連載小説 第181回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京勤務。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しだったのですが、世界は激変。出身母体の半導体は縮小整理事業になってしまったのでした。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第181話 でも、ペンギン

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の27年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わってきました。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。2000年にはサイコー!だった我々の半導体の売上げは年々下がり続け、2007年、私とトム君は転機を迎えていました。リストラした後、今度は自分がリストラされる立場になっていたのです。そこへ、ステキな?いざないが・・・

 

私とトム君に、うちの部署へ来ないかとステキな?いざないをくれたのは、エディ須和さんでした。エディさんと言っても、本名は須和英知さんです。ご本人はエッチな人ではありませんが、えいちというとHみたいなので、誤解される方もいるかも知れません。ま、アメリカではEddieさんだったので、そのままエディさんとも呼ばれています。

その須和さんが立ち上げたのは、自社デバイスを使った応用製品を企画開発しようという新規部門です。半導体も水晶も部品単独のビジネスだけでは、なかなか付加価値が上がらず、事業としての限界が見えてきていたからです。

須和さんによると、現時点でいくつかデバイス応用製品のネタがあって、すでにデモ用のモックアップもあるというので、見せてもらう事になりました。

「須和さん、どんなデモを見せてくれるのかしら」

「それはですねえ、こんなデモなんです」

と言って、私とトム君をデバイスビジネス開拓部のメンバーがいるところへ連れていってくれました。部署は違っても、同じデバイス営業部から派生した部門なので、同じフロア内にあります。

「これがそのデモ機です」

と言って見せてくれたのは、想像していたのとは違うヘンテコな姿かたちをした物体でした。なにかの動物みたいな形をした物体。私にはそう見えました。

「うううんんん」

トム君が唸りました。

「うううんんん」

私も唸りました。

「これは一体なに?」

トム君が須和さんに聞きました。

「これは、何かの動物をデフォルメした作品ですか、須和さん?」

私も聞きました。

「アハハ、芸術作品ではありませんが、ここには我々のデバイスを応用した機能が詰まっているんです」

「一体、何が入っているの?」

マイコン、水晶、表示体、いくつかのセンサーですね」

「それで、何をするんだっけ?」

「カメラの手ぶれ補正です」

「手ぶれ補正か。何か新しい機能が入っているの、エディさん?」

「そこがミソなんですけどね。今はヒミツです(笑)

「何だよ、教えてよ」

「それは、こっちの部署へ来てくれるって決まってからですね」

「ふーん、そうか。ま、何かしら差別化する機能とかが付いてるんだよね?」

「まあ、その積りなんですが、技術的には新規性があっても、それが顧客価値に繋がっているかを検証しなくてはいけなくて、その辺がちょっとまだまだなんです。だからトムさんたちに来て欲しいんですよね」

「なるほど、そういう事か。確かに今の陣容にその検証機能はまだまだ不足っぽいね。技術的な経験値先行のメンバーが多いみたいだから」

「お分かり頂けましたか」

「細かいところは分からないけど、エディさんが困っているところは分かったよ」

そこまでの話を聞いてから私も一つ聞いてみました。

「須和さん、このデモ機はこのままカメラに搭載されるって訳じゃないですよね?」

「はい、もちろん」

「どのくらい小さくできるんですか?」

「そこがまた課題なんですよ、舞衣子さん」

「まだ検証できていないって事ですか?」

「ええ、まずは、デモ機で市場ニーズがあるかを調べてから次のステップでと考えてはいるんですが」

「実際、どのくらいの大きさで、値段はいくらで搭載できるかを平行して検討を進めないと遅くなっちゃいません?

「全くそのとおりなんです。今はまだマンパワーもビジネスセンスも不足しているのが現状なんです。だからこそ、そのあたりを俯瞰してプロジェクトマネジメントできる舞衣子さんのような人材を必要としているんですよ」

「な~るほど、じゃあ、私にも何かお役に立てる事があるかもって事ね」

「はい、まさにその通りです」

「分かったわ。それにしても、このデモ機、何かに似てない?」

「そう思われますか?」

「ええ」

「実は、部の内部でも、このデモ機、ペンギンって呼ばれてるんですよ(笑)」

「あはは、そうなのね。私も何か黒くて立っている動物って思ってたの。ペンギンね(笑)」

「はい、ペンギンです(笑)」

ペンギンと聞いてトム君も笑っていましたが、私には、その笑いに少々不安も混じっているように見えました。私の想像では、新規開拓の楽しさを感じるのと同時に、まだまだ足りていない部分が多いので、さてどうしようかと既に考え始めているのだと思ったのです。

その夜、私はトム君とビールを頂きました。

 

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