L.W.R.(52) 論理設計とスイッチング理論、室賀/笹尾訳、1981、共立出版

Joseph Halfmoon

今回は前回より約10年遡り、『論理設計とスイッチング理論』です。著者は当時の日本のコンピュータ業界(および半導体業界)で知らぬ人のいない第一人者であった室賀三郎 先生です。ただし、御本の来歴はちと変則。室賀先生が自ら英語で著した教科書をご本人と笹尾先生が翻訳したという体裁。元はbit誌の臨時増刊であったらしいデス。

※『Literature Watch Returns (L.W.R.)』の投稿順 index はこちら

お惚け老人からすると、一世代上の「上司」以上の方々には室賀三郎のお名前は鳴り響き、崇拝している人も多かったんじゃないかと思います。日本におけるコンピュータ(今でいうメインフレームへの流れだな)の黎明期、そこを主導された大先達であります。長らく米国イリノイ大教授としてご活躍されていたようですが、約15年くらい前にお亡くなりになってます。お惚け老人からすると五月蠅い上司の上に君臨する偉大な人物(勿論あったことないケド)ということで、なにかあるごとに雷名をうかがってました。

この本、元々はイリノイ大での教科書として1979年に発行された本みたいです。当然、元は英語。そして米国流の教科書にありがちな演習問題満載の1冊です。日本語版で350ページもあるこの分量を1期の授業で行うなんざ、米国の大学の「詰め込み教育」を体現しておりますな。

この教科書の意義について「日本語版への序」にて自ら語られています。その冒頭部分を一か所引用させていただきます。

計算機技術発展の初期には、スイッチング理論は非常に重要な知識であったが、論理回路設計がICパッケージをつなぎあわせるだけとなってしまった頃からあまり重要視されなくなってしまい、(以下略)

ここで「つなぎあわせるだけ」というのは、TTLの74LSチョメチョメなどに代表される論理LSIが普及したことを指しているのだと思います。つまり標準論理IC以前には皆さん自ら「スイッチング」回路を設計してコンピュータを作っていたけれど、ICが普及したら中身を気にせんようになった、と。そういうことでよかですか?

しかし、「チップ自体を設計することが論理回路設計の中心課題となるにつれ、スイッチング理論が再び重要な知識」となったと説かれています。確かに。当時、このご本を読んでちゃんと演習問題を解いていたら、どんなに立派なエンジニアになれたでしょうか(やりゃせんかったよ。)まあ、今となっては論理合成の「コンパイラ」様がよきようにはからってくれるので、なんだかテキトーにプログラムを書いていけば、いくらでも巨大な回路が出来上がるっと。

当時、論理設計の基礎をすえる、偉大なご本であっただけに日本でも読みたい人が多かったらしく、共立出版さんが bit誌(日本のコンピュータ業界をささえた雑誌の一つじゃないかと思います)の増刊として翻訳出版されたみたい。その際、執筆された室賀三郎先生に加えて笹尾勤先生が翻訳されたと。室賀先生よりは世代の若い笹尾勤先生がお働きになった分量が多いのかも知れませぬが今となっては分かりませぬ。版を重ねている(手元の本は第2版)ことを見ると当時反響が大きかったのだと思います。みんな真面目に勉強していたのね。

さて、もう一人の訳者である笹尾勤先生(明治大学理工学部客員研究員、九州工業大学名誉教授)には、1980年代にお惚け老人、1度だけお会いしたことがあります。以下の別シリーズの過去回に書いてますが、笹尾勤著、「PLAの作り方・使い方」(昭和61年<1986年>5月10日初版、日刊工業新聞社)を熟読させていただいたことがあったからです。当時、あまり類例を見ない巨大なPLAを設計しなければならなかったので、笹尾先生の御本にすがったのでした。そのとき設計した巨大なPLAは目論見通り動作してましたぜ。いつの話だ。そういえば、たしか先生のサインを御本にいただいたような。。。

帰らざるMOS回路(15) なんちゃってPLA(もどき)

ううむ、若いころにちゃんと勉強しておれば。今更だけれど。

L.W.R.(51) The SPARC Technical Papers、1991、SUN へ戻る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です