□熱力学
力学は個々の物体の挙動を扱うが、熱力学は莫大な数の物体の平均的な挙動を扱う
◆系
system
世界において関心の的となる部分を「系」という。
系以外の世界は環境と呼ばれる。
系と環境をあわせて世界となる
※開放系
物質を入れたり出したりできるような系
※閉鎖系
境界が物質を通さないような系
→孤立系:境界がどんなものも通さないような系
_◇示量的特性
系に含まれる物質の量によってきまる特性
例)
質量、系の体積
_◇示強的特性
物質の存在量とは独立な特性
例)
温度、密度
_◇透熱性と断熱性
透熱性:diathermic
断熱性:adiabatic
◆気体の法則
熱力学で把握できる物理量は、体積、圧力、温度
※理想気体
分子の体積と相互作用が無視できるような気体
_◇シャルルの法則
(ゲイリュサックの法則)
V=a * (t+273)
空気の体積:V
t:温度(摂氏)
a:比例係数
※ここに絶対零度-273℃が現れる。
※絶対温度T[K]で法則を書けば
V=a*T
_◇ボイルの法則
温度が一定の場合、気体の
P*V=一定
P:圧力
V:体積
_◇アボガドロの法則
圧力と温度が同じ場合には、ある体積中の気体分子の数は気体の種類にかかわらず同じである。
※温度0℃、1気圧で22.4Lの気体分子
=分子数は1mol
_◇気体定数と気体の状態方程式
※ボイル・シャルルの法則
ボイルの法則:温度一定
シャルルの法則:温度変化、圧力一定
⇒2法則を統合
PV=RT
比例係数Rは、対象とする分子数でかわるので、分子数としてアボガドロ数をとる
6.02e23
※アボガドロ数個の原子の質量=原子量 [g]
※分子がアボガドロ数のn倍あるならばRをn倍すればよい。このnをモル数[mol]と呼ぶ
※気体の状態方程式
PV=nRT
※気体の状態方程式に従う気体⇒理想気体
(実際には気体分子の相互作用がある)
単原子分子理想気体
2原子分子理想気体
※気体定数
R=8.31447 [J/mol/K}
PV
--=一定
T
P:圧力、V:体積、T:絶対温度。
この定数を気体定数という。
※ミクロではボルツマン定数kをつかって、粒子1個1個に着目し
P*V = N * k * T
とかかれる
_◇大気圧
基本的な関係式
⊿P = -ρ⊿z * g
※高さzが高くなるほど圧力減少するのでマイナスが付いている。
※空気の密度ρ [kg/m^3]
ρ=(M/1000)*(n/V)=(P*M/1000)/(R*T)
M:空気の分子量 (1000で割るので単位はkg)
n/V:単位体積あたりの分子のmol数
(PV=nRTより, n/V=(P/RT)となる)
このρを基本の関係式にいれて整理
(⊿P/P) = – ((g*M/1000)/(R*T))*⊿Z
積分形に書き直すと
1 g*M/1000
∫-dP=-(--------)∫dZ
P R*T
左辺を積分すれば
g*M/1000
log(P)=-(--------)(z+C)
R*T
これを指数の形にする
ここでC’(T)≡e^(-((gM/1000)/RT)C)
P=C’(T)*e^(-((gM/1000)/RT)Z)
Z=0mのときC’は1013[hPa]である
定数(gM/1000)/RTは273Kで約1.25e-4
P(z)=C’ * e^(-1.25e-4 * z)
◆平衡
_◇力学的平衡
左右の系の圧力が等しくつりあっている
_◇熱平衡
AがBと熱平衡をなし、BがCと熱平衡をなすとしたら、CはAと熱平衡をなす。
◆第0法則
温度の概念を与える
AがBと熱平衡をなし、BがCと熱平衡をなすとしたら、CはAと熱平衡をなす。
※温度
「平衡状態にある系において、さまざまなエネルギー準位の占有比を代表するパラメータ」
※分子の平均速度
絶対温度の平方根に比例して増加する
※どの温度でも、任意のエネルギー状態を占める相対的な分子数は、エネルギーとともに指数関数的に変化する
※熱の移動はエネルギーの増減には関係しない(物体の落下などは位置エネルギーが減り、他のエネルギーに変換される)
_◇気体の温度
気体を構成している分子が、平均的な意味で早く走っていることを意味する
_◇真空中の温度
真空中に物体を置いた場合には、周囲からの放射線と熱平衡となる温度を持つ
_◇マイナスの絶対温度
温度を吸収熱とエントロピーとの比と定義することでマイナスの絶対温度を定義することができる
_◇SI温度
H2Oの三重点を273.16Kと決めた
_◇熱伝導
非平衡の際に生じる現象である
①固体の場合は原子、液体の場合は分子の「振幅の大きな動き」が伝播して熱伝導が起こる
②金属では自由電子が効率的に振動を伝える
※熱伝導率K
Q=-K*S(⊿T/⊿x)t
Q:移動する熱量
S:断面積
t:時間
⊿T/⊿x:棒の長さと温度差の比
※K [W/m/K]
金 319
銀 428
銅 403
鉄 83.5
砂 0.3
水 0.561
例)
中空球の熱伝導
内部温度 t1 で一定、外部温度 t2 で一定
中空部半径 a 球の半径 b の場合
ある半径rのところの薄い球殻drの位置の温度をt(r)とすれば、単位時間に外に流れる熱量Qは
Q=-K*4πr^2*(dt/dr)
dt/dr=-Q/(K*4πr^2)
これをaからbまで積分し
Q={4πK(t2-t1)}/{(1/b)-(1/a)}
dt/dr=-{(t1-t2)/{(1/b)-(1/a)}}*(1/r^2)
_◇対流
速い分子そのものがかたまりのようになって移動する
⇒実質の移動
<>伝導は現象の移動
※熱のための集団移動
気体でも液体でも、分子はぶつかりながら集団的に動く
_◇放射
電磁波による
_◇熱膨張率
※体積膨脹率βは線膨脹率αの3倍とみなしてよい
⇒第3項以下が小さいとみなせるので
※熱膨脹率α
アルミニウム 23.1e-6
Si 2.6e-6
鉄 11.8e-6
※気体の膨脹率
その種類にかかわらずほぼβ=1/273
◆第1法則
エネルギーの保存と仕事との関係を与える
※仕事とは力に逆らって何かを動かすこと
※エネルギーとは系が仕事をする能力の尺度
「孤立系の内部エネルギーは不変である」
※仕事は、環境における原子の一様な運動を利用した、エネルギーの移動である。
※熱は、環境における原子のランダムな運動を利用した、エネルギーの移動である
