーメントは、ほぼ完全な反平行関係を維持していることが推定される
→温度の上昇に伴い原子の振動が次第に活発になり、個々の格子点に宿る磁気モーメントの反平行関係も徐々に崩れる
→さらに温度を上げていくと、それらの方位は三次元的にランダムな状態となる。A、B両格子の厳格な磁性の綱引きの差をマクロ的な磁性として取り出せたフェリ磁性機構も常磁性体と変わらない状態となる

※フェリ磁性(Ferrimagnetism)
結晶中に逆方向やほぼ逆方向のスピンを持つ2種類の磁性イオンが存在し、互いの磁化の大きさが異なるために全体として磁化を持つ磁性のこと

◆グレイン(Grain)とドメイン
直径約5ミクロンほどに成長したフェライト結晶、グレインの中には、約2千億個の一辺8オングストロームの立方体である単位胞が整然と層をなして並ぶ。
→整然と並んでいるが、ミクロ的な磁性のやりとりだけでは説明できない

_◇磁区=ドメイン
グレインが大きなかたまりに育つ過程において、その両端に現れる磁極の力は増大し、同一磁極間では反発し、異磁極間では引き合う。
→超交換相互作用により同じ方向を指し示していた単位胞の磁気モーメントが、いくつかのブロック単位でその方位を反転、磁極に発生したエネルギーを抑え磁区を形成し、エネルギーを最小化する。

※現実のグレインは、多くても4~6個の磁区にしか分割されない

※単位胞に宿る磁気モーメントの方向を平行に保持する力の源泉
A、B格子間に働く強力な超交換相互作用
個々の副格子間に局所的に働く超交換相互作用は、いくらグレインが成長しても増大しない

※磁極に発生する吸引と反発のエネルギー
超交換相互作用を源泉とする異方性の拘束力しのぐ大きさにふくれあがった瞬間に反転する

※磁壁(domain wall)と呼ばれる部分に発生するエネルギーとの和が最小の値をとるように一気に進行し、そこで落ち着く

※磁区形成以前と以後を比べても、グレインの結晶構造は変わらない。

※変化するのは、金属イオンの3d軌道(電子雲)に陣取る電子が示すスピン磁気モーメントの方位

※磁壁の正体は、磁気モーメントの方位を少しずつずらしながら並ぶ単位胞の「列」

◆磁壁移動
グレインの磁性は磁気的な平衡状態
→外部磁界の刺激が与えられれば、バランスが崩れる
→磁壁中の磁気モーメントは、エネルギー的にきわめて不安定
→磁界Hを加えると、その力に一番近い方位を向く磁区に隣接し、頭を少しねじ曲げていた磁壁中の磁気モーメントが、その頭を移動し、安定した隣の磁区の方位に揃えようとする。

