連載小説 第180回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京勤務。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しだったのですが、世界は激変。出身母体の半導体は縮小整理事業になってしまったのでした。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第180話 ステキな?いざない

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の27年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わってきました。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。2000年にはサイコー!だった我々の半導体の売上げは年々下がり続け、2007年、私とトム君は転機を迎えていました。リストラした後、今度は自分がリストラされる立場になっていたのです。

 

「えっと、トムさんと舞衣子さん、ちょっとお時間頂けますでしょうか?」

話しかけてきたのは、入社一年後輩のエディ須和さんでした。須和さんは元々は半導体設計部のエンジニアでしたが、抜擢されてSS-Systemsへ赴任し、RISCプロセッサー開発のR&Dの責任者をしていた方です。

私もトム君もサンノゼ赴任時代に2年近くご一緒していましたし、その後は営業本部でずっとご一緒してきましたし、また、同じRoosters(酉年生まれ)の仲間でもあります。第78話でもお話しましたが、特に須和さんとトム君は仲がよくて、アメリカの荒野を10日ほど二人で旅をし、生涯忘れる事のない想い出を作ったというご友人同士でもあります。

半導体事業縮小の直前までは営業技術部長として同じ営業本部の仲で一緒にやってきたのですが、須和さんは先見の明をお持ちでした。さっさと半導体単体の事業には見切りをつけ、半導体などの電子デバイスを複合的に応用した製品を企画開発して事業にしようと意気込み、ビジネス戦略部(後にデバイスビジネス開拓部)という新しい部署を立ち上げていたのでした。そんなエディ須和さんが私たちのところへひょっこりやってきたのです。

「いやあ、お二人ともお元気そうで何よりですが、半導体営業部のリストラをした後、ご自分の行き先が決まっていないとお聞きしまして」

「おお、そうなんだよ、俺も舞衣子もちょっと路頭に迷っている状態で、この前も何しよっかって話しつつ、3杯目のビールを飲んで、沁みるなあなんて言ってた訳さ」

「そうなんですよ、須和さん。蕎麦屋もカレー屋も自分たちの専門じゃないから難しいよね、って話してたんだけど、歌って踊れる能力とか、シンガーソングライターの才能を活かせる仕事はないものかと悩んでたんですよね」

「そうですか。舞衣子さんなら歌って踊る仕事は十分可能性があると思いますけど、多分時間がかかるでしょうから、それよりすぐにでも力を発揮して頂けそうな現実的な話があるんですよ」

「あら、それはステキ」

「うん、いい話があるなら聞かせてよ、エディ」

「はい。ここからはまだここだけの話という事で聞いて頂きたいんですが、今、うちの部署で新商品を企画して新規ビジネスを立ち上げたいと思ってるんですが、現在のメンバーたちは皆エンジニア上がりで、技術的な事は結構イケてるんですが、ビジネス的な感覚があまり育ってないんですよね」

「なるほど。今のメンバーはどこから来てるんだっけ?」

「結構、寄せ集めで、事業部の設計だったり開発本部だったりです」

「あんまり知らないメンバーもいるよね」

「そうでしょうね。営業部にはいなかったエンジニアの人が多いので」

「でも、何人か営業部出身のメンバーもいるよね」

「はい、いますが、主に半導体の営業技術部あがりの若手です」

「という事は、事業として成立させてお金にするには、今いるメンバーだけでは難しくて、営業や事業化の経験者が必要って事なのかな?」

「そういう事です。様々な社内外の調整ができなくてはいけないので、それなりの総合的な知見とバランス感覚が必要なんです」

「それは須和さんみたいな人って事ですね(笑)」

「いやいや舞衣子さん、私も結構偏ってますから、一人では難しいんですよ。なので、そのファンクションに部長クラス1名を充てて組織のマネジメントもしてもらいたいと思っています」

「それは、トム君って事ね?」

「そうです。トムさんなら、今の部署の足りないところを十分保管して頂けると思うんです」

「おいおい、そんな買いかぶって貰っても困るんだけどさあ、まあ、ある程度条件には適合してそうだね。自分で言うのも何なんだけど(笑)」

「そう思います」

「そりゃいいけど、舞衣子は?」

「舞衣子さんにはぜひやってもたらい事がありまして」

「え、なになに、私にできる事って? 歌って踊ってみんなを元気づけるとか?(笑)」

「ええ、そうです」

「ホント?」

「ウソです(笑)」

「だよね」

「ホントにやって貰いたい事は、プロマネです」

「プロ真似? プロの歌手に似せて歌うのだったら、私得意よ(笑)。横須賀ストーリーとか、プレイバックPart2 とか、すぐにでもオッケーよ」

「違います」

「だよね。じゃ、どちらのプロマネさんでしょ?」

プロジェクトマネジメントです」

「ああ、そっちの(笑)。須和さんたら人が悪いわね」

「いえいえ、人は悪くないです(笑)」

「で、何のプロジェクトをマネジメントすればいいのかしら?」

「ええ、ここからは、かなり企業秘密の領域に入り込みますので、その詳細をお話しする前に、お二人がこの話に乗って頂けるかどうかをお聞きした上で先へ進みたいのですが・・・」

「面白くなってきたじゃない。好きよエディちゃん」

「だめです。妻子がいますので」

「あら、そうなの? ま、知ってるけど(笑)」

「からかわないで真面目に考えてください」

「そうね、私はお役にたてるなら、いいけど、どうなの、トム君は?」

「いやあ、面白そうだけど、プロジェクトの内容を聞いてみない事には何とも分からないよなあ」

「トムさんなら、そう、おっしゃると思っていました。そこで、一つだけ、デモをお見せしたいと思っています」

「デモ?」

「はい・・・」

「いいじゃない、いいじゃない、私はデモ見たいわ」

「舞衣子、真面目に考えろよ」

「考えてるわよ。だからデモ見るんでしょ?」

「ぜひ、見てください。舞衣子さんもトムさんも・・・」

「・・・」

普段はケラケラ笑いながら酒席を共にする事も多いエディ須和さんですが、その日は何かしらの緊張感が走っていました。

 

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