※いったんエネルギーが系内に入ってしまうと、どのように入ったかという過程の記録は残らない。なかに入るとエネルギーは、系を構成する原子の運動エネルギーと位置エネルギーとして保存され、そのエネルギーは熱としても仕事としても取り出せる。仕事と熱の区別は環境でなされる。
※理想気体の場合、
圧力P
体積V
mol数n
温度T
熱量Q
内部エネルギーE
外部への仕事W
⊿E=⊿Q-⊿W
熱が加わる ⊿Q>0
熱が逃げる ⊿Q<0
仕事をする ⊿W>0
仕事をされる ⊿W<0
⇒熱Qや仕事Wの出入りは、内部エネルギーの変化に等しい(エネルギー保存の法則)
⇒気体が膨張によって行う仕事は、仕事=力F×距離Lの関係から
⊿W=F×⊿L=(P*S)*⊿L=P*⊿V
S:ピストンの断面積
※PV図(縦軸を圧力、横軸を体積)
面積が仕事に対応する
※微分系で書くと
dE=dQ-PdV
_◇内部エネルギー
U [J]
断熱系で、ふたつの決まった状態U1,U2の間の移行に必要な仕事は経路によらない
断熱系でなければ、温度変化によるエネルギー移動「熱」によっても内部エネルギーは変化する
※理想気体の場合、気体の内部に溜め込まれたエネルギーである
①単原子理想気体
気体分子の重心の運動エネルギーの総和
E=∑(1/2)*m*v^2
②一般の気体
気体分子の重心の運動エネルギーの総和
気体分子の重心の周りの回転エネルギー
気体分子の振動エネルギー
その他の分子間の引力、斥力などの相互作用
※自由膨張では温度が変わらない。
※内部エネルギーは自由膨張では変化しない。
(自由膨張=気圧ゼロの真空中に気体が広がること)
⇒一定の数の気体分子を考えると、その気体分子の内部エネルギーは
①温度だけに依存し
②体積に依存しない
※孤立系の内部エネルギーは不変
_◇比熱
※mol比熱
1molの気体の温度を1℃あがるのに必要な熱量
⊿Q/⊿T
①定積比熱 Cv
気体の体積を変えないで温度を変えた場合
⇒温度を変えても気体は仕事をしない
∂Q
Cv=(--)
∂T v=一定
dW=0なので、dE=dQとなり
∂E
Cv=(--)
∂T v=一定
とかける
②定圧比熱 Cp
圧力を一定で温度を変えた場合
⇒体積が変化するので、加えた熱量の一部は仕事になる
∂Q
Cp=(--)
∂T p=一定
※加えた熱量の一部は仕事になるので、
Cv<Cp
※1molの内部エネルギーEは温度Tだけの関数として
E=E(T)
とかけるから、内部エネルギーは体積にも圧力にも依存しない、温度だけの関数となる。よって
∂E
Cv=(--)
∂T v=一定
という式は、v=一定を外し、偏微分から微分に直すことができる
dE
Cv=(--)
dT
また定圧比熱においては、1molの気体の状態方程式
PV=RT
でPが一定で、Rは定数であることを考えると
PdV=RdT
より
∂V
P(--)=R 。。。(A)
∂T p=一定
さらに
dQ=dE+PdV
をP=一定で温度で微分すれば定圧比熱が求まるから
∂Q
Cp=(--)
∂T p=一定
∂E ∂V
=(--) +P(--) 。。。(B)
∂T p=一定 ∂T p=一定
(A)式を(B)式に代入すれば
dE
Cp=(--)+R
dT
となる。(EはTだけの関数である)
よって理想気体については以下が成り立つ
Cp=Cv+R
つまり気体定数Rは、定圧比熱と定積比熱の差であって、気体が熱による膨張によって外の圧力に抗してする仕事の比熱に相当する
※種々の物質の比熱[J/g*K]
(固体は0℃、液体、気体は室温)
アルミニウム 0.880
金 0.128
銀 0.235
鉄 0.435
銅 0.113
砂 約0.8
木材 約1.25
水 4.22
海水 3.93
グリセリン 2.06
酸素 0.922
水素 14.19
空気(乾燥) 1.006
_◇状態量
系の現在の状態だけによって決まり、その状態を生み出した過程にはよらない特性
例)内部エネルギー
_◇熱
熱とはプロセスである。熱はエネルギーの移動の仕方であって、エネルギーの形態ではなく、実体のあるものではない
エネルギーが熱として(温度差がもたらす結果として)移動する
熱は温度差によるエネルギーの移動(原子のランダムな運動による)
_◇仕事
仕事は、環境における原子の一様な運動を利用したエネルギーの移動
◆エンタルピー
enthalpy H
熱含量
※示量性状態量
⇒単位[J]
※系から外部に熱を出すとエンタルピーが下がる。吸熱するとエンタルピーがあがる
※系が外部に向かって仕事をするとエンタルピーが下がる。仕事を受けるとエンタルピーがあがる。
_◇エンタルピーHと内部エネルギーUの関係式
H = U + p*V
U:内部エネルギー
p:系の圧力
V:系の体積
※内部エネルギーの変化とエンタルピーの変化との違いを考慮すること
_◇潜熱
※蒸発エンタルピー
※蒸発熱
※融解エンタルピー
※融解熱
_◇系の熱容量
系の温度に対して内部エネルギーの値をプロットしたグラフの傾きを、その系の「熱容量」と呼ぶ
※自由に膨脹できる場合:熱エネルギーの一部が膨脹(仕事)として使われるので、熱容量が大きくなる
※熱容量は温度によっても変わり、絶対零度ではゼロとなる
⇒系の全分子が一つの状態なので、占有数の広がりはない
⇒占有数のゆらぎ(揺動)はゼロ
⇒揺動散逸定理により熱容量ゼロとなる
※熱容量とは系の散逸の能力の尺度でもある
※温度上昇とともに占有数が広がるので、熱容量も増大するが、占有数の広がりの影響は低減し、逆に広がりと熱容量間の比例定数が減少することで相殺され、一定の値に落ち着く場合おある。
⇒分子運動の全基本モード(並進、回転、振動)では一定値に落ち着く
_◇揺動散逸定理
エネルギーの散逸=系内に拡散する(吸収する)
※系がエネルギーを散逸する能力は、対応する特性の平均値を中心とした揺動の大きさに比例する
_◇エンタルピーとエントロピーの関係
dH = TdS + Vdp
H:エンタルピー
S:エントロピー
◆熱機関
_◇等温過程と断熱過程
※等温過程
気体の温度を変えない。よってPV=一定(ボイルの法則どおり)このときに気体が仕事⊿Wをしたとすると
⊿W=P⊿V
気体の温度は変化していないので、内部エネルギーではなく、外からの熱で膨張して仕事をしたことになる
→逆に等温で圧縮をうけた場合には、外からされた仕事は熱になって逃げたことになる
※断熱過程
外部との熱のやりとりがない
dQ=0
dQ = dE + PdV = 0