※外部磁界の作用は、磁壁中のすべての磁気モーメントに等しく及ぶので、さざ波が伝わるように磁壁全体が移動

◆初磁化曲線
外部磁界Hの増加に伴う磁束密度Bの変化

交流磁界 H~
フェライト内部に発生する自発的な磁界
異方性磁界HA
反磁界Hd

※空孔などの結晶欠陥を選択して磁壁は自分の落ち着く場所を決める
⇒外部磁界Hの力が磁壁の前に立ちはだかる欠陥エネルギーの障壁を超えたとたんに段階的な移動をとげる

※個々のグレインは段階的な挙動だが、フェライト全体のマクロな磁化プロセスを示す初磁化曲線はなめらかなカーブを描く

◆飽和磁束密度Bs
磁界を強めていけば、すべての磁気モーメントが外部磁界Hの方位に揃い、飽和磁束密度Bsに達する

◆残留磁束密度Br
※外部磁界により成長したグレインが磁区に分裂する際の状況と酷似した緊張が発生

→磁界をカットすれば消えた磁壁がにわかに復元され、欠陥エネルギーの障壁を登りながら元の安定位置を目指す

※ただし、欠陥エネルギーの障壁を”自力”でのり越えられず、残留磁束密度Brを残す

◆保磁力Hc
※磁界をゼロにしても残留磁束密度Brが発現

→元どおりの位置に磁壁を戻すには(磁束密度Bをゼロとするには)逆方向に磁界をかけてやる必要

※このときの磁界の強さを保磁力Hcと呼ぶ。

◆磁束密度Bと透磁率μ
※フェライトの磁束密度B
フェライト中の単位面積を貫通する磁力線(磁束)濃密度

→フェライトでなくてもコイルに電流を通せば、その中空部を貫通する磁力線の輪が全方位に向けて広がる

→コイルを取り巻く空間の単位面積を貫通する磁力線の数、すなわちその空間の磁束密度は、コイルに発生する磁界Hの強さに比例して増加する

真空)コイルに発生する磁界Hの強さと磁束密度Bの関係
真空の透磁率μ0を比例定数として、
B=μ0H

※透磁率μとは、磁束の貫通する媒質の磁気的な性質に関わる値である。

※フェライトとは、それ自体がひとつの”磁石”であるスピン磁気モーメントの集積体

→外部磁界にさらされると、その方向にフェライト固有の磁束が誘起される

※その方位と直交するフェライト中の単位面積における磁束密度Bの値、

電流を印加されたコイルに発生した磁束密度μ0H
フェライト固有の磁化I

の和、μ0H+Iとなる

※ソフトフェライトの領域においては、一般にμ0Hはきわめて微小なので、フェライト固有の磁化Iと磁束密度Bはほぼ等価である

※フェライトの透磁率をμとすると
フェライト中における磁束密度Bと外部磁界Hは、

B=μH

となる。Bをμ0H+Iで置き代えると、

μ0H +I=μH

μ=μ0H/H+I/H → μ=μ0+I/H

※μ0 はフェライトの磁気的な特性とは一切かかわりのない定数であるから、フェライトの透磁率μは、単位外部磁界Hあたりの磁化Iの大きさを示すI/H、すなわち磁化率と等価な概念である

◆初透磁率μi

<お言葉>
「忍び寄るかすかな外部磁界の気配で布団ならぬ磁壁をグイと押しのけ、磁束密度Bを一気に持ち上げる。その”寝起きのよさ”こそ、より俊敏かつ繊細な特性を要求される先端磁性部品になくてはならぬ、最も基本的な能力である」

※初透磁率μi
初磁化曲線の原点0と、立ち上がり直後のカーブを結ぶ接線の傾きを求め、それを磁壁の”目覚め具合”を裁定するスケールとする。

※最大透磁率μm
Bが大きく立ち上がった先に現れる2つ目のカーブと原点0を結ぶ接線の傾きを、フェライトが磁気飽和に達するまでの総合的な反応の善し悪しを裁定するためのバロメーターとする。

※初透磁率μiの大きさに影響を与える主要因子
(1)空孔
(2)磁壁の幅
(3)グレイン自体の大きさ
(4)グレイン間にできる境界層(粒界)
(5)基本組成
(6)磁歪エネルギーの大きさ

◆磁壁の幅とエネルギー
※磁壁中の磁気モーメント
結晶磁気異方性エネルギーの障壁により、安定方位a、bを指し示す磁区中の磁気モーメントよりも高いエネルギーを付与されている

※磁壁の幅が広くなる→エネルギーの高い磁気モーメントを抱えた単位胞の数が増加する

※磁壁の幅がせばまる→その間に並ぶ単位胞が減少する→各単位胞に宿る磁気モーメント間のズレ角度θ(磁壁中で均等に分割される)は、逆に大きく開く

※超交換相互作用のエネルギーWa
θの2乗に比例する勢いで増大し、ずれた角度を元の方位に戻そうとする。

※磁壁の幅
その中に取り込まれる単位胞の数が増えるにしたがい増加する結晶磁気異方性エネルギーWkと、反対に単位胞の数が減ると急増する超交換相互作用のエネルギーWaの和が最低となるようなポイントに落ち着く。

→超交換相互作用のエネルギーWaは、物性の根幹にかかわるファクタなので、簡単には操作できない。

※このため、磁壁の幅は広がるほうが、磁壁は早く動く

◆空孔とハイμ制御

※原子の配列方位が、わずかに乱れても、その境界面には微小な磁極、すなわち磁壁移動を妨げるエネルギー障壁が形成される

※空孔
格子レベルの欠陥をはるかに超え、フェライトの感受性に大きなダメージを与える。原子そのものが大量に欠落してしまった空孔。当然μは大幅に低減する。

※空孔抑制
フェライト結晶の感受性、μは、フェライト焼成プロセスモデルの初期段階でほぼ決定的となる。
→「ハイμ材」には1秒のズレ、1℃の変化もおろそかにできない厳格な制御プログラムが不可欠
※空孔の存在しないグレインを生成することは困難だが、焼成プロセスの制御により、グレイン生成過程で生まれた”結晶のすき間”を粒界層へ誘導することが可能

※初透磁率μi
わずかな外部磁界Hをエネルギー源とする瞬発力。
磁壁を身軽にするために太らせ、磁壁のつまづきの元となる不純物を片づけ、空孔を埋める必要がある。

※グレインの大きさとμi
ハイμフェライトの初透磁率μiは、グレインの大きさに比例するが、このような比例関係を成立させるには相応のハイμ制御が不可欠
格子欠陥や空孔を取り込んではならない。

