<これまでのあらすじ>
サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、日本勤務中。電子デバイス業界の勢力図は大きく変化していきました。台湾や韓国などの新興国が台頭してきたからです。我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)、そして日本の産業はどうなっていくのでしょうか。
(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら)
第143話 デジカメとカメラ付携帯
私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の23年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て日本勤務中。家族はラブラブですよ。うふっ。世界はITバブルの真っ盛り。半導体の売上げもサイコー!だったのですが、20世紀と21世紀あたりを境にして状況は変化していきました。
サッカーの日韓ワールドカップで日本中が盛り上がった2002年でしたが、「北朝鮮による日本人拉致問題」という厄介な歴史が明るみに出た年でもありました。
国交のない朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)へ日本人首相として初めて小泉純一郎首相が訪問し、北朝鮮の最高指導者であった金正日が初めて日本人拉致を認め、謝罪したという出来事です。
日本政府が認定した拉致被害者は17人ですが、北朝鮮側は、このうち13人(男性6人、女性7人)についてしか、日本人拉致を認めていません。そのうち5人が日本へ帰国しましたが、残り12人について、北朝鮮側は「8人は死亡、4人はそもそも拉致していない」などと主張している状態のまま、問題解決には向かっていないのです。
北朝鮮という一国家が組織的に平然と拉致を行い、その後、拉致問題が明るみに出てからの調査においては、とぼけたまま、多くの虚偽を並べて、はい、もうおしまい、という姿勢を取り続けているというのですから、何とも言い様のない感情を覚えます。かの国には人権尊重という概念が欠落しているのでしょう。
しかし、振り返って、日本という国も、かつては人権をないがしろにしていた国家だった事を考えると、君たち酷いよ、とだけ言っていられる訳ではないのかも知れません。
歴史は繰り返すという言葉のとおり、日本が行ってきた非道の歴史を北朝鮮が辿っているのでしょうか。因果応報とも思える悲惨な出来事の連鎖はどこかで断ち切らなければなりません。人間は学ぶ生き物ですが、いつの世でも争い事や戦争が起こっています。世界が平和を享受し、人々が自由でいられる世の中であってほしいと切に願うばかりです。
さて、エレクトロニクス分野での進歩についても、触れておきましょう。
この年のヒット商品番付を振り返ってみると、カメラ付携帯電話が上位に入っています。
最初のカメラ付き携帯電話が発売されたのは、2000年です。J-phone(その後のソフトバンク)の「J-SH04」(シャープ製)という機種に、初めてカメラ機能が搭載されました。
最初は携帯にカメラ?と感じた人が多かったのではないかと思います。何故なら、その頃にはデジカメという商品ジャンルが確立されていて、その普及率も非常に高く、私なぞは、携帯にわざわざカメラを付けても画像も良くないし、必要ないのでは?と最初は思ったものです。デジカメは解像度などの技術がかなり進化していて、非常に綺麗な写真が撮れたのに対して、その頃の携帯に搭載できるカメラの解像度はまだまだ低く、それ程綺麗な写真は撮れませんでした。
ご存知かと思いますが、従来のフィルムカメラにとって替わったDSC(Digital Still Camera)、いわゆるデジカメは、世界を一変させた破壊的技術として、マーケティングの教科書に必ず載るような一大発明でした。銀塩式フィルムカメラで大きなシェアを握っていたコダック社が、それまでの成功体験から抜け出せず、デジカメの流れに乗り遅れて瞬く間に倒産に追い込まれたのに対して、富士フィルムなどの同業他社は時代の流れに乗ってフィルム式からデジカメへといち早く舵を切る事で事業を継続できたというケーススタディはあまりにも有名ですね。
クレイトン・クリステンセン先生が 「イノベーションのジレンマ」 という著作で、このコダックの事例を取り上げていて、多くの人々が知るところとなっています。
さて、そのデジカメですが、それさえも「祇園精舎の鐘の声・・・」でして、その後、すっかりスマホのカメラに取って替わられる事となるのです。ここにも半導体技術の進歩が大きく影響しています。スマホのカメラの画像センサーが半導体なんですね。
ま、それやこれやで、2002年のヒット商品となったカメラ付き携帯電話は広く世の中に浸透し、携帯電話の新機種は殆ど全てがカメラ搭載となっていきました。
そして、写真を撮ってメールで送る「写メール」という電子メールサービスが生まれ、「写メ」という新語も生まれました。「写メを撮る」というような言い方もされていました。
その後の社会では「写メ」という言葉を使うのは2000年代に携帯で写真を撮っていた人たちであり、Z世代などの人々は、スマホで撮った写真は殆どメールでは送らないので、「写メ」という言い方はしなくなっています。撮った写真はツイッター(Twitter)やインスタ(Instagram)などのSNS(Social Network Service)に載る世の中になっていますね。
これもまた、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」です。
そして、いずれ、ツイッターやインスタなども過去の遺産になっていくのでしょう。既に、「ツイッター」という言葉は消え、「X」という新たな名称に変わっている今日この頃です。