ここで理想気体1モルについて、定積比熱Cvは
Cv = dE/dT
であるので
dE = Cv * dT
とかける。
また、気体の状態方程式より
P=R*T/Vなので
dQ = Cv*dT + (RT/V)dV = 0
よって
dV Cv dT
--=-(--)--
V R T
ここで、V,T,R,Cvは全て正の値であるので
断熱的に気体を膨張させればdV>0なので,つりあうためにはdT<0となって温度が低下し、気体を圧縮すればdV<0なので、dT>0となって温度は上昇する。
両辺を積分すれば
1 Cv 1
∫(-)dV=-(--)∫(-)dT
V R T
1/xの積分はlog(x)+Cなので
log(V)+C’=-(Cv/R)log(T)+C”
定数項をまとめると
(R/Cv)log(V)+log(T)=定数
a*log(b)=log(b^a)なので
log(V^(R/Cv))+log(T)=定数
さらに対数の足し算の公式
log(a)+log(b)=log(ab)
により
log(T*V^(R/Cv))=定数
指数関数に直せば
TV^(R/Cv)=e^定数(=定数)
これが断熱変化の式となる
Cp=Cv+Rの関係からR/Cvは
R/Cv=(Cp-Cv)/Cv
=(Cp/Cv)-1
(Cp/Cv)をγとおくと
R/Cv=γ-1
TV^(γ-1)=定数
PV=RTによりTを消せば
(PV/R)*V^(γ-1)=定数
両辺にRをかけても定数は定数なので
PV^γ=定数
※単原子分子理想気体
Cv=(3/2)R
Cp=(5/2)R
よりγ=5/3
TV^(2/3)=定数
PV^(5/3)=定数
※二原子分子理想気体
Cv=(5/2)R
Cp=(7/2)R
_◇カルノーサイクル
P↑
│ A
│ *
│ +*
│ + *
│ + *
│ + *
│ + *B
│ + +
│ + +
│ + +
│ D* +
│ ** +
│ *** ++
│ ***+C
│
└──────────────────→
V
①等温過程
A->B
高温熱源THに接した等温の膨張
温度一定(内部エネルギー一定)
膨張によって仕事をする
高温熱源THから得た⊿Qが仕事に変わる
②断熱過程
B->C
内部エネルギーを減少させて仕事(膨張)をする
温度THからTLに下がる
③等温過程
C->D
低温の熱浴TLへ熱を放出しながら圧縮
外から加えられた仕事で圧縮されるが
熱となって熱浴へ逃げるので
内部エネルギー一定
④断熱過程
B->A
外からの仕事で圧縮、内部エネルギー増加
温度上昇
※時計周りに回ると、囲まれた部分が熱機関のした正味の仕事となる
※カルノーサイクルは可逆過程である
→摩擦がない理想の過程
_◇カルノーサイクルでした仕事
①等温過程A->B
外からもらった熱量⊿Qab
外にした仕事Wab
もらった熱エネルギーをすべて仕事に変えるので
⊿Qab=Wab
※体積をVa->Vbに膨張させたときに気体が外部にする仕事Wab
→仕事PdVのAからBへの積分
Wab=∫[Va:Vb]PdV
気体の状態方程式 PV=nRT を使って書き換えると
Wab=nRT∫[Va:Vb]{dV/V}
このときの温度は一定でTh
これを積分すると
=nRTh[log(V)][Va:Vb]
=nRTh(logVb-logVa)
=nRTh*log(Vb/Va)
②同様に等温過程C->D
Wcd=⊿Qcd=nRTl*log(Vd/Vc)
Vc>Vdなので負の値をとり、仕事はマイナス(外から与えられた仕事により期待は圧縮されるが、それはそのまま熱⊿Qcdとして放出される
③B->C
断熱過程なので、膨張による仕事=気体の内部エネルギーの減少
理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるり、
定積比熱Cvにより
⊿E=Cv*⊿T
の関係があるので、内部エネルギーの減少分は
Cv*(Th-Tl)
④同様にD->Aの過程で熱エネルギーを貰うが
Cv*(Tl-Th)
であり、
※断熱膨張で使った熱量=断熱圧縮で得た熱量
よって、1サイクルの間に気体がした仕事は
Wab+Wcd=nRTh*log(Vb/Va)+nRTl*log(Vd/Vc)
第1項は正、第2項は負
※Va, Vb, Vc, Vdの間の関係
断熱過程では
T*V^(γ-1)=定数
よってB→C、D→Aの断熱過程では
Th*Vb^(γ-1)=Tl*Vc^(γ-1)
Tl*Vd^(γ-1)=Th*Va^(γ-1)
これから
Vc/Vb = Vd/Va
Va/Vb = Vd/Vc
_◇熱機関の効率(カルノー)
※熱機関の熱効率の定義
外部にした正味の仕事
η=------------
高温の熱源からもらった熱
※分母を高温の熱源からもらった熱とするのは、低温の熱浴に戻した熱は捨てられるため
※カルノーサイクルの効率
η=(Wab+Wcd)/⊿Qab
=1+Wcd/Wab
ここで
Wab=nRTh*log(Vb/Va)
Wcd=nRTl*log(Vd/Vc)
Va/Vb = Vd/Vc
であるので、
結局
η=1-(Tl/Th)
※高温の熱源と低温の熱浴の温度差が大きいほど、効率の良い熱機関である
※現実の熱機関の効率はカルノーサイクルの効率より必ず悪くなる
※どんなに理想的な熱機関でも以下の関係がなりたつ。
QH/TH ≦ QL/TL
QH 高温の熱浴から得た熱量
TH 高温の熱浴の絶対温度
QL 低温の熱浴に捨てた熱量
TL 低温の熱浴の絶対温度
※熱浴:熱量が十分にあってそこから少しくらい熱をやりとりしても温度が変わらない環境のこと
※熱機関がする仕事
QH-QL
※効率は
(QH-QL)/QH ≦ (TH-TL)/TH
_◇ヒートポンプ
カルノーサイクルを逆回転させると、
PV図のサイクル内側分の仕事を外部から加え
低温部から熱をもらい、高温部に熱を捨てる
ヒートポンプを実現できる
◆可逆過程と不可逆過程
_◇可逆過程 reversibile process
可逆 reversible
熱力学の可逆過程とは、環境条件の無限小の変更によって逆転するプロセスのことを示す
例)力学的平衡状態でつりあう圧力の一方を無限小変化させた場合の運動の方向の変化
※気体の膨張がどの段階でも可逆なら、なされる仕事の量は最大になる
→可逆変化は最大の仕事を成し遂げる
※可逆であるか否かのポイント
摩擦の有無
_◇不可逆過程
摩擦熱になったエネルギーは元に戻せない
