連載小説 第183回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わってきました。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京勤務。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しだったのですが、世界は激変。出身母体の半導体は縮小整理事業になって、リストラされてしまい・・・。

 

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第183話 ジョブズ君たら・・・

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の27年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わってきました。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。2000年にはサイコー!だった我々の半導体の売上げは年々下がり続け、2007年、私とトム君はリストラされちゃいました。新たなお仕事は、デバイスビジネス開拓で・・・

 

「ええ、本日付で、これまで半導体営業部で活躍してこられたトムさんと舞衣子さんが我々の仲間に加わってくださる事になりました。今日からデバイスビジネス開拓部の一員です。トムさんには部長としてデバイス応用製品の企画とビジネス化全体を取り仕切って頂きます。舞衣子さんは部門を横断して、企画開発の推進と進捗管理を行うプロジェクトマネジャーとして皆さんと一緒に仕事をして頂きます。それでは、お二人からご挨拶をお願いします」

エディ須和さんが私たちを紹介してくださいました。

「富夢まりおです。入社以来27年にわたって、半導体をはじめとする電子デバイス営業に携わってきましたが、デバイス単体のビジネスではなく、更に付加価値の高いデバイス応用製品の企画とビジネス化を皆さんと一緒にやれる事になりましたので、とてもワクワクしています。ここにいる多くの皆さんとは、すでにデバイス営業本部時代からご一緒していますので、また楽しくやっていけたらと思います。それと、これから新しくご一緒するメンバーとの仕事も大変楽しみです。宜しくお願いします」

パチパチパチ・・・

「殆どの皆さんはご存知と思いますけど、改めて、詠人舞衣子で~す。トム君とは同期入社なので、それなりの年輪が身体じゅうに巻き付いちゃってますが、今でも基本はイケイケなので、バブル期の気持ちのまま、新規ビジネスに取り組んで行きたいと思ってま~す(笑)。新規ビジネスはスピードが大事だから、皆さんのお尻をビシビシ叩くようにと、須和さんからも指令を頂いちゃってますので、悪気はありませんが、よろしくお願いしますね。ニコッ

パチパチパチ・・・

トム君の挨拶はちょっと固かったので、私は少し砕けてお話ししてみました。というか、私の普通くらいの感じでお話ししてみました。少々の笑いはあったものの、まだまだ皆さん乗り乗りではないみたいです。まあ、設立したばかりの部門ですし、まだ何の成果も上げていないので、仕方ないかも知れませんね。これからが楽しみ、早く売上げになる企画を立ち上げて行かなくちゃ、そう思った2007年2月のある日でした。

その日のうちに、トム君と私は、部内でどのようなネタを扱っているか、各プロジェクトのリーダーから一通りレクチャーを受けました。

その中で、私が面白そうだと思ったのは、「アウトドア先生」という企画でした。

「アウトドア先生」: 登山者などが携帯する機器。GPSを内臓し、道に迷って遭難する事がないよう、地図と現在地が示される。気温や標高、自分のバイタルデータなども計測、表示。また、アウトドアに関する様々な情報や、花、鳥、動物などの図鑑を内臓し、何でもすぐ調べられる。4インチくらいのカラー液晶画面。屋外でもよく見えること。できるだけ軽量に。単三電池2本くらいで何とか数時間持たせたい。

いかがですか? おいおい、そんなの、今ならもっと素晴らしいものが、スマホと専用ウォッチで簡単にできちゃってるよ、と思われるかも知れませんが、皆さん、覚えていらっしゃいますでしょうか? iPhoneが発売されたのは2007年6月のこと。上記の企画はiPhoneが世の中に出る前の2007年2月頃のお話です。

ネットに繋がるスマホで、ほぼ全ての事ができてしまうという時代に私たちは生きていますが、スマホという概念が世間に広まる直前の、「アウトドア先生」のような機器があればいいなと思っても不思議ではなかった時代に、私たちはデバイスビジネス開拓をしようとしていたのでした。

スティーブ・ジョブズ様の大発明が世界を激変してしまった事を考えると、「アウトドア先生」のような企画をたてる時にネットと繋げる事を考えなかった時点で、私たちって、(もっと言えば日本のみんなに)、先見の明がなかったなあ、と思えてしまうのですが、それも「コロンブスの卵」みたいな話でしょうか。

折角、ネットに繋がってテキストデータの送受信ができるiModeというスゴい発明をした日本が、それ以上の超スゴい事をできなかったのは、スティーブ・ジョブス様のように、ガレージでパソコンを作ったり、世の中をあっと言わせたいと考えたりするようなお方が少なかったからなのでしょうかねえ。基礎的な技術やデバイスは全て日本が持っていたのに、最後の最後、商品のアイデアで勝つ事ができなかったのですから、日本は大変惜しいことをしたと残念になります。やはり、電子部品を持っているだけではなく、それを使ってどのような製品を生み出すかが鍵なのだと、後になって気づくことになりました。

因みに、スティーブ・ジョブズ様は、我がサイコーエジソン株式会社を訪問した際、弊社の液晶が搭載された機器を勝手に分解し、液晶表示体をつぶさに観察してお帰りになったという逸話があります。なんでも、好きにやってしまわれるところなど、ジョブズ君たら、ちょっと憎めない伝説のお方なのでした。

 

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