連載小説 第131回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、日本勤務をしています。20世紀も終焉に近づいていく中、我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶発振デバイス)はどうなっていくのでしょうか。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第131話 画期的発明

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の20年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て1999年3月に日本へ帰任しました。家族は3人一緒でラブラブですよ。うふっ。いよいよ新しいミレニアム(西暦2000年)を迎えました。

 

新しい千年の始まりですから、そんな節目に生きていたというのは、なかなか感慨深いものがあります。因みに、千年前の西暦1000年は何か歴史上のすごい事が起こったという年ではなかったようですが、日本は平安時代の中期で比較的安定していた時代でした。

それからの千年は日本も世界も戦乱と平和を繰り返してきましたが、西暦2000年時点での世界はかなり安定していました。西暦3000年に至る次の千年はどんな1000年になるのでしょうか。平和なミレニアムになればいいのですが、翌年の2001年にはもう世界を揺るがす一大事件が起こります。

それはまた今後お話するとして、西暦2000年とはどんな年だったのか、振り返ってみましょう。

アメリカでは共和党のジョージ・ブッシュが僅差でアル・ゴア候補に競り勝ち、大統領に就任しました。一方、ロシアでは、プーチンが大統領に就任しました。両者ともに、その後の世界へ少なからぬ影響を及ぼす影響を及ぼす事になるのですが、その始まりとなったのが2000年だったのでした。負の影響と言ってもいいでしょう。

また、中国では、この年の始まりに、百度(バイドゥ)という中国版検索エンジンの会社が立ち上がり、その後Googleに次ぐ規模に成長していきます。それまで、中国のIT産業は世界にとって大きな影響を与えるものではありませんでしたが、それ以降、世界の勢力図は大きく変化していく事になります。

日本でのヒット商品番付を振り返ってみると、ユニクロ、iモード、DVD、プレステ2などが並んでいます。

ユニクロは、小さなメンズショップに端を発したカジュアル衣料品店でしたが、フリース、Tシャツ、デニムジャケットと次々に企画商品を発売し、高いレベルでの質と価格のバランスが世代を超えて支持されるようになっていきました。商品アイテムを徹底的に絞り込み、中国の契約工場で大量に作って一気に売り切るというビジネスモデルが大当たりして、2000年のヒット商品番付のトップになったのですが、その後もどんどん成長し、ファストファションという新しい衣料品市場を生み出していきます。今では我々の生活にとって、なくてはならないと言える程の影響力を持っていますし、UNIQLOとして世界的なブランドになっています。

それを実現した柳井さんは、新しいビジネスモデルを生み出す慧眼をお持ちであったという事でしょう。

「iモード」に関して申し上げるとすれば、これはスゴい発明であったと言わざるを得ません。それまで電話機能しかなかった携帯電話にメール機能が付いてしまったのですから、その頃はびっくり仰天の技術でした。更に、メールだけでなく、携帯電話のパケット通信でインターネットが使えるようになったのですから、世界を変える画期的な発明だったのです。

今ではスマホにとってかわられ、「iモード」って何?としか評価されないでしょうが、現代のスマホは「iモード」という土台の上に生まれた産物であると言ってもいいでしょう。

残念なのは、日本で生まれた折角の画期的発明はガラケーの中だけでの進化に留まり、海外で生み出されたiPhoneという怪物に駆逐されてしまった事です。日本の産業の栄枯盛衰を物語る話になるのですが、それはまたおいおいお話するとして、「iモード」が我々の電子デバイスビジネスに及ぼした影響を少しお話しましょう。

携帯電話でメールやインターネットの情報を見せる訳ですから、多くの画素を表示できる液晶表示体が必要になっていきました。それによってサイコーエジソン株式会社の液晶表示体ビジネスが急速に伸張する事になると同時に、その表示体に使われるLCDドライバーICによって半導体ビジネスも大きく成長したのでした。

2000年に我々の半導体事業はそれまでで最高の売上げを記録しました。

ドコモで「iモード」を生み出す立役者となった松永真理さん「iモード事件」という著作を発表し、日経ウーマン誌の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2000」にも選ばれました。時代の先端をいく女性として注目を集めた方です。「iモード」を実現するための電子デバイスメーカーとして、サイコーエジソン株式会社も懇意にして頂きました。

因みに「iモード」のCMをしていたタレントさんを覚えていらっしゃるでしょうか? そうです、広末涼子さんです。当時20歳くらいだった広末さんのお可愛いかった事。今でも多くの方々の記憶に残っている事と思います。ステキでした。

 

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