摩擦が不可逆過程である
◆エントロピー
_◇カルノーサイクルでのエントロピー
カルノーの熱機関では、熱量を絶対温度で割った値
Q/T
※等温膨張過程でもらった熱量⊿Qabをそのときの絶対温度Thで割った値⊿Qab/Thと等温圧縮過程で失った熱量⊿Qcdをそのときの絶対温度Tlで割った値⊿Qcd/Tlは符号が異なるが絶対値は等しい
⇒カルノーサイクルでした仕事参照
⊿Qab nRTh*log(Vb/Va)
----=---------------
Th Th
⊿Qcd nRTl*log(Vd/Vc)
----=---------------
Tl Tl
さらに
Va/Vb = Vd/Vc
であるので、log(Vd/Vc)=-log(Vb/Va)
となり、足すとゼロになることが分かる
※残りの断熱過程では熱のやりとりはないので、カルノーサイクルの1周でQ/Tは保存されている
※可逆過程において
dQ
∮--=0
T
(閉積分)
Q/Tをエントロピーと呼ぶ
可逆過程においては
dQ
dS=--
T
①A->Bでは高温の熱源から熱が流入して増加するので、エントロピーも増大
②B->Cの断熱過程では、エントロピーに変化なし
③C->Dのでは外に熱を放出したので、エントロピー減少
④D->Aの断熱過程では、エントロピーに変化なし
_◇クラウジウスの不等式
不可逆過程(あるいは1サイクルの中で不可逆過程が入ると)閉積分は負となる
dQ
∮--<0
T
※エントロピー増大の法則
_◇P-V図でのエントロピー
P
↑ |
│ | エントロピー増大
│ \
│等温圧縮 \ 断熱過程の線=エントロピー同じ
│ ←\A
│ ●
│ \ →等温膨張
│ \
│エントロピー減少 \
│ \__
│ \__
│
└────────────────→V
※P-V図のある点から他の点へは、
等温過程
断熱過程
の2つを組み合わせればたどりつける
断熱過程ではdQ=0なので、
dS=dQ/T
であるエントロピーの変化もゼロとなる
⇒断熱過程の線がエントロピーの増大と減少を分ける
※等温膨張では熱が供給されるのでエントロピーは増大
※等温圧縮では熱が排出されるのでエントロピーは減少
※PV図=可逆過程の変化を表すのが通常
※可逆な断熱過程では、線上をとおりエントロピー一定だが、不可逆な過程、例えば不可逆な断熱膨張であれば、エントロピーが増大する。
※エントロピーを
dS=dQ/T
と書けるのは可逆過程のときだけ。不可逆過程でdQ/Tを積分してもエントロピーにはならない
※不可逆な断熱膨張過程を
可逆な断熱膨張過程+可逆な等温膨張過程
に分離して、このルートで積分すれば、エントロピーを求めることができる
_◇エントロピー増大の法則
どんな場合でもエントロピーが増大するわけではない
断熱の不可逆過程が起こると、必ずエントロピーが増大する。
あるいは
断熱の不可逆過程は、エントロピーが増大するように進行する
dS>0
※これは経験則である
_◇エルゴート仮説
※系をあらわす一点は、位相空間の中を運動しながらある領域にとどまる。とどまる時間の長さはその領域の体積に比例する。
⇒状態数の桁がほんのわずか違うだけで、位相空間の体積は非常に大きく違う。
⇒きわめて狭い特殊な領域には、十分長い時間をかければ回帰する可能性があるが、その時間は宇宙の年齢と比較しても十分に長い
_◇熱伝導
熱が高温から低温に流れるのは不可逆な現象である
例)孤立した断熱系での高温Thの固体Aと低温Tlの固体Bの接触
固体Aのエントロピーの変化
-⊿Q/Th
固体Bのエントロピーの変化
⊿Q/Tl
⊿Sa+⊿Sb=⊿Q(Th-Tl)/Th*Tl
Th>Tlなので正の値となりエントロピーは増大する
_◇統計力学的定義
S=k*log(W)
S:エントロピー
k:ボルツマン定数
logは自然対数
W:原子レベルで熱力学的状態を実現できる可能性の数(熱力学的確率)
※ある系が「場合の数の多い状態」に向かって変化していく。
※エントロピー=状態数の桁数
※エントロピーとは系の中に存在するでたらめさを量るものである。
◆第2法則
エントロピー増大の法則
①摩擦が不可逆過程であることを示す
②熱が高いところから低いところへ流れる
③熱から仕事を取り出して、それ以外に何の変化も起こらないようにはできない
※熱の不可逆性を表す
◆自由エネルギー
free energy
※内部エネルギーからどれだけ仕事を取り出せるか
熱力学の第1法則から
dE = dQ – dW
= dQ – PdV
エントロピーSで上の式を書き直すと
dE = TdS – PdV
仕事PdVを左辺に移して
PdV = Tds – dE
ここで等温過程を考えると dT=0なので ゼロであるSdTを右辺に足しても良い
PdV = SdT + TdS -dE
変数が2つあるときの全微分の関係
d(xy)={∂(xy)/∂x}*dx+{∂(xy)/∂y}*dy
=xdy+ydx
をS, Tに適用すれば
PdV = d(ST)-dE
PdV = -d(E-TS) ただし等温過程
つまり、等温過程で外への仕事として使えるのは
E-TS
というもの
これをヘルムホルツの自由エネルギーと呼び
F≡E-TS
※等温(可逆)過程ではエントロピーが大きいほど取り出せる仕事は小さくなる
_◇ヘルムホルツの自由エネルギー
Helmholtz free energy : F
等温等積過程
示量性状態量、等温条件で取り出し可能なエネルギー
F = U – T*S
U:内部エネルギー
T:温度
S:エントロピー
_◇ギブスの自由エネルギー
Gibbs free energy : G
等温等圧過程
示量性状態量、等温等圧条件で取り出し可能なエネルギーで、Gの変化が負であれば、化学反応は自発的に起こる
G = H – T*S = U + P*V – T*S
H:エンタルピー
U:内部エネルギー
P:圧力
V:系の体積
T:絶対温度
S:エントロピー
_◇FとGの差
F = G – p*V
(体積変化p*V分だけ異なる)
_◇自由エネルギー最小の原理
※熱力学第2法則により、系は自由エネルギーが減少する方向に進行し、また、閉じた系における熱平衡条件は自由エネルギーが極小値をとることである。
①等温等積過程では、ヘルムホルツの自由エネルギー
F=E-TS
が最小の状態が安定である
