前回から昭和の「コンピュータアーキテクチャ」の御本を巡ってます。今回は10年以上下って昭和63年。ギリ昭和。頭に関する「VLSI」という4文字に半導体関係者は感激。前回はまだ大型機の影が落ちてましたから。前回のトラディショナルなコンピュータからすると現代的なマシンにつながる概念が多くなってます。しかし方向性は?
※『Literature Watch Returns (L.W.R.)』の投稿順 index はこちら
著者は村岡洋一先生
今回の御本の著者は村岡洋一 先生です。早稲田大学名誉教授にして東京通信大学の学長様です。学長といいつついまだに担当科目を持たれているみたい。知らんけど。以下の東京通信大のホームページへ行くとご尊顔を拝すことができます。
https://campus.internet.ac.jp/faculty/teacher/muraoka_yoichi
いろいろあるでよ的な
前回の御本が、大型機を中心としたトラディショナルというかオーソドックスというかのマシンを題材にアーキテクチャを論じていたのに対し、今回の御本は、
当時としてはカッ飛んでるかもしれない
アーキテクチャに範囲を広げて、あれこれ取り上げているのが特徴かと思います。まあ、前回は「既に出来上がっている」マシンを題材に現在にいたる過程を学ぶ教科書だったとすれば、今回は「これから」のマシンを題材にしたガイドブックという感じか?知らんけど。
前回の御本でも登場したアレイ・コンピュータ、スタック・マシンなどは勿論登場。アレイ・コンピュータは現在のプロセッサがほぼほぼ備えているSIMD命令に繋がっていると思えば影響力はあった。スタック・マシンはハードウエアよりソフトの方かね。
1980年代後半のRISCの大躍進時代の御本なので、当然RISCに関する言及もありです。「リデュースド・インストラクション・セット・コンピュータ」とフルに綴られた章になってます。RISCで決まりだ的なスタンスではなく、まだおっかなびっくり的な感じ。
また、TANDEMのNonstopコンピュータ、フォールト・トレラントなマシンについても触れられていますな。これは現在のサーバー機にも血脈は残っていそう。そういえばTANDEMがHPに吸収されたのって何時だっけ?TANDEMはスタック・マシンやMIPS、VLIWなどいろいろ関係していた筈。そんなことは書いてないケド。
また、データフロー、シストリック・アレイ、VLIWといったアーキテクチャも登場してます。VLIWといえば有名なのはItaniumだけれど、このご本はItanium以前。現在はItanium後(消えたわけじゃないと思うケド)、当然、当時と同じ視点では見られませぬ。
このご本にも「人工知能」マシンも登場しますが、時は1980年代末です。とりあげられているのは、LISPマシン、PROLOGマシンなどです。今の「人工知能」とは別口の奴らね。そういえば日本の偉大な国家プロジェクト、ICOT様の「第5世代コンピュータ」(1982から1992)ともろ被りの時期に書かれたご本の筈ですが、あんまり力が入った記述でないです。既に見切っておられていた?ううむ。
結構、御本の中にはその後の発展につながるアイディアも散見されるのですが、その方向性が今に直結しない感じです。例えば「画像処理マシン」、現在のGPUに繋がる流れかと思えば違いました。とちらかというと「ワークステーション」の章にちょこっとでてくるグラフィック処理プロセッサの方が現在のGPUに繋がる流れに見えます。ただし、とりあげている流れは古代に絶滅してしまった系統かと、残念。
末尾の方の光コンピュータの後の最末尾にニューロン・ネットワーク・コンピュータが登場します。一か所引用させていただくと、
この他にもいろいろな問題があり、今後の研究の発展が待たれる
というまとめ方です。御存じのとおり、ここから現代の人工知能(AI)が大ブレークを果たすわけですが、この時点では、ハードウエアのニューロンだったからか、この分野を目指す若い人がしり込みして居ないので、誰かやれよ、という感じを受けます。今のNVIDIAの時価総額がそのころ分かったら皆やっただろうに。。。