連載小説 第176回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京勤務。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しだったのですが、世界は激変していきます。乗り遅れると大変な事になっちゃうんだけど、もう乗り遅れてる?

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第176話 外部コンサルと事業戦略

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の27年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わっています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。2000年にはサイコー!だった我々の半導体の売上げは年々下がり続けていました。どうなっちゃうの私たち? 藁をもつかむ状況の中、会社はコンサルに頼ろうとしていました

 

「それでは、第1回の打合せを始めます」

と事業企画部の課長が第一声を発しました。

サイコーエジソン株式会社は、全社をあげて外部のコンサルティング会社に事業の分析、戦略策定をサポートしてもらう事にして、それぞれの事業部ごとにコンサルタントとの打ち合わせを始めたという状況でした。私やトム君が所属する半導体事業部も第一回会議を行う事になったという次第です。営業部からはトム君と私と、他に数名が参加していました。

アメリカ資本のコンサル会社からは、半導体事業部に向けて2名の若手社員が派遣されていました。他の事業部へもかなりの人数が充てられていたはずですから、相当大がかりなプロジェクトでした。

「本日のアジェンダはこのようになっております」 とプロジェクターによってスクリーンにパワーポイントが投影されました。参加者がひととおり紹介され、この会の進め方が説明されたあと、若手コンサルタントのファシリテーションに従って、参加者はいくつかのワーキンググループに分かれ、現状の分析が進められる事になりました。

このプロセスは主としてコンサルタントに現状を理解してもらう目的で行われているように思われ、これだけのために時間をかけるのは無駄だなあ、などと感じてしまったのですが、同時に自分たちにとっても現状の課題を整理するという効果がある事をその時は認識できていませんでした

そもそも、自分たちでしっかりと現状を分析でき、課題を整理できた上で、効果的な対策を立案実行できるのであれば、苦労はなかったのですが、自分自身も事業部全体もそのような能力を有していないくせに、外部の力に頼る事をどこか潔しとしていなかったというのが実情でした。

全くねえ、わたくし詠人舞衣子ともあろうものが、一応やる気で会議に出席はしていたのですが、その時は外部のコンサルという言葉の響きだけで、何となく抵抗感を感じてしまっていて、どうすればその機会を最も有効に使えるかをうまく考える事ができずにいました。

そうなってしまっていた一つの要因は、それまでの事業活動の中で外部の力を活用できた事例が非常に少なく、多くの場合、外部に対して高額の授業料を払って何も得られないか、或いは、お金を払ってなおも間違った判断をする事例が多かったという歴史にありました。

実際には、我々が、外部を活用するしないに関係なく、自分たちで正しい判断をするだけの知見を持たない集団だったからなのですが、「外部=うまくいかない」 という図式がトラウマのようになってしまっていたのも、抵抗感を感じる大きな要因だったのです。

その日、会議が終わってから、さすがに今日はビールだろう!みたいな話になり、トム君と、出席した営業部のメンバーとともに反省会に行ったのですが、出てくるのはネガティブな発言ばかりで、今振り返ってみると、全く低レベルの会話でした。

トム君は部下のメンバーたちとこんな話をしていました。

「この全社プロジェクトって、一体いくらかかってるんですかねえ?」

「〇〇〇〇円だっていう話だよ」

「ええ、そんなにかかるんですか?」

「らしいよ」

「へええ」

「コンサルって儲かる訳だよな」

「ですよね」

「こんな程度の話でこの金額だから、これだけお金をかけるにしては、あまりにROIが悪いんじゃないかなあと思うよ」

「ですよね」

「こんなにお金使うんだったら、別の事に投資した方がいいんじゃないかと思うけどなあ」

「ですよね」

そんな話が繰り返されていました。その時は、私もトム君と似たような感想しかもっていなかったので、それを覆すような発言はできなかったのですが、実際、その日のアウトプットは殆どゼロで、既に分かりきっているような話を、半導体事業を知らないコンサルに伝えただけみたいな印象だったのです。

では、その時、どうしていたら良かったのか。今になると、少なくとも、違う姿勢で参加した方が良かったのではないかと思います。全社の事業戦略を見直すために相当に高額な報酬を支払っても外部のコンサルの力を借りる、というのは経営判断ですから、我々がどうこう言う話ではないのに、そんな事を理由にして最初から批判的な態度でプロジェクトに参加するというのは間違っていました。そういう機会を得られたのですから、それを最大限活用して、自分たちが使えるアウトプットを自分たち主体で出せば良いだけだったのです。

このようなところは、地方企業にありがちな閉鎖的雰囲気がわざわいしてしまったかも知れません。言葉を選ばずに言えば、「何も知らないよそ者が何言っちゃってるんだ」みたいな雰囲気があったのでした。

その基本的雰囲気は最終回まで本質的に変わる事なく、数ヶ月続いたプロジェクトはコンサル主導、参加者は受動的みたいな状態のまま、高額なコンサルフィーの支払いとともに終焉を迎えたのでした。

このプロジェクトが成功裡に終わったかというと、少なくとも半導体事業に関しては、ほぼ失敗だったというしかありません。勿論、それなりの現状分析など、何らかのアウトプットはありましたが、折角の外部コンサルからのサポートも、支援を受ける我々が能動的に活用できなかったというのが実情だったと思っています。結果として、事業戦略を本質的に変えるに至った訳ではなく、その後も下降曲線からは抜け出す事ができませんでした。

我々も事業部中枢の経営陣も、全く勉強不足の状態で、コンサルを利用するに至らなかったのです。

このプロジェクトの時から数年して、私はトム君や営業部の何人かとともに、ようやくマーケティングや事業戦略のイロハを結構真面目に学ぶ事になるのですが、このコンサルプロジェクトよりももっと前に学んでいて、それなりの知見をもってプロジェクトに参加できていれば、少しは違ったアウトプットもあり得たのではないかと今になって思います。

アサハカな私たちでした(泣)

 

 

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