⇒固体の状態変化は、外界との熱のやりとりをしながら等温状態で進行する過程が多いので、ヘルムホルツの自由エネルギーで平衡条件を考える
②等温等圧過程では、ギブズの自由エネルギー
G=E-TS+PV
が最小の状態が安定である
⇒化学反応では、ギブズの自由エネルギーが等温等圧過程での化学平衡の条件となる
_◇化学ポテンシャル
※熱力学第2法則は、熱力学的に安定な状態がどのようなものかを決定づける
①温度の高い物体と温度の低い物体の接触
2つの系のエネルギーの和E=E1+E2が一定、かつ、双方の体積変化がない。平衡状態の条件
T1=T2
②総エネルギー一定に加えて総体積V1+V2=Vが一定の場合
T1=T2に加えて
P1=P2
③さらに条件を加えて気体分子が自由に行き来できるものとする
⇒安定な状態とは、それ以上エントロピーが増大できない状態である。領域1,2の分子数をN1,N2とし、両方の領域をあわせたエントロピーSを
S=S1(E1,V1,N1)+
S2(E2,V2,N2)
とかく。
E=E1+E2は一定
V=V1+V2は一定
N=N1+N2は一定
平衡状態での分子数の分配は、エントロピーSが最大となるN1できまるので、(極大値)
∂S
---=0
∂N1
S=S1+S2なので
∂S ∂S1 ∂S2
---=---+---
∂N1 ∂N1 ∂N1
また、N1=N-N2かつ、Nは一定でdN/dN1=0であるから
dN1 dN2
---=----
dN1 dN1
dN1/dN1=1なので、dN1=-dN2
なる関係が分かり
∂S ∂S1 ∂S2
---=--- - ---
∂N1 ∂N1 ∂N2
∂S1 ∂S2
---=---
∂N1 ∂N2
が平衡条件となる。
※化学ポテンシャルμ
(∂S) μ
(--) =--
(∂N)V,E=一定 T
μはエネルギーの次元を持つ。
つまり分子を通す場合には温度と圧力が等しいという条件に加えて化学ポテンシャルμ1=μ2が等しいことが加わる
⇒固体物理や半導体光学ではフェルミエネルギーとも呼ばれる
※pn接合の平衡状態ではフェルミエネルギーが一致しないとならない(つまり粒子(電子)が移動できる場合の平衡条件)
※化学ポテンシャルとギブズの自由エネルギーの関係
G=N*μ
分子数をNとする
化学ポテンシャルは、分子一個のギブズの自由エネルギー
_◇大きな系の中に入った小さな系
ある系がずっと大きな環境系の中におかれた場合
ある系:最初の温度Ta,圧力Pa
環境系:Te,Pe
ある系+環境系はそのさらに外側とは断熱
ある系と環境系の間の熱のやりとりは可逆過程
ある系+環境系は断熱系なので
ある系のエントロピーS
環境系のエントロピーSeとすれば
⊿S+⊿Se>0
※環境系は十分大きく⊿Qをある系に与えても温度は変わらないものとする
⊿Se=-(⊿Q/Te)
ある系の始状態をA,終状態をBとすると
熱力学の第1法則から
⊿Q=⊿E+∫[A:B]PdV
よって
⊿Se=-(⊿E+∫[A:B]PdV)/Te
これを
⊿S+⊿Se>0
に代入すると
⊿E-Te⊿S<-∫[A:B]PdV
※EとVが一定の場合
⊿E=0、dV=0なので、⊿S>0
必ずエントロピーが増大する。変化が止まるのはエントロピーS最大のとき
※SとVが一定の場合
⊿S、dVが0なので、⊿E<0
内部エネルギーを減少させる向きにおこり、内部エネルギーEが最小になったときに安定となる
※TとVが一定の場合
Ta=Tb=Tb、⊿T=0
-Te⊿S=-T⊿S-S⊿T
(S⊿T=0を引いてもよい
すると全微分の式になり)
=-⊿(TS)
dV=0なので
⊿(E-TS)<0
つまりヘルムホルツの自由エネルギーで
⊿F<0
となる
※TとPが一定の場合
Tが変化しないので左辺は
⊿E-Te⊿S=⊿(E-TS)
とかける。
Pが一定なので右辺は、
-∫[A:B]PdV=-P(Vb-Va)
VbとVaの差を⊿Vとかけば
⊿(E-TS)+P⊿V<0
ところでギブスの自由エネルギーG≡E-TS+PVなので
微小変化は
⊿G=⊿(E-TS+PV)
PVの全微分をとると
⊿G=⊿(E-TS)+P⊿V+V⊿P
圧力一定であれば⊿P=0
結局、⊿G<0
Gを減少させる向きに変化がおこり、止まるのはGが最小のとき
◆気体分子運動論
気体を分子の集団と考えて、その性質を理解する理論
_◇エネルギー等分配の法則
平衡状態にある系の場合、平衡状態にある粒子には、その質量の大小にかかわらず確率的に平等エネルギーが分配されている、と考える。
※気体分子の速度のx成分の2乗の平均を
<Vx^2>
で表す。
ある気体分子の速さをViとし、そのx方向成分をVixとすると平均は
∑[i=1:N]Vix^2
<Vx^2>≡--------
N
ところで三平方の定理から
Vi^2=Vix^2+Viy^2+Viz^2
これより、速度の平均の2乗は、
<V^2>=(1/N)∑[i=1:N]Vi^2
=(1/N)∑[i=1:N](Vix^2+Viy^2+Viz^2)
=(1/N)∑[i=1:N](Vix^2)+(1/N)∑[i=1:N](Viy^2)+(1/N)∑[i=1:N](Viz^2)
=<Vx^2>+<Vy^2>+<Vz^2>
原子はx、y、zのどの方向にも同じように走っているので
(1/3)=<Vx^2>=<Vy^2>=<Vz^2>
分子1個の質量をmとすると、その平均の運動エネルギーは(1/2)m<V^2>なので
(1/2)m<V^2>=(1/2)m(<Vx^2>+<Vy^2>+<Vz^2>)
((1/2)m<V^2>)/3
=(1/2)m(<Vx^2>)
=(1/2)m(<Vy^2>)
=(1/2)m(<Vz^2>)
※一分子の運動エネルギーがx、y、zの3方向に3分の1ずつ等しく分配されていることを示す
※マックスウエル=ボルツマン分布
_◇気体の圧力
体積Vの容器、単原子分子理想気体(分子数=N)
質量mの気体分子が速度vで壁にぶつかる
⇒弾性衝突
x方向でぶつかれば、x成分Vxが-Vxに変化
運動量の変化はmVxが-mVxになるので-2*mVx
運動量の変化は力積に等しいので、気体分子から受けた壁の力積は2*mVx
ここで短い時間⊿tの間に起こる衝突を考える
速度Vxを持つ期待分子のうち、壁からVx⊿tの範囲内
にあるものがぶつかる
⇒単位面積を底面とし、長さVx⊿tの直方体の容積に、速度Vxの分子の密度n(Vx)をかければ分子数が求まる
よって速度Vxを持つ分子が壁の単位面積あたりに与える力積は、
