連載小説 第101回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任していましたが、夫の倫ちゃんのドイツ転職を機に、私もミュンヘンにある現法へ異動しました。ヨーロッパでは携帯電話の普及というビジネスの波が起こっていました。我々の半導体製品もその波に乗って大忙しです。そこへ、一度は別々の職場になったと思ったトム君が緊急赴任して来ちゃいました。あら、また一緒ですねえ。うふっ。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第101話 初詣はどこで?

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の16年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任し、今度はヨーロッパの現法へ異動しました。ドイツのミュンヘンで倫ちゃんとの新しい生活がスタートです。新婚さんみたい。うふっ。そこへ、同期のトム君も赴任してきちゃいましたよ。

 

帰省中の日本で1996年を迎えました。

「さてと、初詣に行こうか、舞衣子」

と倫ちゃんが言いました。

「そうだね、行こう行こう。日本の元旦は久し振りだし、どこに初詣しようかなあ。倫ちゃんはどこがいい?」

「そうだなあ。じゃ、次の選択肢の中から選んでください」

「分かりましたよ。どうぞ」

「A 明治神宮」

「そう来ると思ってました。次は?」

「B 浅草寺」

「楽しそう。うふ」

「C 近くの小さな神社」

「それもありだねえ。すいてるしねえ。あとは?」

「D 東京タワー」

「え、東京タワーに初詣するところあるの?」

「いや、分かんないけど、天気がいいから富士山を拝んだらいいなと思って」

「おお、倫ちゃん、それ天才かも。いいじゃん、いいじゃん、東京タワーにしよ!」

「やっぱ天才?ボクって」

「うん。最高のアイデアだよ」

という訳で、この年の初詣は東京タワーという事になりました。どうせなら、333mの東京タワーより、634mのスカイツリーと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、時代は1996年。スカイツリーが竣工するのは2012年の事です。まだ、影も形もありませんでしたね。

元旦の東京は比較的すいています。恒例に従ってデパートをはじめ、お店は閉店しているので、街も静かです。混雑しているであろう懐かしの明治神宮はパスして、港区は芝公園にある東京タワーへ向かいます。

「ねえ、倫ちゃん、何線でいく?」

「うん、それなら更に天才のアイデアがうかんでしまったよ。舞衣子も気に入ってくれると思うんだけど」

「え、また天才なの?」

「ああ」

「聞かせて早く」

「はい、それはですねえ」

「何?」

となりのトトロの唄の題名は?」

「歩こう、歩こうでしょ?」

「それ、題名じゃないけどね。ま、そういう事」

「え、歩くの?」

「うん」

「そっか、いいね」

「ちょっと時間はかかるかもだよ、舞衣子」

「いいよ、大丈夫。スニーカーだし」

「流石、賢いなあ」

「私も天才の妻だからね(笑)」

東京タワーまでは5~6kmだと思います。

元旦の道はすいていて歩きやすく、ゆっくりあるいても1時間半あれば着くはずです。

暖かい小春日和の日差しの中、普段は車でしか通らない大きな道路を二人で散歩していきました。あ、そうそう、トトロの曲の名前は「さんぽ」でした(笑)。

「ちょうどいい運動になって良かったわ。たまにはこういうデートもいいね、倫ちゃん」

「ああ、車が少ないのもいいなあ」

「ホント」

「大体、日本は車が多すぎるよな」

「うん、騒音と排気ガス」

「そろそろ、パラダイムシフトしなくちゃいけないかもなあ」

「え、何それ?」

「経済や発展ばかりじゃなくてさ、環境に優しくないといけないなあと思ったわけ」

「あ、それはそうだね。やっぱ天才だね、倫ちゃん(笑)」

「・・・」

あまり、多くは語りませんでしたが、倫ちゃんは、環境への配慮を気にしていました。私も、アメリカの消費文化とドイツの堅実さを比較すると、アメリカには多くの無駄があり、ドイツのように色々な配慮が必要なのではないかと感じるようになっていたところでした。

「私ね、最近感じるんだけど、アメリカとドイツって真逆なところがあるでしょ?」

「いい加減さときっちりさ?」

「そうそう、大体そんな事。そういうのがね、環境への配慮みたいなところに出てくるんだと思うの」

「例えば?」

「ゴミのリサイクルとかさあ、ドイツは徹底してるでしょ?」

「ああ」

「アメリカは何でもかんでも一緒くたにゴミの山へ入れちゃうんだからさ、リサイクルなんて考えてないよね」

「ああ」

「オフィスの電気だって、つけっぱなしでしょ。夜みんな帰った後も」

「無駄だよな」

「私、最初はドイツってちょっと窮屈かなって思ったけど、最近では、なるほどなあって肯ける事が増えてきた気がするの」

「ボクもそれは同じなんだ」

ビールジョッキに0.3リッターとか線を引いて書いてあるのも悪くない気がする(笑)」

「そうだな。あれはあれで慣れてくると、ない方が違和感出てくるよな」

ドイツに移住してからまだ半年も経っていないのに、随分ドイツびいきのようになっている二人でした。あれほど、食べ物がしょっぱくてイヤだみたいな事を言っていたくせに、住めば都なんでしょうか。

そんな話をしながらそぞろ歩きをしているうちに東京タワーを見上げる角度がどんどん大きくなってきました。六本木の交差点を南東の方向へ下り、飯倉の交差点を過ぎると、首が痛いくらい上を向かないと東京タワーの頂点は見えません。ほどなくして、私たちは東京タワーの入り口に立っていました。

展望台からの光景は目を見張るものでした。

そもそも、冬の空は湿度が低いため遠くまでとても綺麗に見えます。くっきりハッキリ見えている富士山をご神体に、二礼二拍手一礼し、初詣をしたという訳です。私たちがそんな風にしているのを見て、別のカップルさんたちも富士山に二礼二拍手一礼していました(笑)。

暫くして、お土産屋さんなどを覗いてから窓辺に戻ると、あたり一面に夕焼けが広がり、スゴく綺麗な空に変わっていました。皆さんも、東京の空がスゴく綺麗な夕焼けになるのを、午後4時50分のビルの窓から見た事があるのではないでしょうか。

「電車じゃなくて、歩いてきたからちょうどこんな時間に巡り会えたよ、倫ちゃん」

「こいつは春から縁起がいいぜ、だな、舞衣子」

「うん」

やっぱり、倫ちゃんは天才です(笑)。

 

 

第102話につづく

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