連載小説 第61回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化で私の見事な肉体は更に水平方向へ成長しつつも、毎日忙しくやっています。Appleの青井倫吾郎さんとは、すっかり打ち解けた“いい仲”になってきました。

 

 

第61話 “あれ” について

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の11年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)は水平方向へ更に見事な成長をとげつつありましたが、アップル・コンピュータの青井倫吾郎さんとメキシコで皆既日食を経験してからというもの、仕事も食欲もバッチリです。そして、更なる進展が?

 

 

前回、お話したのは、私が倫吾郎さんとすっかり仲良くなってきているので、今度日本へ出張する時に母親へ何と報告しようか、という事でした。この流れでいくと、次のような事を告げなければならないのではないかと思う訳です。

  • 今年の4月くらいから倫吾郎さんとおつき合いをしている
  • 7月には二人でメキシコへ旅をし、皆既日食を観てきた。ついでに巨大な魚も釣ってきた。
  • 今後の方向性についてはTBDである。TBDとはTo Be Determined である。

ま、こんなところでしょうか。

倫吾郎さんは、とても優秀な方ですが、一部オマヌケなところもあるので、問題なのは、上記3番の重要課題について、ほぼ何も考えていないように思われるという事です。私が 「今度、日本へ出張に行った時に、お母さんから“あれ”の事を聞かれたらどうしよう?」 と質問を投げかけたのですが、“あれ”の事をまるで理解していないようなのです。“あれ”と言ったら“あれ”なんですけどね。

どうしよう。自分から“あれ”の事を切り出すのも、何だかなあ、という感じなので、二人で色々お話している時も、その“あれ”の事は言ってないのですが・・・。そうです、“あれ”です。例えば漢字2文字で表現すると、次のような2文字が浮かび上がってきます。

「将来」とか「人生」とか「方針」とか「家庭」とかでしょうか。

一体全体、倫吾郎さんは私との将来について、何か考えていらっしゃるのか、それとも、その場限りの事しか考えていないのか。大いに疑問ではあるのです。

え、そもそもあなたはどう考えているか、ですか?

そ、そうですねえ・・・(汗)。

ありていに言いますと、

「倫吾郎さんと二人で子どもを育てたい!

でしょうか。

となると、次なる2文字は、「婚約」とか「結婚」とかですかあ(うふっ)。となると、「新婚」とか「旅行」とかですかあ(うふっ)。となると~、次は「妊娠」とか「出産」とか(あはは)。そして~「子供」とか「名前」とか「国籍」とかでしょうか。うん、これは夢が広がりますねえ。え、「仕事」? それは、何とかなるでしょう。きっと。多分(笑)。

で、私は母親から十中八九聞かれるであろう質問に対して、想定問答集を考えてみました。

 

Q:で、結婚は約束したの?

A:そこなんだよね、お母さん。倫ちゃん、その辺の“あれ”的な事はほぼ口にしないんだよね。一緒になる気あるのかなあ?

Q:何言ってるの、舞衣子。この年でつき合ってるって事は、そのいわゆる「リップの関係」にはとっくに到達しちゃってるんでしょ?

A:ノーコメントです。

Q:何がノーコメントよ。ちゃんとしなさいよ。

A:してます。

Q:してるって、何をしてるっていうの?

A:だから、ちゃんとしてますって。

Q:してるのね?

A:してます。

 

う~ん。この想定質問集は、あまり適切ではないかも知れないなあ・・・。ちょっと想定し直しますね。

 

Q:この年でつき合ってるって事は、そのいわゆる「リップの関係」にはとっくに到達しちゃってるんでしょ?

A:してます。

 

うん、これなら早く次へ進めそうです。

 

Q:でね、舞衣子。

A:はい。

Q:あなたも、もう33歳よ。さっさと、婚約、結婚、妊娠、出産、子供、名前、国籍の順にテキパキ進めないと、どんどん遅れを取っちゃうわよ。お母さんの頃だったら、33歳なんて、「子供が二人です。下の子が来年小学校で・・・」 なんてのが当たり前だったんだから。

A:はい、そうしたいと思っています。

Q:だったら、倫吾郎さんと話を進めなさいよ。

A:そこんなだよねえ、お母さん。倫ちゃん、ちっともそういう話をしてくれないんだなあ、これが。私ってさあ、こんなに可愛いでしょ。アメリカへ行ってから少々お肉の増減はあるけど、その分、ボディコンが魅力的でしょ(うふっ)。何が不満なんだろうね?何もないよね、きっと(笑)。だったら、もう、言って欲しいんだよね。

Q:何て?

A:I wanna be with you forever.とかさあ。Be my sweetheart till the end of my life. とかさあ。I want to raise our kids. とかさあ。あるでしょ、そういうフレーズ。

Q:ステキね。

A:ステキでしょ、お母さん。

Q:じゃ、結婚式はどこで挙げるの?

A:だから、まだ、そこに行き着いてないんだって。

Q:困ったわねえ。じゃ、舞衣子がプロポーズしちゃえば?

A:え、お母さん、それってありなの? いくら私が、貫禄ついてきたからって、女性の私から言っちゃっていいの?

Q:何言ってんの、舞衣子。普段、「男性だとか女性だとか関係ない」 って言ってるの、あなたじゃないの。

A:まあ、そうなんだけど。でも、それは、主に仕事とかの話だよ。ポロポーズってのは、なんか男性からって思っちゃってたから。

Q:それは可笑しな話ね。私なんか35年も前だったけど、自分から 「結婚しよっ」 ってお父さんに言ったわよ。

A:え、うそ。そんな話、初めて聞いた。てっきり、お父さんがひざまづいて「〇〇さん、結婚してください」 みたいな事をしたのかと思ってた。すごいね、お母さん。

Q:お母さんねえ、あんまり世間の目とか気にしないで生きてきちゃったからね。自由だったのよ。

A:でも、戦後まもなくの話でしょ。

Q:何、言ってんの。戦後なんてとっくに終わってたわよ。1955年よ、結婚したの。25歳だったわね。

A:そっかあ。お母さんもお父さんも生まれは戦前でも、結婚の頃はもう、とっくに戦後は終わってたんだね。

Q:そうよ、舞衣子が生まれたのが1957年でしょ。詩織が生まれたのが1960年だからね。

A:それで、今が1991年という事は、私そろそろ34って事じゃん。うわ、適齢期、とっくに過ぎてる?

Q:そうよ、今更みたいに言わなくたって、そんな事、みんな分かってるでしょ。

A:はい、そうでした。

Q:だから、舞衣子、いいわね。

A:いいって何が?

Q:決まってるでしょ。いいわね。

A:はい・・・。

 

これって、想定問答集でしたよね(汗)。なんだか、ここまで書いてしまうと、ホントに私がお母さんと話した事みたいに聞こえちゃうかも知れませんね。ま、でも、実際そんなとこでした、暫くあとに、母親と話した内容は・・・。

一体、どうなっちゃうの、私の人生???

 

 

第62話につづく

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