特許の失敗学[19] 事例研究(2) Aピラー透明化 その2

特許の失敗学 前回は、アイデア「Aピラー透明化」の先行技術調査でした。「最低限の費用で特許収入を目指す」ミッションとしては、特許調査の結果で特許出願をしない場合、そこで終了してはなりません。発明の特許出願がありながら、その発明の実施が無い(量産されない)場合は理由を考えてみます。特許登録も大変ですが、そこから特許収入を得るのはもっと大変ですよ。 ◆ 特許の要件 特許要件とは、特許法の解釈によれば その発明が   ・産業上利用できるものであること(産業上の利用可能性)   ・新しいものであること(新規性)   ・容易に考え出すことができないこと(進歩性)   ・先に出願されていないこと(先願)   ・公序良俗に反しないこと 「産業上利用できる」とは、 特許法第1条「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」とあります。 その解釈は、  ・発明の物それ自体は、全く個人的にしか利用できないものであっても、それを製造販売する業者が考えられる限りは、その発明は産業上の利用可能性を有する。  ・全く個人的にしか利用できない発明は、産業上の利用可能性がない。 出典:産業上の利用可能性 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 その発明が業として儲かるかは要件ではありません。特許庁の審査では特許の経済的価値は審査されません。発明が実施(量産)されてはじめて、「産業の発達に寄与」が完結すると考えるのは私だけ? とはいえ、発明の実施可能性の判断は非常に困難であり、特許庁の審査官は判断しないですし、特許事務所の弁理士も訊かれた場合のアドバイス程度でしょう。特許の発明が役に立つかは、出願人(特許費用を負担する者)が判断するほかありません。企業の場合は会社組織が出願人なので、会社組織として特許権利化の判断ができます。 会社が特許を取得する目的は、ライセンス収入以外にもあります。例えば、自社技術の保護、後願排除、標準規格などの交渉利用、クロスライセンス、企業ブランド、などなどです。たとえ発明の実施可能性が低くても、出願権利化の必要性があります。 個人発明家の場合、基本的にライセンス収入が目的であり、資金も限られるため、売れる特許権利化を目指すべきです。そのためには、『筋の良い発明』を見究める必要があります。 ◆ 阻害要因 特許の業界では「阻害要因」という言葉を使います。通常は特許審査の過程ですが、特許の実施についても「阻害要因」は考えられます。発明が特許登録されても、世の中に普及していない場合は、なんらかの「阻害要因」があるはずです。無い知恵を絞って考えてみますに、   (a)発明の課題が重要でない   (b)発明の実施コストが高い   (c)発明の実施が技術的に困難   (d)発明の実施に回避手段がある   (e)発明の技術寿命が短い   (f)法律・公序良俗に反する   (g)大人の事情(政治、慣習、宗教) 「Aピラー透明化」の発明はどうなのか。一部の自動車で実施されたという情報もありますが、発明が広く実施利用されているとは思えません。 (a)交通安全のために課題は重要でしょう。 (b)実施コストは量産すれば解決しそうです。 (c)技術的には容易です。 (d)これか? (e)(f)(g)「阻害要因」として考えにくい。 ◆ 先行技術調査の補足 回避手段に相当する記事がありました。 出典:Gigaine 2019年11月01日 20時00分 乗り物 14歳の少女が車の死角をなくして交通事故を減らすシステムを開発、 「シンプルだがエレガント」との評価 https://gigazine.net/news/20191101-girl-invent-remove-car-blind/ 個人が課題解決を実施可能では、「Aピラー透明化」の発明は売れまへん。 更に決定的なものが、Bingの画像検索「Aピラー透明化」にありました。 自動車のAピラーにタブレットをガムテープで貼り付けた画像があります。安いタブレットを利用し、カメラ映像を適当に加工して表示するソフトウェアを実装すれば、「Aピラー透明化」解決してしまいます。Bing検索侮りがたし。 ◆ Afterword 下ばっかり向いてちゃダメだ。目線はもっと遠く。出典:映画『銀色のシーズン』 2008年のスキー映画です。『燃えよドラゴン』の「Don’t think! Feel.」に似たテーマに気が付きました。 Arahaはスキー検定2級の試験に何度も失敗して受験を断念したヘタレですが、「目線はもっと遠く」はわかります。モーグルは足元のコブを見てばかりいたらダメです。目線は遠く、全身をセンサー・アクチュエーターとして働かせないとスピードは出ません。 出典:桂木良子のホームページ 銀色のシーズン http://ryokosan.music.coocan.jp/cinema2008.html#73  この映画に強いメッセージは込めていない、と言う羽住監督だが、「下ばかり見るな!!目線は遠くに!」という、スキーレッスンの言葉に借りた人生へのメッセージは充分に伝わってくる。