※グレインを締めつける応力
粒界層を形成するために添加した不純物は、冷却過程の初期において、グレイン内部を上回る収縮率でガラス状に固化し、グレインを締めつける応力の源となる。このため、この粒界応力は磁壁移動の制動因子となり、外部磁界が微弱な初透磁率領域における磁壁は、両端を固定された弦のモデルとなる。つまりグレインの大きさ、すなわち磁壁の全長が2倍になれば、磁化変化領域の体積は8倍にふくれあがり、μi は約2倍上昇する

⇒粒界層をなるべく薄く均質に制御し、粒界層に発生する応力を大幅に低減できれば、磁壁はより早く動く。しかし、空孔や不純物などの欠陥因子は、液状に溶解した粒界をパイプ役として、フェライト表面にしみ出る動きを示す。そこで、粒界応力を低減するために、粒界成分を減らしすぎると、そのような空孔、不純物の排出作用が阻害され、逃げ道を失った不純物がグレイン内に取り残されたり、グレイン間に集結したまま動きのとれなくなった空孔がグレインの成長を抑制する働きを示し、結果μiの伸びが頭打ちとなってしまうリスクが高まる。
(制御ノウハウが要求される)

※良く制御されたフェライトの初透磁率領域における磁化は可逆的であり、外部磁界の印加を断ち切れば、磁壁はすみやかに元の安定位置に復帰する。外部磁界の大きさが 初透磁率レベルを上回ると、磁壁は跳躍的な非可逆移動を果たす。

◆異方性
※3価の鉄(Fe3+)、2価のニッケル(Ni2+)、マンガン(Mn2+)、亜鉛(Zn2+)など、フェライト結晶の母材となる代表的な金属イオンの磁気モーメントは、8つの安定方位(対角線方位)のうち、正反対に背をそむけ合ういずれか2つの方位に落ち着く(負の異方性)。ところが、2価の鉄イオン(Fe2+)が格子点におさまると、単位胞の磁化容易軸の方位は、最も高いエネルギー障壁を築いていた単位胞の各面に垂直な方位を指し示す(正の異方性)。

※組成の一部にマグネタイトなど、2価の鉄を含む素材を導入してやれば、磁壁の足にからみつく結晶磁気異方性エネルギーの障壁を大幅に抑制でき、キュリー温度に至るはるか以前に現れるμiの極大ポイントを任意の温度に設定できる。

※正の異方性を内在しないフェライトのμiは、温度の上昇に伴い徐々に増大し、キュリー温度直前で急峻な伸びを示す。
高温下における磁気モーメントの方位は熱擾乱作用のため乱雑となり、磁束密度Bの低減をもたらす⇒μiの値は、むしろ低減しなければおかしい
しかし、温度上昇に伴う結晶磁気異方性定数K1の衰退は、熱擾乱による磁束密度Bの低下をはるかに上回る勢いで進行する⇒このためμi伸びる。

※μiとBs、K1の関係の近似式
μi=飽和磁化 Bs2/αK1+β(αとβは定数)
分子よりも分母の値が急激に減少することになり、μiの値は一気に増大する

◆交流磁界と損失
直流から交流への決定的は変化は、ゴールであったはずのグレイン端が、折り返し点になることである。目に見えない2つの折り返し点の間を右へ左へ動くことになる

※損失(tanδ)
tanδ=tanδh+tanδe+tanδr

tanδh: ヒステリシス損失
tanδe: 渦電流損失
tanδr: 残留損失(磁壁共鳴/自然共鳴/拡散・電子余効)

※周波数があがると磁界の変化に磁束密度Bの変化が追いつかなくなる
→損失因子が一気に顕在化
→交流磁界の周波数がさらに高まると、磁壁はついに単位胞の1個分も動けなくなる

※損失(tanδ)ピークは、磁壁を1本の弦とみなしたときの固有振動数に交流磁界の周波数が一致したときに引き起こされる「磁壁共鳴」という現象

※異方性磁界HA
交流磁界の作用をより精密に観察するために、磁区内の磁気モーメントを特定の方位に引きつけ、かつ磁壁の安眠にも一役かっている結晶磁気異方性エネルギーWkの”谷間の引力”を、外部磁界と同じ有効な磁界とみなし、異方性磁界HAと呼ぶ

※結晶磁気異方性定数K1
磁気モーメントを引き寄せるWkの”谷間の引力”、すなわちWkの”谷間の深さ”を示す結晶磁気異方性定数K1は、磁化容易軸を指し示す1本の矢印(異方性磁界HA)の長さで示すことができる

