連載小説 第60回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化で私の見事な肉体は更に水平方向へ成長しつつも、毎日忙しくやっています。Appleの青井倫吾郎さんと観た皆既日食に感激!で、お仕事はというと・・・?

 

 

第60話 危険なリスク?

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の11年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)は水平方向へ更に見事な成長をとげつつありましたが、アップル・コンピュータの青井倫吾郎さんとメキシコで皆既日食を経験してからというもの、仕事も食欲もバッチリです、うふっ。

 

 

 

さてさて、ハイテク産業というのは日進月歩なので、技術のアップデートは当然ですが、コンペティターに負けないように新規開発を繰り返していきます。サイコーエジソン株式会社の半導体事業もその例に漏れず、どんどん新しい製品を産みだしていました。その中で、ちょいと背伸びをしてでもやってみようとなったのが、RISCと呼ばれるCPUです。RISCとは何かですか? まあ、危険と隣り合わせのCPUみたいなものでしょうかねえ。私たちが得意にしていたのは、遅くてもいいからとりあえずの事ができる4bitマイコンでしたので、高性能のCPUとは逆の路線でしたが、32ビットのRISCを作るなんて、50Kgの柔道選手が100Kg超級に挑むようなものとも言えたような言えないような???事でした。なので、ホントにリスクと隣り合わせだったとも言えます。

我がSS-SystemsはR&D部門を立ち上げ、一気にエンジニアを多数採用し、日本からも設計者を何人も赴任させて、RISCの開発を始めました。一人や二人で開発できるような代物ではなかったのです。

それまで、販売現地法人として存在していたSS-Systemsは設計開発機能をも有した一大企業にに変貌していきました。当然、オフィスも拡張し、従業員も倍増しましたので、事業規模が大きくなった分、しっかりした経営を行わないと、あっという間に危ない状況に陥ってしまいます。設計開発機能は実質的には日本の半導体事業部に帰属するので、費用負担も基本的な部分はお願いするわけですが、そうなってくると事業部自身もその負担に耐えられるだけの収益を上げる必要があります。しかし、それを分かった上で、新規開発を継続しない限り、ハイテク産業においては勝ち残っていけないのです。

因みに半導体製造への投資はもっと巨大で、工場を一つ建てるのには少なくとも私の給料の100倍くらいのお金は必要でした。え、100倍では間違っていますでしょうか? ま、かなりの金額です。

R&D部門で開発した製品をさっさと売りまくって投資した分を取り戻す事ができればいいのですが、それまで手掛けて来なかった技術にトライするのは非常に大変で、なかなか製品化に至りませんでした。費用がかさむばかりで、リターンが得られない状態が続いていきます。開発に時間がかかる事は分かっていながらも、具体的な成果が出てこないと、次第に焦りは広がっていきます。それでも事業全体としては収益が伸び続けていたので、R&D部門での開発は継続していきました。

あ、今は1991年でしたね。R&D部門での開発はその後10年近く続くので、またその頃にお話しますね。何しろ、大河小説なので、色々ございまして、うさぎとカメで言うと、カメ的進み方で申し訳ありません。

 

難しい話はおいといて、この辺で青井倫吾郎さんとのその後をお話したいと思います。はい。

この数ヶ月で急速に接近した私と倫吾郎さんは、お互いの住まいを行ったり来たりする生活になっていました。勿論、それぞれの仕事に影響を出してはいけませんので、そうならないように気をつけながら、お付き合いをしていましたよ。

同期の島工作君には彼が日本へ帰任する少し前に、彼氏ができたよ、と告げました。もう一人の同期であるトム君にもすぐにお話しました。なので、今は別に隠したりする事もなく、周りのみんなにもオープンにしています。

まあ、SS-Systemsのローカルの人たちも、誰かとつき合えば、その通りにオープンにします。会社の行事などには、パートナー同伴で参加する方が普通なので、自然と私も倫吾郎さんを同伴し、皆に紹介するようになりました。同じように私も倫吾郎さんの参加するイベントなどには一緒にいきましたので、Appleの方々とも知り合いになっていきました。

パートナーが変わる人も結構いて、それはそれで個人を尊重する文化なので、それはそれぞれの人の事情でしょうと、誰も何も言いません。因みに、いい年の独身なのにずっと彼氏彼女がいないようだと、大丈夫?この人ちょっと変じゃないの?という風に周りからは観測されるようでした。

さて、倫吾郎さんは私のお母さんの同級生の次男さんです。そもそも、母と、同級生の青井優子おばさまのお二人のお導きでお会いしたのがそもそもの始まりなので、そろそろ、日本のお二人へご報告しなくてはと思っていました。

「ねえ、倫ちゃん、優子おばさまには話したの、私たちの事?」

「いや、まだだよ。別に話す機会も普段はあんまりないからね」

「私、今度日本へ出張なのよ。もう言った方がいいよね、倫ちゃん」

「うん、まあ、別に隠す事でもないしね」

「でもさあ、そうしたら、お母さん、言うと思うんだよね」

「なにを?」

「だからさあ、ね、あれよ、あれ

「あれかあ・・・」

「あれなのよ・・・」

「あれって何?」

「え、分かってなかったの?」

「ああ」

「ま、いいや、その話はまた今度ね」

「え、何だよ、それ」

倫ちゃんのバカ・・・」

「え???」

私は自分から、“あれ” の話をするのはどうかなとも思っていたので、あえて口にしない事にしました。ホントに倫ちゃんて、おバカなんです(笑)。そういうところは、ですね。

 

今度、“あれ” についてお話できるようになればいいですけど、どうなる事やら・・・。

この続きはまた次回ですね。うふっ。

 

 

第61話につづく

第59話にもどる