n(Vx)*Vx⊿t*2mVx=2*n(Vx)m*Vx^2*⊿t
因みに分子の密度 n0≡N/V とn(Vx)の間には
n0=∫[-∞:∞](n(Vx))dVx
気体分子それぞれの力積を、速度Vxについて-∞から∞まで積分すれば壁にかかる全力積が計算できる(実際は-符号の分子は壁にぶつからないので0)
∫[0:∞](2*n(Vx)m*Vx^2*⊿t)dVx…①
ところで、速度の2乗Vx^2の平均<Vx^2>を積分で表す
<Vx^2>=∫[-∞:∞]{(n(Vx)/n0)*Vx^2}dVx
※n(Vx)/n0は、速度Vxを持っている分子の割合
※n(Vx)=n(-Vx)と考えられる
ここから
∫[-∞:∞]=∫[-∞:0]+∫[0:∞]=2*∫[0:∞]
よって
<Vx^2>=2*∫[0:∞]{(n(Vx)/n0)*Vx^2}dVx…②
①、②より
①=m*⊿t*n0*<Vx^2>
原子はx, y, zどの方向にも同じように走っているので
力積の合計=(1/3)n0*m*<V^2>⊿t
一方、壁の受ける力積は圧力Pに対して P⊿t となり、
これが前式と等しいのと、n0≡N/V であるので
P⊿t=(1/3)(N/V)m<V^2>⊿t
∴ 2 N
PV=-×-m<V^2>
3 2
気体分子の個数をNとして、1molの気体を考えると、N*m*<v^2>/2は、1molの理想気体の内部エネルギーEをあらわす
N
E=-m<V^2>
2
∴
PV=(2/3)E
これと気体の状態方程式から
PV=(2/3)E=RT
とならねばならないから、1molの単原子分子理想気体の内部エネルギーは、
3
E=-RT
2
※気体の内部エネルギーは、絶対温度Tのみに依存していて、Tに比例して増える
_◇気体の粘性係数
μ=(1/3)ρl
ρ 気体の密度
l 平均自由行程
平均の速度
_◇ブラウン運動
溶液中の微粒子、ランダムに分子が衝突
粘性による抵抗を受けるので、動いた後、停止
これを繰り返して位置がずれていく
アインシュタインによる解析
x方向への移動距離の二乗の平均
<x^2>=2*kB*T*β*t
β:液体の粘性を表す量(βが大きいと粘性低い)
t:観測時間
◆ボルツマン定数
k もしくは kb
k=R/Na
R:気体定数
Na:アボガドロ定数
※ボツルマン定数kとは、原子あるいは分子1個あたりの絶対気体定数を表す。
※分子1個の平均の運動エネルギーは(3/2)k*Tに等しい
(1/2)m<v^2>=(3/2)*(R/N)*T=(3/2)k*T
⇒エネルギー等分配の法則からx, y, zの3方向に
(1/2)k*T
ずつ等しく分配されている。
※自由度
ある物体の運動を表すのに必要な座標軸の数
※温度
理想気体においては、温度は分子1個の平均の運動エネルギーに比例する
※温度とエネルギーを関係付ける
1.3806504(24)e-23 J/K
_◇分子の平均スピード
アボガドロ定数個の分子の質量は分子量と等しいので、
分子量M=Na*m*1000
√(v^2)=√((3*R*T)/M)=2735/√(M) [m/s]
酸素分子:分子量32
約483 [m/s]
_◇気体の比熱
※定積比熱
Cv=(∂E/∂T)v=一定
=(∂/∂T){(3/2)*R*T)}v=一定
=(3/2)*R
=12.5 [J/(mol*K)]
⇒2原子分子の定積比熱Cvは、ほぼ5R/2となる。
⇒2原子分子では回転の2つの自由度が加わるため。
※定圧比熱
Cp=Cv+R=(5/2)*R=20.8 [J/(mol*K)]
_◇固体の比熱
固体:
上下左右で他の原子と結合、自由に動けない
通常は回転もできない
⇒微小な振動が温度が高いほど激しくなる
バネに見立てた振動モデル
※振動エネルギー
1自由度あたり kB*T
⇒1molの原子からなる結晶の内部エネルギー
E=3*Na*kB*T=3*R*T
ここから求まる比熱
Cv=∂E/∂T=3*R
=24.9 [J/(mol*K)]
⇒単原子からなる固体の比熱とほぼ等しい
◆統計熱力学
_◇中心極限定理
系の気体分子の数が非常に多くなると、
「系の場合の数」≒「存在確率の最も高い分布(安定な分布)」の場合の数
※Nが大きくなると幅の狭いガウス型分布に近づく性質を中心極限定理とよぶ
※エントロピー増大の法則は、「系の場合の数」が大きくなるように変化するのだから、「存在確率の最も高い分布」の場合の数が、より多くなるように変化する、ということになる。
_◇ミクロカノニカル分布とカノニカル分布
※カノニカル
名詞形 canon 正典、規範、標準
※カノニカル分布(正準分布)
①ミクロカノニカル分布
エネルギーが一定で、まわりから孤立している系
⇒ミクロカノニカル集団
(ミクロカノニカル・アンサンブル)
その分布をミクロカノニカル分布という
※狭い適用範囲
②カノニカル分布
孤立系でなくて、外部と熱のやりとりがあって温度一定の系
⇒カノニカル集団
※標準分布
③グランドカノニカル分布
外部と熱のやりとりだけでなく、粒子のやりとりがある系※広い適用範囲の分布
◆マクスウエル・ボルツマン分布
_◇エネルギー分布
気体の分子は全部が同じエネルギーを持っているわけでなく、エネルギーには大小がある。このエネルギーの分布は、エネルギーEの関数になる
_◇マクスウエル・ボルツマン分布
※マクスウエル・ボルツマン分布で扱えるのはニュートン力学で扱える粒子。気体分子はその代表。
※電子はフェルミ・ディラック分布に従うが、近似的にボルツマン分布を適用可能な場合も多く、電子を対象としてボルツマン分布が使われる場合も多い。
※もっとも単純なエネルギー0の状態の占有数に対するエネルギーEの状態の占有数の比
エネルギーEの状態の占有数
-------------=e^(-βE)
エネルギー0の状態の占有数
⇒Eが大きいと占有数少なくなる
⇒パラメータβが大きくなるとEの占有数は相対的に減少する。
⇒β=1/kT
⇒温度が高い(βは低い)、多くの状態が有意の占有数を持ち、温度が低い(βは高い)、最低に近い状態だけが有意の占有数を持つ
あるエネルギーEに、電子のようなフェルミ粒子が存在する確率 fMB(E) で表すと
fMB(E) ∝ e^(-E/(kB*T))
※エネルギーが高くなるにつれて存在確率がどんどん小さくなる
※等確率の原理
同じ分子数で、同じトータルのエネルギーになる組み合わせがあれば、どの組み合わせにも同じ確率で分布すると考えられる。
