連載小説 第109回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。米国現地法人のSS-Systemsを経て、今はミュンヘンにあるヨーロッパ現地法人のEdison Europe Electronics GmbHに勤務しています。世界中で携帯電話の普及というビジネスの波が起こっていました。我々の半導体製品もその波に乗って大忙しです。そこへ液晶表示体と水晶製品のビジネスも統合され、もっと大忙しに・・・。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第109話 トム君の新婚旅行

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の17年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売しています。アメリカの現地法人SS-Systemsを経て、ヨーロッパの現法へ異動しました。ドイツのミュンヘンで倫ちゃんとの新しい生活がスタートです。新婚さんみたい。結婚7年目ですけど、うふっ。そこへ、同期のトム君も赴任してきて、Edison Europe Electronics GmbHとしてスタート。トム君は海ちゃんとご結婚となり、ますます張り切っているようです。

「トム君、新婚旅行は楽しかった?」

「おお、舞衣子。今年も宜しくな」

「うん、こちらこそ。でも、スペインなんてステキだよね。海ちゃんも喜んだでしょう?」

「うん、面白かったよ」

年が明けて1997年。年末年始の休暇でトム君は新婚ほやほやの海ちゃんとスペイン旅行に行って来たそうです。

「ねえ、スペインってさあ、どこへ行って来たの?」

「ミュンヘンからマラガへ飛んで、トレモリーノスに泊まって、それからアルハンブラ宮殿のあるグラナダ往復して、コルドバ経由でマドリード。トレドにも行ったよ。すごく面白いところだね」

「へえ。いいなあ。私も倫ちゃんと一緒に行こっと」

「ああ、ぜひ一度行ってみるといいよ」

「お料理とか美味しいんでしょ?」

「ああ、スペイン料理は最高だよ」

「何が美味しかったの?」

「トレモリーノスの近くで食べた人生最高に旨いエビと、マドリードで食べた人生最高に旨いイカ料理だね」

「え、どんな料理なの?」

「エビは、ただ鉄板で焼くだけの塩焼きなんだけど、レモンをかけて食べるとさあ、とんでもなく美味しいんだよ。プリプリでさあ、海辺の街で素材が良いからかなあ。立ち飲み鉄板焼き的な店なんだけど、とにかく美味しくてビールもいっぱい飲んじゃったよ」

「なんか、生唾が出てきちゃった」

「それと、イカ料理はねえ、イカスミで煮たものだと思うんだけど、やっぱり素材の味が活きていて、これぞ最高のイカ料理って感じだった。海ちゃんも大喜びだったよ」

「良かったわね」

「ああ。それとアルハンブラ宮殿は最高だったなあ。行って良かったよ」

「タレガさんが作曲したギターの“アルハンブラ宮殿の思い出”のでしょ」

「おお、良く知ってるなあ」

「私、あの曲大好きだから」

「いやあ、まさにあの曲のような場所だったよ。それと、アルハンブラ宮殿のスケッチを描いてきたんだけど、結構気に入ってるんだ」

「それはステキね。トム君、絵も上手だもんね」

「写真もいいけど、スケッチをするともっと印象に残るよ」

「マドリードではどこへ行ったの?」

王宮だろ、ゲルニカのあるソフィア王妃芸術センターだろ、ゴヤの絵があるプラド美術館、それとフラメンコを観に行ったよ。街でフラメンコギターも買ったし。面白かったなあ」

「へえ、芸術的だねえ」

「いやあ、最高だったよ」

「海ちゃんは元気?」

「ああ、ミュンヘン大学のドイツ語講座に通ってるよ」

「へえ、すごいじゃん」

「まあ、就労はできないから、学校へ通うのがいいんだろうな」

「そうね」

「最近は、地下鉄やトラムでどこへでも行ってるみたいでさ、マルクトでも買い物してるようだよ」

「スーパーと違ってマルクトだとお店の人と会話しなくちゃいけないもんね」

「まあ、慣れればどうという事もないのかも知れないけど」

「そうだね。でも、ドイツ流の素材ってさあ、日本人に合わないのもあるんだよね。例えば、お肉が分厚いから困るとか」

「そこは、ガンツ ドゥン シュナイデン ビッテって言うんだって力説してたよ(笑)」

「薄切りにして欲しいって事?」

「ああ。そういう生活に必要な言葉はドイツ語学校の日本人の友達から教えてもらうんだってさ」

「そうか」

「日本人の友達もいてくれて良かったよ。それに世界各国からの留学生も多くてさ、中国や韓国、南米、トルコ、東欧などから来ているらしいな」

「へえ」

「時々、クラスの友達ともランチしたりしているんだってさ」

「楽しそうだね」

「今度、その子たちを呼んでうちでパーティをするとか言ってたよ。オレはドイツ語あんまり喋れないから困っちゃうんだけどね」

「英語は使えないの?」

「うん、ドイツ語を勉強しに来ている子たちは殆どが自分の国の言葉以外はドイツ語しかできないようなんだよ。英語圏からはあまり来ないようだし」

「じゃ、せいぜい、今からでもドイツ語覚えて世界の留学生と交流しなさいよ」

「ああ、イッヒ ハイセ トム だけじゃだめだもんな」

「英語のパーティだったら、いくらでもOKだけど、ドイツ語パーティもこなせるようにならないとね、トム君」

「うん、頑張ってみるよ」

新年明けてのトム君との会話はそんな内容でした。

今年は一体どんな年になるのでしょうか?

果たして、1997年は私にとってもトム君にとっても一大イベントが起こる年になったのです。

何が起こるかですか?

それはまた次回以降にお話ししますね。うふっ。

 

 

第110話につづく

第108話に戻る