<これまでのあらすじ>
サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化で私の見事な肉体は更に水平方向へ成長しつつも、毎日忙しくやっています。Appleの青井倫吾郎さんと観た皆既日食に感激!で、お仕事はというと・・・?
第59話 CPU作っちゃう?
私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の11年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)は水平方向へ更に見事な成長をとげつつありましたが、アップル・コンピュータの青井倫吾郎さんとメキシコで皆既日食を経験してからというもの、仕事も食欲もバッチリです、うふっ。
「ねえ、トム君、うちってさあ、CPUとか作んないの?」
私は同期の富夢マリオ君に聞きました。これは、かなり大胆な質問です。何故かですか?それは、サイコーエジソン株式会社の実力的にはまだまだCPUなどという代物に手が出せる状況にはなかったからです。しかし、意外や意外、トム君の返事はYesでした。
「作るよ」
「え、作るの?」
「ああ、何事もその気になって諦めなければ何とかなるさ」
「そんな簡単なもんじゃないでしょ」
「まあ、そりゃそうなんだけどね。でも、ここだけの話、うちもやってやれない事はなさそうなんだよ」
「ホント? インテル様に対抗して、サイコーエジソン入ってる?とか言えるの?」
「ああ、言えるようになるかも知れない」
「それってスゴくない?」
「うん、そうなればスゴいよな」
「でも、うちの微細化技術とかで追いつけるの?」
「いや、そこでは勝てないだろうから、別の手を考えているんだよ。先週出張に来てた設計部長にこっそり聞いたんだ」
「へえ、やるじゃん、トム君」
「まあな」
「で、別の手ってどの手なの? 私にも教えてよ」
「まあ、あの手らしいんだけどな」
「あの手ね。はい、分かりました。ありがとう、トム君」
「いや、まだあの手としか言ってないぞ」
「だって、あの手なんでしょ」
「や、だから、その・・・」
「言いたいなら聞いてあげてもいいわよ」
「え、聞いてきたのは舞衣子の方だろ」
「だから、言いなさいよ、早く」
「分かった.言うよ。あのな」
「何なの?」
「うん。まあ、うちのプロセス能力じゃ、インテル様などに真っ向勝負はできない」
「分かってるわよ、そんな事」
「うん。だからな、真っ向勝負はしないんだ」
「それ、分かってる」
「うん、でだな、うちの強みであるところの、省電力でいくんだよ」
「どういう事?」
「低電圧、低消費電力で電池駆動機器に使えるCPUを作るってわけ」
「なるほど」
「差別化できるだろ?」
「インテル様はAC電源だもんね」
「そうだ」
「でも、電池駆動機器だったら、そんなに大した事できないから、マイコンで間に合っちゃうんじゃないの? 」
「それが、そうでもない時代が来ると思うのだよ。CPUが必要な機器も増えてくると思うよ」
「電池駆動のパソコンって事?」
「うん、まあ、そんなところかな」
「でも、省電力って事は、頭の回転も速くないって事でしょ?」
「そうなんだよ」
「大木金太郎君みたいに脳みそが高速回転すると電池駆動じゃ持たないよね」
「ああ、その通り。そこでだ、我がサイコーエジソン株式会社のCPUはゆっくり回転する事にしたのだよ、ははは」
「じゃ、結局、大した事できないんじゃん」
「うん、まあ、その、そこはな、舞衣子の言うとおりだよ」
「え、結局それで、売れるの?」
「分かんない」
「分かんないじゃダメじゃない、トム君?」
「まだ、作ってないし、俺、設計部長じゃないし」
「何よ、それ。逃げてちゃダメでしょ。ターゲットアプリは?」
「分かんない」
「分かんないじゃダメじゃない、トム君?」
「すみません」
「反省しなさいね」
「はい、すみませんでした、舞衣子さま~」
という事で、とりあえず、トム君をひざまずかせてから、文系の私も一応考えてみました。
- インテル様は消費電力はいったん置いておいて、高速、高性能化をめざしていて、PCという明確なアプリに向けてCPUを開発
- 我がサイコーエジソン株式会社は、よく分かんないけど、高速化は無理なので、低速でもいいから低消費電力のCPU開発をもくろんでいるが、ターゲットアプリはイマイチ分かっていない
さて、どちらが賢いでしょう?
まあ、今のところ、事業として考えた場合、インテル様が圧倒的に素晴らしいし、将来性も明確。賢いのはインテル様だ。とお考えの方、その通りです(笑)。
サイコーエジソン株式会社の考えは、ま、そういう考えもあるよね、ってだけで、将来性があるか、全く分からない、というのが、実態でした。
その頃のPCはデスクトップが一般的で、世間に出始めたラップトップ(日本ではノートPCと言いますが、アメリカでは膝に載せるPCとしてLaptopと呼ばれてました)は大きいし重いしで、まだまだあまり市民権を得ていない状況でした。小型軽量化が進んでノートPCとして一般的になるのは、もう少し先の事です。ですから、インテル様が高速高性能のCPU開発を追求するのは当たり前の事でしたし、勿論、一方で低消費電力CPUも同時に開発していて、ラップトップやノートPC に使われるようになっていきました。
そう言えば、ノートPCは日本メーカーもチャレンジしていました。1989年には何と、3社が製品化していたんです。それは、
東芝 Dynabook J-3100SS
NEC PC-9801N
そしてもう一つは何と
サイコーエジソン PC-286NOTE
我社ってノートPCまで作ってたんですね。80286です。スゴいですね。でも、売れたのは80C86(16Bits、5MHz) を使ったDynabookの方だったようです。
半導体に関して言いますと、サイコーエジソン株式会社が開発しようと考えていたCPUはインテル様よりも更に低消費電力で、でも低速で、ノートPC等よりももっと簡易なバッテリー駆動機器しか考えられませんでしたから、それはそれでターゲットの棲み分けはできていましたが、じゃ、何に使うの? といった時に、明確な答えがなく、マーケティング的には全然ダメダメのプロダクトアウトになってしまいそうな状況だったのでした。
しかし、その頃は何事もやってみなければ分からないという風潮でもあったので、まずはとりかかってみよう的なムードになっていたのでした。
バブルが弾けたとはいえ、半導体業界はイケイケだったので、サイコーエジソン株式会社はアメリカに設計開発拠点を立ち上げる事にしました。CPUを作るなら日本で開発するよりも、世界中の優秀なエンジニアが集まっているシリコンバレーだ!という事で、SS-Systemsの中にR&D(Research & Development)部門を立ち上げ、そこで設計開発を進める事になったのです。
スゴいぞサイコーエジソン!
でも、ホントに大丈夫?
この続きはまた次回。