⇒もっとも「場合の数」Wが多く組み合わせがもっとも高い確率で現れる組み合わせである
もっとも場合の数が多いのは、N1やN2が変化してもWがほとんど変化しないところが最大(極大)の条件となる。(最小でないことの検証は必要)
※場合の数が大きい場合は対数 log(W)の傾きがゼロになるところを探す
→場合の数が極値をとるときにはlog(W)の傾きもゼロになる
最大値の必要条件は、
∂log(W)
-------=0
∂Nj
この必要条件にスターリングの公式を使って求めた以下の式を使うと
log W(N0,N1,..,Nj)=N*log(N)-∑[j]Nj*log(Nj)
∂Ni
∑[i]=---*log(Ni)=0
∂Nj
N=一定から
0=∂N/∂Nj
=∂(∑[i]Ni)/∂Nj
=∑[i]∂Ni/∂Nj
E=一定から
0=∂E/∂Nj
=∂(∑[i]Ei*Ni)/∂Nj
=∑[i]{(∂Ni/∂Nj)*Ei}
※ボルツマン分布
指数関数的な減少を見せるエネルギーの関数
温度があがるに従い、低いエネルギー準位の占有数が減り、高いエネルギー準位の占有数が増える。絶対零度では最低のエネルギー準位のみとなり、無限大の温度では、すべてのエネルギー準位を同数の粒子が占める。
簡略化されたボルツマン分布
エネルギーEの状態の占有数
-------------=e^(-βE)
エネルギー0の状態の占有数
1
β=--
kT
k:ボルツマン定数
※マックスウエル分布
気体の分子の速度 v のマックスウエル分布
y=x^2*exp(-(x^2)), x=((m*v^2)/(2kT))^(1/2)
x=(m/(2kT))^(1/2)*vと置けば任意の気体の任意の温度におけるvに対する分布曲線が描ける。
m 分子質量
T 絶対温度
k ボルツマン定数
_◇ラグランジュの未定乗数法
以下の連立方程式を解く
∂Ni
∑[i]=---*log(Ni)=0
∂Nj
E=一定から
0=∂E/∂Nj
=∂(∑[i]Ei*Ni)/∂Nj
=∑[i]{(∂Ni/∂Nj)*Ei}
N=一定から
0=∂N/∂Nj
=∂(∑[i]Ni)/∂Nj
=∑[i]∂Ni/∂Nj
3つの式はそれぞれゼロなので、3つ足し合わせてもゼロであるし、第2の式にα、第3の式にβという未知の定数をかけて加えてもゼロである。
0=∑[i](∂Ni/∂Nj)*(-log(Ni)+β*Ei+α)
α、βを未定乗数という。
-log(Ni)+β*Ei+α=0となるようなα、βが存在すれば
上の式は常に成り立つ
log(Ni)=α+β*Ei
指数形式に書き直せば
Ni=e^(α+β*Ei)
ここで、C≡e^αと定義すると
Ni=C*e^(β*Ei)
⇒β=-1/(k*T)となるj
_◇分配関数
マックスウエル・ボルツマン分布の式では、全分子数がNであることを考慮するとCを消去できる
あるエネルギーEjの粒子の存在確率を和を表す分配関数Z
Z≡∑[j]{e^(-Ej/(kB*T)}
_◇気体分子のエネルギー分布
速度空間(Vx, Vy, Vz)の中に気体分子を置く
エネルギーが大きいほど、原点からの球殻の表面積は大きくなり、厚さdvの体積 4*π*v^2*dvは大きくなる
※微小な立方体 ⊿Vx,⊿Vy,⊿Vzが一つの状態を表すものとし、それに引いた速度ベクトルがその状態を示す
※球殻の体積を立方体の体積で割れば状態の数となる
4*π*v^2*dv
------
⊿Vx*⊿Vy*⊿Vz
※運動エネルギーと運動量の関係
dE=m*v*dv (E=m*v^2/2を微分すると求まる)
を使うと、エネルギー幅dEに含まれる状態の数を表す式に書き換えることができる
4*√2*π
=-----------*√EdE
⊿Vx*⊿Vy*⊿Vz*m^(3/2)
=C’*√EdE
⇒エネルギーEとE+dEの間の状態の数は√Eに比例して増える。
⇒C’*√Eは単位エネルギーあたりの状態の数を表すので状態密度と呼ばれる
※この状態密度にボルツマン分布をかければ、3次元的に動く気体分子のエネルギー分布となる
N=C’∫[0:∞]{√E*e^(-E/kT)}dE
E=C’∫[0:∞]{E*√E*e^(-E/kT)}dE
※ニュートン力学の気体分子の運動だけでなく、半導体の中の自由電子の動きを表すのにも近似的に使える
_◇β=-1/kB*Tの証明
エネルギー分布 e^(βE) のβが-1/kB*Tとなることの証明
※エネルギーが大きくなるほどエネルギー分布は小さくなるので、βは負である
全運動エネルギー Etotal
Etotal = C’∫[0:∞]{E*√(E)*e^(β*E)}dE
気体分子の総数 Ntotal
Ntotal = C’∫[0:∞]{√(E)*e^(β*E)}dE
気体分子1個の平均の運動エネルギー
=Etotal/Ntotal
C’∫[0:∞]{E*√(E)*e^(β*E)}dE
=------------------
C’∫[0:∞]{√(E)*e^(β*E)}dE
分子の積分は
∫[0:∞]{E*√(E)*e^(β*E)}dE
=∫[0:∞]{E^(3/2)*e^(β*E)}dE
部分積分公式により
=(1/β)[E^(3/2)*e^(β*E)][0:∞]
-(3/2)(1/β)∫[0:∞]{E^(1/2)*e^(β*E)}dE
ここで第1項はE=0でもE=∞でも0になるので消える
この結果を使うと分母、分子の積分が消え
=(-3/2)*(1/β)
気体分子運動論より求めた平均のエネルギー
=(3/2)*kB*T
と上のβの式から
β=-1/kB*T
_◇気体分子の速度分布
E=m*v^2/2 をvで微分すれば
dE = m*v dv
が得られる
N=C’∫[0:∞]{√(E)*e^(-E/(kB*T))}dE
を蒸気の式で変数変換すれば
N=C’∫[0:∞]{√(m*v^2/2)*e^(-m*v^2/(kB*T))*m*v}dv
=C’*m√(m/2)∫[0:∞]{e^(-m*v^2/(2*kB*T))*v^2}dv
ただし、ここでvは極座標表示の変数である
—————————————–
※ある関数 g の積分の極座標表示と、直交座標表示
との関係
∫[-∞:∞]∫[-∞:∞]∫[-∞:∞]g(Vx,Vy,Vz)dVxdVydVz
=∫[-π/2:π/2]∫[0:2π]∫[0:∞]g(v,θ,φ)v^2dvdθdφ
