連載小説 第11回
4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

ItohTakamitsu
ペンネーム    桜田ももえ

<これまでのあらすじ>上諏訪時計舎4年目、IC営業部の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを売っています。マイコン販売担当から海外営業担当へと華麗なる転身(?)をしたところです。

 

 

 

 

 

第11話  時代はアメリカだ!

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですがIC営業部の営業レディです。最初はマイコン担当として4ビットマイコンを販売していましたが、1983年4月から組織編成が変わり、IC海外営業課に所属する事になりました。アメリカ、ヨーロッパ、アジアと地域毎に担当が分かれ、私は同期のトム君とともにアメリカ担当になりました。入社4年目になり、まあまあ戦力になってきたところです。

これまでのお話をお読みになった方の中には、もう一人同期の島工作君もいるだろうと思われた方もいらっしゃるかも知れません。そうです、一番イケメンの島工作君もIC海外営業課になったので、また一緒に楽しくやれるかなと思ったのですが、何と、すぐに彼はアメリカのシリコンバレーに新しく設立した現地法人へ赴任してしまいました。オーマイガーです。一番イケメンだったのに・・・。

1983年といえば、東京ディズニーランドが開業した年です。

新技術がどんどん花開いていきました。ビデオカメラがポータブル化し始めたのもこの頃です。まだ、ビデオカメラは肩乗せという時代でしたが、その後のハンディビデオカメラや携帯機器の先駆けとなりました。

ヤシカが京セラに買収されたのもこの年でした。ヤシカは上諏訪時計舎と同じ諏訪エリアの精密機器メーカーで主にカメラを作っていましたが、日本でもM&Aの波があちこちに押し寄せ始めていました。

さて、シリコンバレーはご存じの通り、サンフランシスコの南にあるサンノゼ市を中心とするエリアです。業界を知る人々にとっては世界の半導体産業の中心として、聖地のような場所です。今でこそ、AppleもFacebookもGoogleも本拠地を置くICT産業の中心地として広く知れ渡っていますが、1983年頃はまだまだ一般人にはなじみの薄い地域でした。

まだ、インターネットなどない時代です。日本国内で4ビットマイコンのお客さんを回っていた私には、シリコンバレーの情報は殆ど入ってきませんでした。しかし、アメリカ担当となり、半導体事業の米国拠点をサンノゼに置くと決まってからは、何かと情報が入ってくるようになりました。

その1.サンノゼはSan Joseと書く。Sanはスペイン語で聖なるという意味。San Franciscoなども同じ。そもそもカリフォルニアはメキシコの領土であったため、スペイン語由来の名称が多い。

その2.スタンフォード大学出身のエンジニアなどが中心となって、ヒューレットパッカードなど先端技術の企業が数多く設立された。フェアチャイルドやインテルなどの半導体メーカーも多く生まれた。

その3.シリコンバレーという名前は、シリコンを原材料として使う半導体産業が集まった地域である事に由来する。バレーは谷であるが、谷と言うには非常に広大なエリアである。

 

上諏訪時計舎半導体事業部の米国法人はSS-Systems Inc.と命名され、San Jose市に設立されました。その設立メンバーの一人として同期の島工作君は赴任していきました。“アメリカ赴任なんてスゲーカッコいいじゃん” と思われていた時代です。1983年の事です。

私とトム君がアメリカ担当なので、日本からSS-Systemsの島工作君をサポートします。その頃にはファックスが一般的に利用され始めていたので、日々のやりとりはファックスと国際電話です。

同期のメンバーはまだ誰も結婚しておらず、島工作君も独身で赴任です。見知らぬ土地に一人で寂しくないだろうかと、気遣ってはみましたが、1万キロも離れたところの事、私に出来そうな事は多くありません。一番イケメンで頭脳明晰で頼りがいのあった島工作君は私の大のお気に入りだったので、離れてしまうととても淋しく感じて、気分は恋心?とか思ってしまうのでした。だって、一番スペック高かったんですもの。・・・って、私、何か間違ってる(笑)?

ま、いいでしょう。電話で話せるのはカリフォルニアが夜になる前なので、日本の午前中です。

「Hello, hello. Kosaku Shima, please. 」

「Yes, Kosaku speaking」

「Oh, is it you, Kosaku ?」

「Yeah, it’s me, How are you doing, Maiko ?」

「I’m fine, thank you. And you ?」

「I’m fine, thank you. And you ?」

「I’m fine, thank you. And you ?」

「I’m fine, thank you. And you ?」

「ぷっ!」

「ははは、吹いたね、舞衣子」

「はい、工作君、今日のオウム返しごっこは私の負けですわよ(笑)」

「たまには勝つね、僕も(笑)」

「ま、いっけど、昨日出した4K SRAMの価格だけどさあ、セールスの方、何か言ってきた?」

「うん、もっと安くしろって。でも、彼らはいつでもそう言うんだよ。とりあえず、気にしなくていいよ」

「分かりました。それで様子見ましょう」

「ああ」

「ところで、ちゃんと食べてる?ビールだけじゃ栄養になんないからね、工作君」

「分かってるって。今日もちゃんと飲みに行くよ(笑)」

「だから、ビールだけじゃダメって言ってるじゃん」

「大丈夫、日本食屋さんでビールだから」

工作君の赴任しているサンノゼには日系人が多く、Japan Townと呼ばれるエリアもあって、日本食レストランも多いという事でした。

「何、食べんの?」

「揚げ出し豆腐とほうれん草のおひたしと、サバ塩かな、今日は」

「そっか。日本食屋さんがあって良かったね」

「ああ。じゃ忙しいから切るぞ」

「え、ちょっと待ってよ。一人で淋しくない?」

「そんな事思ってる暇ないよ。今日だって、これからP/O切らなきゃ」

P/Oというのは、Purchase Orderの略で注文書の事です。

「そっか。でも、P/Oは別の人に任せれば?」

「それが、そうもいかないんだよ。ローカルは皆帰っちゃったし」

「ふうん、大変だね」

「ああ」

「じゃ、解放してあげる、私の工作君」

「ありがと、舞衣子。でも、君の工作君じゃないけどな」

「冷たいなあ、工作は」

「いや、そういうんじゃなくて・・・なんていうのかなあ、舞衣子に負担はかけられないよ」

「ふうん・・・工作君って、優しさがあだになっちゃうタイプだよね」

「・・・」

「私にはちょっとつらいよ・・・」

「あのね、それはね、また今度という事で・・・。仕事の電話だから今日はおしまい」

「・・・」

「じゃな」

「わかった・・・。じゃね」

その頃の私の気持ちは、ま、以上のような感じでした。1万キロも離れたアメリカにいる仕事のカウンターパートは、物理的に遠い存在。友人以上にはなれないのかなあ、と思ってしまう日々が続いていました。だって、島工作君は同期の一番イケメンで、とてもステキな人でしたから。

私だって結構可愛いのに、工作ったらぁ・・・。

もうプンプン! です。

落ち込んではいられません。

それではまた、次回の舞衣子をお楽しみに。うふ。

 

 

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