※グレインの集積は、単位胞のように規則正しくなく、個々のグレインが示す異方性磁界HAの方位は、全方位に向けてランダムに分散していると見られる。

※磁化容易軸、すなわち異方性磁界HAの方位は単位胞の対角を結んだラインの両端を指し示す。外部磁界の関与を受けない状態においては、磁区中の磁気モーメントのみならず、磁壁中の磁気モーメントも、規則正しく並ぶ各単位胞のXY平面に沿いながらZ軸を回転軸としてその傾きだけを変えている

※微小角θだけ頭を持ち上げた状態で微妙な安定を得ている磁壁最端部の単位胞に宿る磁気モーメントは、外部磁界のパワーを受けるやいなや、竜巻に吸い込まれた木の葉のようにHA方位(このモデルでは加えられた交流磁界の方位でもある)を回転軸とした首振り運動を起こす。(Z軸方向へのベクトルが生じる)その変化は、およそ1億分の1秒~千万分の1秒という時間内に完了する。逆から言えば、磁壁はそれだけの時間をかけてやっと単位胞一列分の移動を果たすので、この時間経過にこそ、疾走する交流磁界に追い越された磁壁が一歩も先に進めなくなる本質的な原理が隠されている。

※1916年、アインシュタインとドゥ・ハースによって確かめられたこの「奇妙な現象」は、まさしく磁化プロセス、すなわち磁気モーメントの方位転換によって引き起こされたとしか、考えようがない。そして、さまざまな考証の結果、この謎の回転現象は、電子固有のスピン磁気モーメントが磁界方位に頭を揃える際、単純な二次平面上の移動をするのではなく、磁界方位を軸とする三次元的な回転運動を起こすことによって生じるものであることが、つきとめられたのである。

※”スピン”磁気モーメント
そうした考察の結果導入された電子固有の運動量、すなわちスピン角運動量に由来している。この角運動量は、電子の持つ他のエネルギー同様、量子化された量として取り扱われ、具体的に目に映る直接的なモデルで表現することは、原則的には意味をなさない。電子に宿る磁気モーメントが、マクロな磁気モーメントと異なる最大のポイントは、電子のそれには、角運動量が共存していることと角運動量の量子化にある。

※回転しながら斜めに着地したコマの首振り運動と、磁気モーメントの首振り運動とは、基本的に同じ原理。コマに働く地球の引力の作用と、交流磁界の”引力”が等価。磁壁中の磁気モーメントは、外から磁界が加えられなければxy平面上に沿っているが、その方位は、印加磁界Hの方位とずれている。そこで、外部から磁界が印加されたとたんに、引力のある地球上に斜めに着地したコマと同じく、この角度の開きに起因して、トルクTが加わり、xy平面に垂直に働くその力に背を押されるようにして、磁壁中の磁気モーメントは一斉に頭をもたげ、印加磁界H方位を中心とした回転運動に移る。制動因子Lが働き、磁気モーメントの頭を磁界方位に向ける。

※dM(磁気モーメントの変化)/dt(時間変化)であるが、これを、x、y、z軸の各成分に分解すると、dMx/dt,dMy/dt,dMz/dtとなる。しかし、球体モデルにおけるy軸は回転軸なので、この系におけるdMy/dtは常に0であり時間的に変化しない。これは、磁壁中のすべての磁気モーメントについて言えることで、残るdMx,dMz成分の「変化量」も、すべての磁気モーメントにおいて同じ値となる。すなわち、xy平面に整然と並ぶ磁気モーメントがトルクTの力を受けて回転を始めてからdt時間後に、どの磁気モーメントも同じ平面内に存在することになり(面的な平行関係は崩れない)、すべての磁気モーメントが同時に磁壁に直交する瞬間も頻発することになる(y軸を中心として回る磁気モーメントの方位が時間変化dtの間にx軸方位からどれくらいずれたかを示す量dφ/dt=角速度が同じなので、こういう結果となる)。つまり、磁壁の両側には、周期的に増減し、極性を転換する磁極が発生することになる。すると、そのエネルギーを低減するために、N極からS極へ向かう反磁界Hdが、磁極の強さに応じて磁壁内部に発生することになり、じつはこの力が、磁気モーメントをy軸に押しつける 制動因子L(つまり、dMy/dt成分を増加させ、dMx/dt,dMz/dt成分を減少させる働き)として機能する。

☆磁性材料

◆金属磁芯

_◇スーパーマロイ

_◇パーマロイ

_◇ケイ素鋼

_◇アモルファス

◆酸化物磁芯

_◇Mn-Zn系フェライト

_◇Ni-Zn系フェライト

◆圧粉磁芯

_◇カーボニル鉄ダスト

_◇モリブデン・パーマロイ

_◇センダスト