被積分関数 g が変数θとφに依存しない場合は
∫[-π/2:π/2]dφ∫[0:2π]dθ∫[0:∞]g(v)v^2dv
=π*2π*∫[0:∞]g(v)v^2dv
∫[0:∞]g(v)v^2dv=
(1/2π^2)∫[-∞:∞]∫[-∞:∞]∫[-∞:∞]g(Vx,Vy,Vz)dVxdVydVz
—————————————–
g(v)=e^(-m*v^2/(2*kB*T))
として、直交座標表示に直すと、
N=C’*m^(3/2)/√(2)∫[0:∞]{e^(-m*v^2/(2*kB*T))*v^2}dv
=(C’/2π^2)*(m^(3/2)/√(2))∫[-∞:∞]∫[-∞:∞]∫[-∞:∞]{e^(-m*v^2/(2*kB*T))}dVxdVydVz
=(C’/π^2)*(m/2)^(3/2)∫[-∞:∞]∫[-∞:∞]∫[-∞:∞]{e^(-m*v^2/(2*kB*T))}dVxdVydVz
⇒マックスウェルの速度分布則
e^(-m*v^2/(2*kB*T)
をx, y, zの3成分に分解すると
=e^(-m*(Vx^2+Vy^2+Vz^2)/(2*kB*T))
=e^(-m*Vx^2/(2*kB*T)) * e^(-m*Vx^2/(2*kB*T)) * e^(-m*Vx^2/(2*kB*T))
おのおのの成分に対する分布の積の形となる
⇒ガウシアン(正規分布)
y=e^(-x^2)
_◇ボルツマン分布を電子に使う例
※エネルギー準位が2つの二準位系
⇒レーザーの発光など
上の準位 E2
電子の数
n2 ∝ e^(-E2/(kB*T))
下の準位 E1
電子の数
n1 ∝ e^(-E1/(kB*T))
その差 ⊿E
(n2/n1)= e^(-⊿E/(kB*T))
温度Tは絶対温度なので正、⊿Eも正なので, n2はn1よりも小さい(平衡状態)
※発光
上の準位の電子の数が下より多い必要がある。
⇒外からの光の影響で、上の準位から下の準位に落ちて光を出す⇒誘導放出
⇒反転分布 n2>n1
⇒ポンプのように下から上に汲み上げる仕組み必要
⇒反転分布時には、形式上 T をマイナスにする必要
⇒負温度(マイナス温度)
◆フェルミ・ディラック統計
※電子は、フェルミ・ディラック統計に従う
⇒フェルミ粒子(フェルミオン)
※古典的な粒子と異なり、粒子の区別ができない
※パウリの排他原理に従う
「1つの状態には1個の電子しか入れない」
⇒よって、2状態があったとして、電子2個の入り方は1通りしかない
※あるエネルギーEにフェルミ粒子が存在する確率を
fFD(E)で表すと
fFD(E)=1/{e^((E-Ef)/kB*T)+1}
Ef:フェルミエネルギー(=化学ポテンシャル)
⇒絶対零度の電子分布では、電子が存在できる最も高いエネルギー
※絶対零度に近ければエネルギーがフェルミエネルギーより小さければ1(100%)になり、大きい場合はゼロになる階段状の関数となる
※温度が高くなるとフェルミエネルギーよりも高いところに存在するようになるが、E=Efでは常に確率 1/2 となる
◆ボース・アインシュタイン統計
※光子はボース・アインシュタイン統計に従う
⇒ボース粒子(ボソン)
※ボース粒子は4つの力を媒介する粒子
※古典的な粒子と異なり、粒子の区別ができない
⇒よって、2状態があったとして、光子2個の入り方は3通りしかない
※あるエネルギーEにボーズ粒子が存在する確率を
fBE(E)で表すと
fBE(E)=1/{e^((E-Ef)/kB*T)-1}
◆ボルツマンの原理
S=kb * log W
S:エントロピー、熱力学で定義された量
W:場合の数、統計力学で定義された量
※ヘルムホルツの自由エネルギーFとエントロピーSの関係
F=E-TS
を温度Tで微分する。ただし、体積は一定。
————————————–
d(xy)={∂(xy)/∂x}*dx+{∂(xy)/∂y}*dy
=xdy+ydx
————————————–なので
∂F dE ∂S
-- =-- -S -T*--
∂T(V一定)dT ∂T
————————————–
dE=T*dS-P*dV
————————————–なので
∂S ∂V ∂S
=T*-- --- -S -T*--
∂T ∂T ∂T
————————————–
体積一定より∂V=0
————————————–なので
=-S 。。。①
⇒自由エネルギーFが求まれば、それを温度Tで偏微分することでエントロピーSが求まる
⇒統計力学による表現の分かっているボルツマン分布のエネルギーEと自由エネルギーFをつなぐことができればFの統計力学的表現がもとまり、それを温度Tで偏微分すればエントロピーSとの関係となる
F/Tを温度Tで微分する。やはり、体積は一定。
∂ F 1 ∂F ∂ 1
--(-) =-*--+F*--(-)
∂T T(V一定) T ∂T ∂T T
1 ∂F F
=-*-- -(---)
T ∂T T^2
————————————–
上の①の関係から体積一定の∂F/∂T=-S
————————————–なので
=-(S/T)-(F/T^2)
————————————–
F=E-TS
————————————–なので
=-E/T^2
————————————–
ここでいよいよ統計力学で表されたEの表現
ボルツマン分布の分配関数で表された
E=N*∑[j]Ej*e^(Ej/kb*T)/Z
————————————-を代入
∂ F N*∑[j]Ej*e^(Ej/kb*T)
--(-) =- -----------
∂T T(V一定) T^2*Z
この式を満たす解
F = -kb * T * N * log(Z)
⇒統計力学による自由エネルギーの表現
前述の結果から、この式を温度で微分すればエントロピーとなる
◆散逸
散逸(さんいつ)とは、運動などによるエネルギーが熱エネルギーに不可逆的に変化する過程をいう。
熱力学的には、自由エネルギーの減少に相当する。
例)
運動エネルギーが摩擦、粘性や乱流によって熱に変化
電流エネルギーが電気抵抗によって熱に変化
※散逸関数
散逸によるエネルギーの時間当たりの減少量
例)摩擦を伴う運動
速度を v、動摩擦係数を c とすると、
(1/2)*c*v^2
例)電流
電流を I、抵抗を R とすると、
R*I^2 (ジュールの法則)
※散逸構造
散逸によって空間的対称性が自発的に破れて構造が形成されることがあり、これを散逸構造という。