連載小説 第161回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京から海外市場をサポートしています。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しですが、台湾や韓国などの新興勢力も台頭してきて、日本の電子デバイス業界は激変の連続でした。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第161話 リスボンでお仕事

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の26年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わっています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。世界のIT産業はどんどん変化していくので、ビジネスも大忙し。我々の半導体の売上げも2000年にはサイコー!だったのですが、その後、状況はめまぐるしく動いていきます。電子デバイス営業本部にも毎日のように変化が起こり、とうとう液晶事業は分離され、各事業はともに大きな変化が。2004年10月、私もトム君も再び、半導体事業部に所属する事になりました。思ったように売上げは上がらなくなっていきました。けど、リスボン?

 

「工作きゅ~ん! 会いたかったぞ~!」

「久し振りだなあ、トム」

トム君は5月のある日、ロンドン経由でリスボンへ飛びました。Edison Europe Electronics GmbHの代理店会議が行われるので、海外営業部長のトム君もその集まりに呼ばれて出張していったのです。

販売会社は年に1度くらい代理店を集めて、新製品紹介をしたり、売上げが思うように上がっていないとカツを入れたり(笑)します。ヨーロッパは広いので、各国から様ざまな人たちが一堂に会するのですが、代理店の方々も結構な費用をかけて出張しなくてはならないので、ただの会議ではモチベーションが上がりません。そのため、代理店会議は、訪問するのに相応しい楽しい場所を選ぶ事になります。トム君がEEEGに赴任していた時は、フランスのニースで行ったり、スペインのマヨルカ島で行ったりしていました。

そして、この年はポルトガルの首都リスボンで2泊3日の集まりを行う事になったという訳です。勿論、社長の工作君はホスト側の責任者ですから、多くの従業員を引き連れてリスボンへ来ています。そこへ、トム君が日本からのゲストとしてやってきたという訳です。

ポルトガルと言えば、スペインの横っちょのやや小さめの国ですが、その昔はヨーロッパの中でも最も海外進出に積極的で、大航海時代の先駆けでした。15世紀にはエンリケ航海王子などの探検家(というかある意味、侵略者)が西アフリカ沿岸部を航海し、1488年には喜望峰まで達しました。そして、1498年にはヴァスコ・ダ・ガマがインドまで到達するに至ったのです。

また、1500年にインドを目指したペドロ・アルヴァレス・カブラルがブラジルを「発見」し、アメリカ大陸の植民地化をいち早く進めたというのも、ポルトガルだったのです。

種子島に鉄砲を持ち込んだのもポルトガル人でしたね。(因みに、キリスト教を持ち込んだザビエルさんはスペイン人です)

さて、そのポルトガルの首都がリスボンでして、大西洋に面した美しい街です。市街にはチンチン電車が走っていて、レストランでは特産のポートワインなどがふるまわれ、情緒豊かです。

おお、ポートワインといえば、赤玉だ! とお思いの方は、往年のワイン好きさんですね(笑) 甘いヤツだよね、とおっしゃる貴方は、若い頃から色んなアルコールを嗜んできた口ですね(アハハ)。私もどちらかと申しますと、そちらの口に分類されますので、分かります。分かります(笑)

さて、本来、ポートワインというのは、ポルトガル北部のポルト港から出荷される特産の酒精強化ワインを言います。ワインの発酵途中で、強いブランデーを加え、酵母の働きを止めるという製法によって独特の甘みとコクが生まれるというお酒です。甘いから強くないと思ってしまうかも知れませんが、一般のワインよりもアルコール濃度が高い、20度くらいのお酒です。

ビールが一番好きだという私たちも一度は本場で賞味したいお酒な訳です。

で、そのポートワインを工作君とトム君は酌み交わしたというお話なのですが、実はわたくし詠人舞衣子も、その時、ご相伴にあずかっちゃっていたのですね(笑)。レストランでの様子を再現してみましょう。

「それにしても、よくきてくれたよ、舞衣子もトムも」

「工作君のお誘いじゃあ、断れませんものよ」

「何言ってんだか舞衣子は。招待受けたのは俺だけだったのに、どうにか私もリスボンへ行けないかなあ、って頼んできたんじゃないか(笑)」

「あら、そうでしたっけ、トム君」

『あのな、「ねえねえトム部長さま、事業部のオペレーションがいかに大変で、事前の予測情報がとても大事だというのと、P/Oは早い順から受け付けるので、代理店の皆さんもご協力宜しくね、ってプレゼンやるからさあ、私もリスボンへ連れてってよ」 って言ったのは、どちらのどなた様だったっけ?』

「あら、そう言えばそんな事を言ったかも知れませんこと。でも、今日のプレゼンで、しっかり代理店の皆さんに、フォーキャストをしっかり出してね、注文早くだしてね、ってアピールできたでしょ。ちゃんと貢献してるわよ、私。ねえ、工作君だってそう思うでしょ」

「うん、まあ、そうだね。舞衣子のアピールがすぐにどこまで効くか分からないけど、普段、日本の半導体生産の状況とかを殆ど知らない代理店のメンバーにとっては、事業部に関する理解が深まって、効果的なプレゼンだったよ。トムだってどう思うだろ?」

「おお、まあ、それは認めるよ」

「でしょ、でしょ。分かればいいのよ、トム君も工作君も」

「まあ、舞衣子がリスボンに来てくれたおかげで、またこの同期三人で旨いビールも飲めたしね」

「でしょ、でしょ。それに、ポルトガル特産のポートワインもご賞味できちゃったじゃない(笑)。トム君だって、私が一緒じゃなきゃ、ポートワインの美味しさも半減だって思ってるんじゃないの?」

「分かったよ、舞衣子。そういう事にしておこう」

「何よ、しておこうって」

「いや、しておこうではなくて、全く舞衣子様のおかげでした、です~」

「そう。それならいいのよ。最初から素直にそう言えばいいの。オホホ」

「じゃ改めて乾杯しよう。Welcome back to Europe, Maiko & Tom. Saude !

「サウードゥ!」

「サウードゥ!」

ポルトガル語で乾杯しながら、夜は更けていったのでした。

 

 

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