連載小説 第144回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、日本勤務中。電子デバイス業界の勢力図は大きく変化していきました。台湾や韓国などの新興国が台頭してきたからです。我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)、そして日本の産業はどうなっていくのでしょうか。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第144話 ノーベル賞に貢献?

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の23年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て日本勤務中。家族はラブラブですよ。うふっ。世界はITバブルの真っ盛り。半導体の売上げもサイコー!だったのですが、20世紀と21世紀あたりを境にして状況は変化していきました。

 

前回は2002年のヒット商品として、カメラ付き携帯電話を取り上げました。これはこれでスゴいイノベーションだったのですが、もう一つ面白いヒット商品がありました。「バウリンガル」です。

バイリンガルなら知ってるよ、と仰る方も多いでしょうが、BilingualではなくBow-Lingualなのでした。

玩具メーカーのタカラが売り出した犬とのコミュニケーションツールです。犬はBow Bowってなきますからね。

犬の首輪にワイヤレスマイクを装着し、マイクで捕らえた犬の鳴き声を分析して、翻訳するという何とも面白い商品です。犬語が分かるなんて最高じゃないでしょうか(笑)

犬も楽しいとか悲しいとかで鳴き声が変わるのですから、その翻訳機能さえあれば、犬の感情が分かっちゃうという画期的な商品。しかも、商品名がバウリンガルときては、もう誰でも買いたくなっちゃいますよね。

当初は20万個の販売を目標としていましたが、最終的には国内外で30万個を売り上げて、2002年度のイグノーベル賞平和賞を受賞したのでした。いかにも平和ですよね。

ご存知のとおり、イグノーベル賞というのは、ノーベル賞のパロディーとして、人々を笑わせ考えさせた研究に贈られる賞、という事で、1991年に創設されました。日本人が毎年のように受賞するので、お聞き及びかと思います。2007年以降は、毎年連続で受賞中です。

バウリンガル2002年)の他には、たまごっち1997年)やカラオケ2004年)も受賞しています。

受賞理由が面白いですよね。

たまごっち(経済学賞):数百万人分の労働時間を仮想ペットの飼育に費やさせたことに対して

バウリンガル(平和賞):犬語翻訳機「バウリンガル」の開発によってヒトとイヌに平和と調和をもたらした業績に対して

カラオケ(平和賞):人々が互いに寛容になる新しい手段を提供した業績に対して(歌によって相手に苦痛を与えるためには、自らも相手の歌による苦痛を耐え忍ばなければならない)

こんな面白い賞を獲得できるのですから、日本の産業も捨てたモノではありません。これらの製品は、高度な技術というよりはアイデアが勝負です。

実際、たまごっちは、非常にシンプルな液晶ゲームですから、4ビットで十分です。そうです、我々の4ビットが使われていたのでした。しかも、液晶表示体も、水晶振動子も我社の製品が使われました。一世を風靡した「たまごっち」の基幹部品は全て我々の製品だったという事には胸を張っていいのではないかと今でも思っています。ノーベル賞ではなかったのですが、イグノーベル賞に貢献しちゃったのでした(笑)

カラオケについても少々お話ししておきましょう。

イグノーベル賞を受賞した井上大佑さんは、カラオケの発明者を自称している方ですが、1971年にカラオケ1号機である「エイトジューク」を開発し、それをレンタルする事で、カラオケの事業化に成功したという事です。

その頃のカラオケは8トラックテープを使用し、ジュークボックス的な機器で音を出すというものでした。8トラックテープとかジュークボックスって何?とおっしゃる若い方々も多いかと思いますが、ま、そういう媒体と機械があったという事でよろしいでしょう。その後、カセットテープ、レーザーディスク、CDDVDなどを経て、ブロードバンド環境の発達後はインターネットを使ったカラオケが殆どです。

当初、カラオケはスナックなどに設置されていて、知らない人たちの前で歌うという事が当たり前でした。その分、知らない人たちの唄を聞かなければいけないという、わたし的には結構、居心地の悪い環境下でカラオケが世の中に浸透していったのですが、カラオケボックスという画期的な形態が生まれてからは、仲間同士だけでカラオケを楽しむという文化が形成され、今に至っています。

この技術の変遷を辿ってみると、私たちが生きてきた時代の中で、本当にエレクトロニクス技術が年々進歩してきたと感じます。その中では、常に新たな技術に我々の電子デバイスを利用して頂き、業界の発展とともに私たちも一緒に歩んできたように思います。

あんなに身近だったカラオケですが、今では、時々しか行かなくなりました。最近では、たまに、一人カラオケなんかにも行ったりしますけどね。

かつては二次会はカラオケというのが定番で、ホント、頻繁に利用していました。私の十八番ですか? それは、ヒミツです。うふふ。今度、カラオケへご一緒する機会がありましたら、その時は振り付けつきでご披露しちゃいますね。大得意でしたから。

因みに、同期のトム君は、いまだに「仮面舞踏会」を歌っているようです(笑)

 

 

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