
桜田モモエ
<これまでのあらすじ>
サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京勤務。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しだったのですが、世界は激変していきます。乗り遅れると大変な事になっちゃうんだけど、もう乗り遅れてる?
(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら)
第170話 ゆでガエル
私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の27年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わっています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。世界のIT産業はどんどん進歩していくので、我々の半導体の売上げも伸び続け、2000年にはサイコー!だったのですが、その後、年々売上げは下がり続けていました。どうなっちゃうの私たち?
皆さんは、カエルを茹でた事はありますでしょうか? まあ、大抵の方々はないでしょうね。私もございません(笑) ですので、「ゆでガエル」 という現象がどのようにして実現するか、もう一つ知見は足りていないのですが、言われてみると、確かにそうですよねえ、と得心するようなお話です。
カエルが入っている冷たい水を火にかけ、水温を徐々に上げていくと、カエルは温度変化に気づかず逃げ出さないため、最後は熱湯でゆで上がって死んでしまうというお話なんですね。
これは、個人や組織が陥りやすい失敗を見事に表現しています。人間は、基本的に現状維持を好み、環境変化を望みません。状況は刻々と変化しているにもかかわらず、「まだ大丈夫だろう」「もう少しいけるだろう」と「ぬるま湯気分」でいるうち、対応できなくなるほどに問題が悪化してしまうのです。
途中のちょうどいい温度の状態では、むしろ、「いい湯だな♪あはは」 みたいに呑気な気分になっている事は、もはやブラックユーモアの世界です。危機感もなく、何も考えずに、のほほんと、お湯につかっているなど、可哀そうに思えてきます。あ、もちろん、自分たちに向かって言ってる言葉でもあるんですが・・・。
そして、この無常観的なやるせなさは、平安文学的に言えば、「もののあはれ」 とも感じます。
我々の半導体ビジネスを振り返ってみましょう。
私たちは1980年に入社して以来、26年以上にわたって、我が社の半導体ビジネスにスタートからずっと関わってきましたので、その歴史は心得ているつもりでおります。それを振り返るのは楽しい作業であるのと同時に、少々つらい事でもあります。詳細はこれまでしたためてきた第1回から今回の第170回にかけて記載されていますが、超おおざっぱに言ってしまえば、最初の20年は飛躍的にビジネスが伸長したが、2000年以降は下降の一途を辿っている、という事です。
20年間のサクセスストーリーについては、ここではいったん横において、何故にその後下降線をたどり続けているかを考えてみたいと思います。
一言で言うと、ゆでガエルになっているからなのですが、どうしてゆでガエルになってしまったのか、そこが解明できないと有効な対策が打てません。
何故なの? 私はトム君に相談してみる事にしました。
「ねえ、トム君、ゆでガエル現象って話、この前もしたでしょ」
「ああ。あ、すいません、生ビール2つ追加で!」
「ちょっと、ちゃんと聞きなさいよ」
「あ、ごめんごめん」
そうです。この会話に象徴されているのですが、ビジネスに対する危機感がまるで足りていないのです。営業部長のトム君がこの調子ですから、駄目さ加減がよく分かります。しかしながら、ビールが底をつく手前の段階で先行発注をかけるあたりは、先を見越した行動ができており、その点ではゆでガエルではありません(笑)
まあ、ビールのオーダー程度の簡単なことであれば、誰でもプロアクティブに動けるでしょうが、半導体ビジネスの将来をどうするかのような難易度の高い問題においては、人は誰もダメダメなのかも知れませんねえ。
そこでです。もう少し何とか手は打てないのだろうかと考えた時に、自分たちがダメダメなら、外部の力を借りたらどうか、という考えも浮かんできます。自分たちがゆでガエル化しないために、その道の賢者に指導を仰ぐのは適切な手段でしょう。そこで、我が半導体事業部もそのような指導を仰いだという訳です。さて、それでうまいこと行ったのか、今後のお話しにご期待ください。
あ、因みに、さすがのカエルも、実際のところは、「いい湯だな♪あはは」 と温泉気分で茹で上がっていってしまう訳ではなく、途中で熱かったら、さっさと逃げ出すそうです(笑)
第171話につづく