<これまでのあらすじ>
サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化による水平方向成長をものともせず、同期の工作君とトム君とも一緒に毎日忙しくやっています。それにしても青井倫吾郎さんからの電話が途中で切れてしまうという不運に見舞われ、アポなし状態です。でも、起死回生の一発が?
第46話 再会はお味噌売り場で
私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社で10年になりました。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。しかも、同期の富夢まりお君も島工作君も一緒で、何てステキ!と思いきや、思わぬ落とし穴が・・・。だって美味しいレストランが多すぎて、私の見事な肉体(笑)にも水平方向成長化という由々しき異変がおこり、偶然再会した“青井の君”には私だと認識してもらえない事態になったものの、後日お電話を頂き、ディナーのお約束を。しかし、途中で電話が不通になり、アポは成立していません。とほほ。そんな折りに、マーケティングのロバート君から青井倫吾郎さんにコンタクトを取りたいとの依頼が・・・。
連載小説であり大河小説である本小説は、紆余曲折しているうちに46回目を迎えました。何の節目でもない46回にこのような事を申し上げるのはいかがなものかとも思いましたが、46回ともなると一年が見えてきたという事でして、あと数回連載に穴をあけなければ、52週に達し、祝1年穴あけず連載!となる予定なのです。
マーケティングのロバート君から頼まれた青井倫吾郎さんへのコンタクトですが、大したアクションも取れないまま、日々は過ぎていました。アクションの案は以下の4案でした。
- 以前、倫吾郎さんと偶然再会した日本食レストラン「江戸は東京」で張り込む。また来るかも。
- 母親を通じて倫吾郎さんのお母様から倫吾郎さんの電話番号を聞き出す
- Appleの全事業所に電話をかけまくる
- 倫吾郎さんからの電話をひたすら待つ
このうち、案1を一応実行してはみました。2回ほど「江戸は東京」へ行って様子をうかがったのです。ま、2回ともビジネスディナーでたまたま行ったのでしたが・・・。
で、結果、お会いできておりません。
案2はかなりヤバいです。なので実行しておりません。
案3は躊躇します。
という訳で、本来的には行動力は結構ある方のワタクシなのですが、殆どアクションが取れないまま、日々は過ぎていったのでした。
毎日ロバート君とオフィスで会うたびに、どう? と聞かれるのですが、検討中としか答えられず、はや2週間。ちょっとダメダメですね、私。
そこで、もう一つの案を考えてみた訳です。次の案は、
- 日本食スーパー「ヤオハン」で土日に張り込む
です。
私の想像によれば、きっと、倫吾郎さんはクパチーノあたりに一人暮らし。時にはヤオハンで日本食を買い物するのではないか? という訳で、早速、その土日に、ヤオハンへ行ってうろうろしてみる事にしました。
結果・・・
おミソ売り場で、いとも簡単に「青井の君」と再会してしまったのです!
「あ」
「あ」
「倫吾郎さん」
「舞衣子さん」
私たちは、再会しました。いろいろな種類の日本の味噌が並んでいました・・・。
「ずっと倫吾郎さんを探していました」
「え、私を探してくれていたんですか、舞衣子さん?」
「はい、だってその後、全然電話がかかって来ないのですから」
「え? 電話をかけるべきだったのですか?」
「はい、だって、この前は電話が切れてしまって、かけ直してくださると思っていたのに、ちっともかかって来ないんですから」
「え? 電話をお切りになったのは舞衣子さんの方ではなかったのですか?」
「え? どうして私が電話を切ったと思われたのですか?」
「突然切れたので」
「あら、切れちゃったと思ったのは私の方で・・・」
「え、そうだったのですか? てっきり、なかなか話が進まないのでもういいです、って切られてしまったのかと・・・」
「そんな失礼な事、する訳ないじゃないですか、倫吾郎さん」
「あ・・・」
「でしょでしょ」
「・・・それはそうですよね・・・何だか、自分が不躾な電話をしてしまってお気を悪くされたのだろうかと勘違いしてしまって、その後、連絡できずにいました。すみません」
「そんな、気を悪くするだなんて。もう、倫吾郎さんたら、うっかり八兵衛なんだから~」
「ああ、すみません・・・」
精悍な容姿でシュッとしている青井倫吾郎さんですが、時としてこんな事もある方のようでした。あ、因みに「うっかり八兵衛」というのは、OKと言う時に「OK牧場」と言うのと同様に、うっかりする事を表現する言葉として、流通していました。水戸のご老公のおかげですね(クスッ)。
「倫吾郎さん、ところで、ロバート君って知ってます?」
「ロバートという人は知っているだけで10人くらいいますが」
「そうですよね。いっぱいいますよね」
「はい」
「UCバークレーで一緒だったロバート君です。今、SS-Systemsで一緒に働いているんです」
「ちょっと待って下さい。ロバートですか、バークレーで一緒だった?」
「はい」
「ロバート・キャンベル?」
「いいえ」
「ロバート?・・・」
「香港系の方です」
「おお、ロバート・チェンですか?」
「はい、ロバート・チェンです」
「ああ、懐かしい。よく一緒に飲みにいきましたよ。彼が舞衣子さんと一緒のお仕事をしているんですか」
「そうなんです。私、倫吾郎さんがUCバークレー出身だという事もロバートから聞いて初めて知ったんですけど」
「あれ、言ってなかったでしたっけ?」
「はい。これまでお会いした時は、ちょっと会話がぎこちなくて」
「そうでしたか。でも、私は舞衣子さんが早慶大出身だという事は知っていますよ。どうしてかなあ? 明治神宮でその話しませんでしたっけ?」
「いえ、あの時は色々お話する前に人混みに紛れて離ればなれになってしまって、私、原宿駅で待ってたんですけど、ちっとも見つからなくて・・・。心細かったです」
「え?」
「お待ちになっていたんですか? てっきり、お帰りになったものかと・・・」
「そんな事ないです・・・」
何しろ携帯電話がない時代でしたので、いったん離ればなれになるとずっと離ればなれという事が当たり前でした。それにしても、倫吾郎さんって、うっかり八兵衛なのか、何なのか???
でも、そんなところもキュートに思えて、ようやく会えた「青井の君」に胸キュンなのでした。
この先、私たちはどうなっていくのでしょうか、ですか? そのあたりの事については、またおいおいお話させていただきますね(うふっ)。次回もお楽しみに。