<これまでのあらすじ>上諏訪時計舎あらためサイコーエジソン株式会社7年目のIC営業部海外営業課の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを海外に売っているんですよ。時代はバブルへGo ! ってな感じなので、時にはボディコン姿で踊ったりもしてたんです(うふ)。
第20話 日本とアメリカの人事制度
私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですが技術製品(半導体)を販売するIC営業部の4ビットAI内蔵営業レディです。私は同期の富夢まりお(トムマリオ)君とともにアメリカ市場を担当しています。なお、トム君は名前の割に純ジャパです(笑)。
サイコーエジソン株式会社は地方企業ですが、業績的にはかなり良くて、一部上場企業並みの規模になっていました。時代はバブルですし、半導体産業は伸び盛りだったので、業容はどんどん大きくなっていきます。これに伴って、社内体制も頻繁に変化しました。
IC営業部も最初は半導体事業部の一画に事務所がありましたが、1984年頃からは東京にオフィスを構えて営業活動を強化しました。海外営業課だけは相変わらず事業部の一画にとどまっていましたが、1989年頃には東京のオフィスへ移転し、営業機能は全て東京に集結する事になります。
この小説はまだ1986年ですが、何とすでに第20話となりました。連続大河小説になるかも、と言いながら始まりましたが、もう20回なのだと思うと、なかなかの大河ぶりであるなあ、と我ながら感心します。そして、まだ1986年。まだまだ先は長そうだなあ、どうなるのかなあ日本の半導体産業の未来は、などと思い巡らせる訳です。
「ねえ、トム君、今年でもう私たちも7年目でしょ。という事はかなりヤバいよ」
私は同期の富夢まりお君に話しかけました。
「何がヤバいんだよ、急に」
「主任試験だよ」
「お、おお、主任試験な。7年目だからな」
「やだよね、また試験だなんて」
「舞衣子は試験得意だろ?」
「まあ、そんなに苦手じゃないけど、何かねえ」
「何だよ」
「皆で並んで試験って入試みたいでしょ」
「ま、仕方ないよ。そういう制度なんだから」
「そう? 制度だから仕方ないの?」
「ああ、ローマに入ってはローマ人に従えだな」
「でも、日本じゃん」
「日本なら余計そうだな」
「日本の会社の中では日本式ルール通りにやれって事?」
「ま、そういう事だろ」
「昨日、島工作君と電話で話してたらさあ、アメリカだと一律の試験はあんまりないみたいだよ」
「試験がなければどうやって昇進を決めるんだ?」
「そもそもの人事制度が違うらしいの。企業への入社だって全員4月に入るなんて事にはなってないみたいだし、会社に入る時にはどんな仕事をするかJob Descriptionで決まってて、営業部とか人事部とか設計部とか配属先も決まってるみたいでさあ」
「そうなんだ」
「昇進だって、一律の試験じゃなくて、一人一人の仕事ぶりを評価する事で決めるらしいよ」
「ふうん、工作もそうなのか?」
島工作君も我々の同期ですが、アメリカの現地法人へ赴任しています。
「彼は日本人赴任者だから、私たちと同じ日本の人事制度が適用されるみたい」
「そっか。あいつなら仕事ぶりはガンガン評価されるだろうけどな」
「そうだよね。毎日いっぱい仕事してるし、成果も上がってるしね」
「そうだな」
「ローカルのスタッフと同じようにそれをそのまま評価してあげればいいと思うんだけど、結局工作君も主任試験受けなきゃいけないんだって」
「そうか、俺たちと一緒か」
「でね、トム君」
「ん?」
「私、試験受けるの辞退するのもありかな、なんて思ってるんだけど」
「え、辞退する?」
「うん」
「おいおい、ちょっと待てよ舞衣子。いったん冷静になれ」
「冷静だよ」
「だけど、試験受けないとそこで止まっちゃうぞ」
「まあ、そうなんだけど・・・」
「舞衣子がもっと頑張りたいって考えている仕事も思い通りにはできなくなっちゃうかも知れないぞ」
「うん・・・」
「じゃあ、何のために辞退するか25字以内で述べよ」
「25字かあ」
「おっと、そこでもう5文字使ったから残り20字な」
「え、何言っちゃってんの」
「はい、残り10文字」
「やめてよ、そうやって遊ぶの」
「はい、残念でした25文字使っちゃいましたあ」
「バカ・・・」
私は、トム君のジョークで0文字になってしまいましたが、主任試験など一律のやり方を全員に当てはめようとする日本の人事制度の疑問についてトム君と話してみたかったのでした。
「ねえ、トム君、涼宮さんと結婚してから私に対して態度変えてる?」
「え、何だよ、急に」
「だって・・・」
「態度は同じだよ多分・・・」
「ふうん、そうなんだ」
「ハルカさんの話もそうやって茶化すの?」
「いや、舞衣子の話は茶化してないよ、全然」
「涼宮ハルカさんの事を聞いてるんです」
「おい、怖いぞ、舞衣子」
「私は怖くありません(怒)」
「だから、怖いって・・・」
トム君は昨年、結婚してしまいました。まあまあイケメンだし、面白いし、ちょっと気になっていたのに・・・。私にとって彼は同期で同じ課で同じアメリカ担当で、少なくとも仕事や会社の事に関しては、私の一番の理解者だと思っているのに・・・です。
私と一緒にならなかった事は許すとしても(百歩譲って!)、私の話をちゃんと聞いてくれないのは困っちゃうのです。なので、本日の人事制度に関する話についてもちゃんと意見交換したかったのです。
ところが、大きな雷鳴が聞こえたと思ったら、突然、停電が起こってしまいました。
「あ、停電だよ」
「ええっ!」
まさかのトラブル発生!
何てことでしょう。
この続きはまた次回。